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異世界を彷徨う小学生 ~とある学童の拳と足跡~  作者: 黒雁 田鉚
第1章 少年が見た夢の先
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1章 4 夢に見た世界での歓迎会

あらすじ


武芸者を志す半雪男の少年<千ヶ瀬 凩>

ある時、幼馴染の幻覚を見せられ光の渦に飲み込まれ

この世界から姿を消した

光の渦中


今、一体どうなっているというのか

落ちているのか、浮いているのか、引き寄せられているのか、吹き飛ばされるのか

どれも正しい様で間違っているようにも感じる


ただ解っているのは止まってはいないという事だけ



そんな中、凩は平静を取り戻すべく自身の体を調べていた

〔自分の脚は見える、目はやられていない〕

〔耳を触れば触れられた感覚もあるし、こすった音も聞こえる〕

〔指・・・手・・・腕・・・肩・・・足・・・腿・・・胴体・・・よし問題なく動く〕

〔次ににおいは―――お?〕


遠間に漂うだけだった光の粒が纏わりつくように迫って来るのが見えた

〔何か起こるな・・・元居た冷凍室に戻ってくれれば・・・〕


本来なら得体の知れない光の粒子など振り払うべきなのだろうが

現状が現状であるが故に敢えて受け入れる事にした

「さあ、来い!」

光の粒子が密度を増し霧となり完全に凩を包み込んだ




光の霧が晴れた

凩の周囲八方には輝いている何かよく解らない装置のようなものがある

また、壁際にはわずかに流体の入った容器が置いてある

〔周囲の確認―――間違いなく冷凍室じゃないね・・・でも見覚えのある場所だ、一体どこで〕


「――――」

間近で声が聞こえる

〔人がいるのか?―――!?〕


目の前にいるのは180cm弱・90Kg強・年齢40手前程度に見える男

〔こいつ・・・まさか・・・〕


大きく驚く凩を見て小太り男は嫌な笑みを浮かべた


「―――」

再び何かを言ったようだが、動揺から立ち直れない凩の耳には留まらない

尤も例え留まったとしても何を言ったか理解できないだろうが


次の瞬間、八方の装置が再び輝き凩の頭部に向けレーザー光線のようなモノを撃ち込んできた

例え万全に構えていても回避困難な光線を今の凩は躱せるはずもなくモロに浴びてしまう

全身の筋肉が攣ったかのように筋肉が強張り硬直した


こむら返りを経験したことがある人なら解ると思うが、筋肉が攣るのは凄まじく痛い

ふくらはぎを鈍刀で裂いているのではと思うほど痛い

つまり今の凩ならば差し詰め『鈍刀で全筋肉を裂かれる』という感じだろう


だが恐ろしい事にこれだけではない

光線が撃ったのは頭部、当然頭の方も相当なダメージが入る

それはまるで脳が熱で膨張しそれを巨人がヘッドロックで強引に膨張を押しとどめようとするような

内外からくる激しい痛みだ


これ程の痛みを感じているなら気絶しそうなものだが、何故か気絶しない

・・・いや出来ない?


