第20話 『夜空』の誘惑
『大罪の魔王』を閲覧していただきありがとうございます!
『大罪』の魔物が揃いはじめたので、いよいよ好き放題出来るので書いていて、とても楽しいです。厨二心がずっと震えています。
第20話よろしくお願いします!
アヴァロンから放たれた雷の矢は着弾した闘技場の壁の一部を無かったものかのように綺麗に消し飛ばしていた。
しかし着弾点はアヴァロンが向いていた場所から右に30度もズレた角度にある壁だった。
その射線上の抉れた地面は焼け焦げた跡と肉の焼けた臭いを放っていた。
「グラントさん! ど、どうすれば」
「ぐぅぅ…ぁぁ…」
アヴァロンから放たれた雷撃はツララの変化した分身など意味が無かったかのようにグラント本体へと方向を変えて襲い掛かっていたのだ。
あまりの速さにまったく反応できなかったグラントは無抵抗のまま左腕のほとんどを消し飛ばされてしまっており、傷口も焼けただれてしまっている。
スキル:『無限彼方まで届く雷霆』 EXランク
・アヴァロンが認識した対象に確実に直撃するように進む。
・時空間魔法や闇魔導による別次元に逃走されても雷撃が次元を移動する。
・SSランク以下の防御スキルやアビリティを貫通し消滅させる。
ツララはもうどすればいいか分からなかった。
グラントは戦闘不能になってしまい背負って逃げるにも、先ほどの攻撃を避けることは絶対にできない。
そしてどんだけ頑張ってもあの鎧に攻撃を届かせることもできていない状況。
絶望的だ。
自分はSランクにまで上り詰めたパーティーの一員であるが、目の前にいる魔物は個人でSランクやSSランクを所得している英雄たち以上の存在に感じてしまっている。
ツララの心が完全に折れそうになったその時。
1人の声が闘技場に優しく響き渡る。
「終戦かな?」
ツララが顔をあげて声のしたほうを見ると、鎧の隣に白い髪をした男が立っていた。
男が語り掛けてくる内容にツララは諦めたかのように頷いてしまった。
◇
カイルと二ナは息の合った連携でスケルトンの集団を片付けていた。
二ナの付与魔法で様々な強化を受けたカイルの双剣技が銅の鎧をまるでバターのように切り裂いてしまう。
レディッシュの竜槍と同じ火竜の素材を多く使用されている双剣「火竜王フレアデス」は持ち主の火魔力の力を覚醒させ火竜のような力も得られる武器だ。
難なくスケルトンから鍵の形をしている剣を手に入れて、集合場所へスケルトンを退けながら向かっている途中だ。
「それにしてもこの大きさは持ってくのが大変だ」
「重いです」
双剣というスタイルがゆえに両手が塞がり物を持てないカイルの代わりに二ナが銅の鍵を持つがさすがの重さに苦労しているようだ。
「水分補給しようか」
「そうですね」
少し建物の中に入って休息をとる2人。
腰を下ろして水分補給を行う。
カイルは疲れていないが、二ナは慣れない重いものを周囲を警戒しながら運んでいるので少し疲労の色が見える。
(緊張してるのをバレないようにしなきゃ)
二ナは魔物に気付かれないように少し近い距離で建物の中で隠れている現状に緊張していた。
「紅蓮の蝶々」の中で新参者である二ナ。
彼女がこのパーティーにどうしても入りたかった理由はカイルがいたからだ。
カイルは覚えていないだろうが、二ナはパーティーに加入する前に一度魔物に襲われていたところをカイルに助けられている。
その時からカイルを追い続けてきた二ナにとってはカイルとの仲を深めていくチャンスの時間でもある。
(2人で休憩するためにこの鍵を重いなんて言ってしまった)
付与魔法を使って筋力強化すれば銅の鍵なんて楽勝なんだが、ダンジョン内なのに欲が出てしまったのだ。
これも今のところ苦戦するところが無い余裕がもたらしてしまった感情だ。
「鍵に何か彫ってあるね」
カイルが鍵に彫られた文字に近づき読もうとする。
いきなりカイルの顔が迫ってきて二ナは少し慌ててしまう。
二ナは自身の体温が急激に上昇していくのを感じ、一旦距離をとってもらおうと何の躊躇もせずに彫られた文字を読んでしまう。
「よ、読みますから! ち、近いです」
「あぁ! 悪い!」
「えぇっと…「我背負うは『色欲』の『大罪』」って、これはっ!?」
――ヒュイィィンッ!
読み終えた瞬間に気付いた二ナだったが、気付いた時には2人は転移魔法でどこかへ消えていた。
◇
「二ナ、合言葉は?」
「青い蝶々」
「よし…どこだここ?」
2人が気付いた時には真夜中の小さな村にいた。
星空が綺麗でとても空気が澄んでいる。
人が住んでいるんじゃないかと思うほど生活感あるエリアだが、人の気配はまったく感じていない2人。
「ご、ごめんなさい。油断してました」
しょんぼりとしてカイルに謝罪する二ナ。
自身の魔法で上位ランク以外の罠で作動する魔法を無効化しているのもあって油断してしまっていた。
取り返しのつかない失敗をしてしまったと自分を強く責めてしまう二ナ。
魔物の気配も人間の気配も何もなく、高地に存在してるかのような澄んだ空気と景色の良さ。
ダンジョンじゃなければゆっくりしたような美しい場所でもあった。
――ゴロロッ ピチョンッ!
「急に雲が出てきた」
「雨ですね」
ものすごい勢いで出現する雨雲に少し戸惑ってしまう2人。
綺麗な星空は嵐を思わせる巨大な雨雲が隠していき、勢いよく雨が降り始めてきた。
「いきなりだな!」
「一旦建物に隠れましょう!」
転移されて突然の嵐に戸惑いながらも建物の中に避難する2人。
さすがにびしょ濡れになってしまい、村にあった1軒の家に入ったものの、びしょ濡れの体で奥まで入らないところを見ると育ちの良さが見える。
「うぅ…本当にごめんなさい」
「気にしすぎちゃダメだ。もしかしたら同じような罠で他のメンバーも転移されてくるかもしれないな」
カイルは目を逸らし上を向きながら頭を悩ませる。
二ナがびしょ濡れになったローブを脱ごうとしているからだ。
別にローブの下が下着というわけではないのだが、何故かカイルの胸の鼓動は激しくなっていく。
身体が熱くなってきてドキドキしてしまう。
「す、少し休みませんか? 乾かしたいです」
「そうだな。少し休もうか」
二ナの顔もほんのりと赤くなっている。
カイルと同じように、二ナの身体も熱くなってきて普段でも意識してしまっているのにさらに意識してしまう。
ローブを脱いだ自分をチラチラ見ては顔を赤くしてくれるカイルを見て淡い想いをダンジョン内ながら抱いてしまっていた二ナであった。
2人は自然とベッドの置いてある部屋に入っていき、腰を下ろして現状について話し合う。
「何の気配がないのも変ですね」
「あぁ…ここがダンジョンなのは変わりないから何かあるはずだ」
不自然なほど綺麗な村。
突然の嵐まで訪れて訳が分からない状況だし、この状況はダンジョンであることを忘れさせようとしてるんじゃないか予測するカイル。
横にいる二ナを見ると、妙に色っぽくて見慣れているはずの水色の髪がとても魅力的に感じてしまっているカイル。
2人とも話しながらチラチラと互いの顔を見ては背けるのを何度か繰り返し、話す内容は無くなってきたが、外の嵐は勢いを増してきていた。
「どんどん強くなってきましたね」
「あぁ…これじゃ気配を読みづらい」
こんな嵐じゃベイルが転移してきても自分たちの匂いを追いかけるのは難しいだろうと感じるカイル。
ダンジョンの中なのでずっと嵐の状態なエリアだと考えるのならば今休んでいるのは無駄な行為かもしれないと少しだけ感じはじめていた。
「くしゅんっ!」
「大丈夫か?」
さすがにびしょ濡れになったので一気に身体が冷えてしまったのか二ナの身体が震えている。
カイルは二ナに駆け寄り、ベッドに座っていた二ナの横に腰かけて声をかける。
「うぅ…迷惑かけてばかりです」
「いつも助けられてるから、こんなことくらい気にしちゃダメだって」
自分でもこんなキャラじゃないなと思いながらも、何故かカイルの手は二ナの髪を優しく撫でるように動いていた。
二ナも満足そうにカイルに撫でられており、少しずつカイルのほうへと体を傾けて体重を預けていた。
気が付けば2人の身体はほとんど密着しており、完全にダンジョンにいることを忘れて互いのことしか考えることができていない男女の図が完成していた。
互いに身体が近づいていくごとに感じる甘い匂いに酔いながらもカイルは手を止められずに、二ナも完全に身体を預けきるのをやめられないでいた。
少しの沈黙が続き、二ナが沈黙を破るように口を開く。
「時間が経っても嵐が止まなかったら諦めて探索しましょう」
「それしかないな」
「それまでは2人でゆっくりしたいです」
「あぁ…」
カイルの脳裏に密かに想いを寄せ合っているレディッシュの姿が出てくるが、何故か頭の中に桃色の霧がかかって消えていく。
この火照った身体をどうにかしたい。
目の前にいる魅力的な少女が身体を完全に預けてきてくれる。
何かを期待している二ナの顔を見てカイルは自分を抑えることができずに二ナをゆっくりと押し倒す。
「ひゃっ」
「ゆっくりしよう」
「は、はい…」
カイルは二ナに覆いかぶさり、優しく頭を撫でながら二ナの顔に自分の顔を近づけていった。
2人は気付かない。
自分たちがいる村の上空以外は綺麗な星空が広がっていることを。
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