視界に妙な輝く流体が横切っていくのが見える

まるで苦痛の身代わりになろうとする様に凩の体から放出され―――

―――いや止まった



「なんだもう終わりか、もう少し楽しめるかと思ったのによ」

そんな意味の言葉が聞こえる


一体どれほどの時間が経ったのだろうか、秒か分かそれとも時間か

凩は攣りと痛みから解放された


『いきなりコレとはご挨拶な事だな』

「解る言葉を使え、ガキが」


そこでようやく気付く

「ならこの言葉は解るか!?」

「おい、言葉遣いがなってねぇなぁ」


初めて聞く言語だが何を言っているのか理解できるし話す事もできる

「さっきのあの光線で言葉を植え付けたのか?」

「やっと理解したか、鈍いヤツだね~」


あまりの出来事の連続にこれ以上の言葉が出ず、行動をとりあぐねていると



「ったく、言葉教えてやったのに感謝の言葉もねぇとは・・・」

そういいながら小太り男は長鞭を取り出し

「教育が必要みてぇだなぁ?」

凩を威圧してきた



〔なんてこった・・・これは〕

だが凩は逃げない、いや逃げられない

ここは鍵付きの室内、外の景色はひたすらの荒野


そして―――

〔踏み込んできたっ!〕

ここは―――

〔考えるのは後だ!〕

間違いなく―――

〔間合いが遠すぎる・・・〕

あのとき夢で見た異世界―――

〔鞭を鳴らすだけ、威嚇か?〕


「いでえええぇぇ!?」

驚きの混じった男の悲鳴

踏み込んだ男の脚にいつの間にか凩の関節蹴り(膝への前及び横蹴り)が突き刺さっていた


〔的っ!が、折な――っと〕

痛みの反射で繰り出される打撃とも掴みともつかぬ男の暴れだ

凩も反射的に蹴り脚をさらに押し込みその反動で距離を開ける


「このクソガキが!!なにしやがる!!」

〔思わずカウンター取ってしまった・・・話し合いは・・・したくもない!〕


怒り狂った男は怒りのままに鞭を振り回す

かなり雑な動きだが、速さは中々のもの

この中つっこめば被弾は必至、好き好んで行く間合いではない


〔間違いない、これは数日前に見た夢だ!〕

〔夢はたしかここまでだったかな〕

だが今は急場、あれこれ考えている場合ではない

もう失敗はしない


だから、冷静になる呪い(まじない)の言葉で頭を支配させる




『大したことではない』と





「ここの世界について色々聞きたいんだけど教えてくれない? そしたら感謝くらいするけど」

「うるせえ、もうゆるさ[タンッ]凩が突然巨大化した―――否、不意を突いたステップインだ

〔踏込――ジャブ!〕

             〔なん[ビツッ]目っ!〕

〔的っ!――勢い、もっと〕

             〔見えな[グム]喉っ〕

〔ラリアット――効っ!〕

             〔苦し、呼吸を〕

〔理想的!このまま地面に〕

             〔浮いて、苦し・・・いや何だ?この感[ガズ]〕


凩と小太り男は本棚に激突し、豪快な音をたてて二人ごと倒れた

ジャブで目打ちをし、怯んで体を丸めたところへラリアット式首投げ。電光石火のコンビネーションだ



格闘技は大きく分けて「打撃」と「組技」がある

打撃はシンプルな攻撃手段故、拍子が早く複雑な技術を必要としない利点がある

だが、組技と比べるとどうしても攻撃力に難があり

現在、凩が臨んでいる状況の様に大きな体重差があると絶望的に威力は望めない


しかし、命中箇所においてはそうも言っていられない

例えば『目』砂粒や羽虫でも辛いのに、それが拳であった日には・・・



次に組技(投げ・関節)だがこれらは打撃より遥かに複雑である上、拍子も遅い

さらに密着する必要があり失敗した時のリスクは尋常ではなく高い

しかしその分威力は絶大で、モノによっては『(自分の全体重+相手の全体重)』となり

さらに高低差を利用すれば子供が大人を容易に倒す事ができる程の威力になる



凩はその辺りは徹底的に叩き込まれているので実戦でもスムーズに実行できた

通常なら首投げの体勢のまま寝技にもっていければ裸絞で勝負あり・・・だった


だが、不運にも投げた方向が想定よりズレ、床ではなく本棚にぶつかってしまった

これにより凩の掛けていたフックが外れ、二人は別方向に弾きとばされる


〔クソっ!チャンスだったのに!!〕

例えフックが外れても投げが完全なら相手は相応の隙を見せただろう

だが、十分な落下速を得ていない状態で本棚にぶつかった為

本棚がクッションとなり、投げのダメージは大幅に削られてしまった


そして別方向に弾き飛ばされたという事は


「ガキがあぁっ!殺すぞっ!!」

〔やりなおし・・・だ!〕


再び大きく間合いが開き長鞭が得物の小太り男の間合いになる



〔もう奇襲はそうそう成功しないだろうな・・・〕

「死ねぇぇ!!」

思考を遮るように小太り男は鞭を大振りで薙ぎ払う

だが、怒りで平常心を失っているせいかまるで狙いがなっていない

距離も方向も見当外―――いや、作戦通りか!?


〔こいつ!装置を!〕

小太り男は転移と記憶操作に使ったと思しき装置や機械に鞭を当てた

何かが割れた音が響き、ヒビの入った機械から何かの液体が漏れ出す

暫くすると装置の発光部が不自然な明滅を繰り返したのち・・・沈黙した


〔退路を完全に絶つ気か!!〕

そもそも凩は機械の動かし方を知らない

だが万が一適当操作で当たりを引くという事もなくはないので、逃さないという意味では愚策ではないかもしれない


小太り男は相変わらず聞き苦しい事を喚き散らしながら鞭を滅茶苦茶に振り回す

〔鞭の実物は初めて見るが・・・見切れるか?〕

凩は間合いを外し観察し鞭の特徴を考察する



攻撃の質はよく『重い攻撃』と『鋭い攻撃』に分けて語られる、そして『鋭い攻撃』とは軽くて速い攻撃の事をさす

鞭は革などで出来ており非常に軽く、鞭先のトップスピードは音速を超えると言われる程速い

つまり鞭は『鋭い攻撃』をする武器という事だ


『鋭い攻撃』の特徴は攻撃命中箇所の表面で炸裂し内部まで浸透しない、逆に言えば殆どの攻撃エネルギーが表面で発揮されるという事

そして人の痛覚神経は皮膚の浅い位置に存在する。だから攻撃のエネルギーが表面で全て発揮される鞭の攻撃は・・・

『恐ろしく痛い』



〔よし、考えは整理できた・・・とはいえ、動ける範囲も狭まってきたな・・・〕

小太り男は鞭を振り回しながら凩を追いかける

特に戦闘訓練をしていないと思しき小太り男の動きは酷いものだ

だが作戦なのか偶然なのか、それとも才なのか。凩を次第に部屋の角に追い詰めていった


「おやおや・・・もう鬼ごっこは、おっと!」

凩はセリフを遮るように飛び込むが、小太り男は素早く反応し鞭を振り下ろす


〔躱せな、防御![ピシャッ!]〕

被弾!

「死ね!喚け!のたうち回れ!」

容赦ない連撃!凩、避けられず被弾!被弾!被だ〔間合!〕[ギャッ]

「ぐ」

小太り男の腹に凩の拳が突き刺さった、だが威力不十分!

〔クロスレ[ピシャッ]ンジ!〕

             〔この[ドッ]ガキ!〕

〔畜生[ピシャ]〕

             〔なんで[ゴツ]〕

〔今度[ピシ]はオレの〕

             〔逃げ[ド]ないで〕

〔方が追[ピン]う番かよ!〕

             〔追ってくんだ!?[ドズ]〕


完全攻勢の凩に対し逃げ腰の小太り男。凩、明かな優勢

まるでハイエナの狩りを思わせる光景だ

追いかけながら撃つ拳という事で矢張り体重が上手く相手に伝わらず決定打に欠く

だがハイエナのスタミナは驚異的だ、うっすら汗を掻くに留める程度。呼吸など微塵も乱れていない

獲物はいずれ追い付かれ狩られることだろう



しかし何故、凩は鞭の嵐を平然と耐えられているのか?


先に説明したように鞭の攻撃は表面で炸裂する

逆に言えば表面さえ何とかしてしまえば効果は激減するという事だ

ではどうやって何とかする?


一番簡単な対策は『服を着る』

創作物などで鞭打ち拷問に掛けられているシーンで裸にされているのはそれが理由だ


さらに凩は自分なりの『常在戦場』を実践する為に

普段から擦過傷など軽度の傷防止を目的とした全身を覆う丈夫なインナーを常に着るよう心掛けている

(実際に寝技を含む組み技ではこの手の装備は非常に効果が高いので、間違った心構えではない)


だが如何に丈夫なインナーとはいえかなりの薄手、これだけでは完全に攻撃を遮断できない

ではどうやって?


その秘密は凩自身にある


凩は武芸者を名乗ってはいるがまだ精神的に未熟な部分も多く

『如何に生き残るか』とか『如何に相手に攻撃させずに有利を取るか』という考えより

『如何に相手を撃ち沈めるか』という考えが強い

つまり小さな『ダメージは無視して相手にそれ以上の痛打を与える』という事だ


その手の考えは常在戦場的観点でも近代格闘的観点でも良い顔はされないだろう

だが、この場では悪手ではなかった


『骨も砕けない』『皮すらロクに破れない』そんな『ただ痛いだけ』の攻撃

そんなモノに怯んでいるようならそれこそ武芸者は名乗れないだろう


仮にインナーが無かった時、凩はどのような対策をしたか気にはなるが

そんな仮定は今は無価値でしかない



〔よし、追い付いてきた!〕

凩の拳は小太り男のスタミナを確実に奪っていた

しかしまだ倒れるには至らない。対格差の恩恵は想像以上に小太り男を守る


〔ガギィ・・・ッ!〕

最早焦りから口調だけでなく思考まで無様にみすぼらしくなる小太り男

最早、鞭を使う事まで知恵が回らなくなったか鞭を持たない手も滅茶苦茶に振り回す


こんな素人の拳など凩にとっては容易く―――

―――否

〔クソっ!何だよその無茶苦茶なスイングパンチは!〕

打撃の捌きなど慣れているはずの凩がカウンターを諦め大きく躱す


武術を知っている人の攻撃は洗練されていおりキレはあるが、パターンが少なくなってしまいがちになる

逆に素人の攻撃は威力もキレも粗末だが、いつどこからどう来るか読み辛い場合が多々ある

現に剣術等では『目録位程度の攻撃が一番見切りやすい』と言う意見も多くある


〔コイツ案外スタミナあるな!これだけ出鱈目に動い[ブオン]チィッ!〕

先に『威力ない攻撃』と言ったがそれは同じ程度の体重であればの話

倍程度も体重差がある現状では当てはまらない。つくづく体重差とは厄介なものだ


「いい加減死ね!」[ブウン][シュ]

腕の振り回しと鞭による雑な2連撃だ!

〔間合いが詰められな[ガツ]な!?〕

凩、後ろから飛んできた燭台に脚を刈られ転倒する

小太り男の鞭先が燭台に偶々絡まりそれを強引に引いたところ上手い具合に足払いになった様だ


[ガギッ]

そしてさらなる不運、受け身失敗

荒れた室内だったが故、背中が地面に着くより先に後頭部を倒れた機械にぶつけてしまう

〔――――っ!!〕

スタン発生

根性もクソもない。体の構造的問題で2呼吸3呼吸程まともに動けなくなる


〔――――――〕

体だけでない、思考もだ



痛恨の一撃

凩、武器持ち相手に無防備を晒す

今後は

3日に1本、4000~5000字を目標に投稿出来たらな

と、思います

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