表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を彷徨う小学生 ~とある学童の拳と足跡~  作者: 黒雁 田鉚
第1章 少年が見た夢の先
3/23

1章 1 武芸者志願の日常

ここより本格的に物語開始

少年は混濁した意識から回復する

どうやら夢を見ていたようだ


〔やな夢だったな・・・現実じゃないとはいえ下手を打っ―――ッ!?〕


上体を起こそうとしたが全身のそこかしこが痛み上手く起き上がれない

痛みに反射的に声を上げようとするが口回りが強く痛み呼吸ごと声が詰まる

そこで思い出す、気を失う直前の光景




――――――――――――――




少年は構えをとり緩やかに間合いを詰める


相対する男はヒョロ長でふてぶてしい半笑い面

緩く構え『先手をどうぞ』といわんばかりだ



いや『いわんばかりに』ではない現に少年が間合いに入ってきたというのに動かない

それどころかあと少しで少年の掴みの間合いにもなろうかという程になっても変わらない

先手を取らせる気なのは間違いないようだ

カウンターや捌き技狙いか?

否、単に舐めているようだ



その事を察したか少年は少々不機嫌になるが

体格やリーチに劣る少年にとってはこの状況は好機である事には違いない



ただ、貰った好機をそのまま受け取るのは危険と判断したか

少年も一応警戒して正面をはずし回りこみ

ではない!側面移動に見せかけた掌底鉤突き(開手のフック)だ!


的!


体重の乗ったいい打撃が相手の脇腹をとらえた!

しかし、少年55kg・長身痩躯男目測95kg弱如何せん体重差がありすぎる

故に男はあまり揺らがない不発か?―――否

本命は組み付きだ

少年は放った掌底に相手の衣服を絡みつけ、そこを支点としながら自らを相手に巻き付けるように―――



[グギュ]

嫌な音を立て少年の顔に拳がめりこむ


―――不覚、人中から下昆(※)にかけて痛打

(※人中:鼻と口の間の線 下昆:顎の中央 いずれも急所)


揺らがぬ打撃では組み付きの崩しにもならなければ、投げつけるまでの時間稼ぎにもならない

相手は冷静にその隙を逃さず意趣返しと言わんばかりのフックパンチを顔面に放ったのだ


吹き飛ばず、斜め後方へ崩れるように倒れる

最早戦意もクソもない、顔面陥没骨折・失神昏倒




―――その後の事は憶えているはずもない




冷静に当時の事を思い出し少年は悔しさと自らに対する怒りを露わに―――

―――できなかった、興奮すると小さくない痛みが走る



〔これはこれでいい薬なのかもな〕

現状を無理矢理肯定すると、再び冷たい床の上に寝転がる


〔今回はどのくらい気絶したのかな―――〕

〔―――またしばらくは冷凍室暮らしかな〕

〔あの父さんにケンカ売ったヒョロ長ヤローはどうなったのかな・・・〕

〔まあいいか・・・もう一度寝よ・・・〕



少年の寝転がる床は―――いや、部屋全体は本当に冷たい

具体的に言うとソフトクリームが一切融けない程度には

だが少年は微塵も寒がる様子はなく快適そうである



そして少年の負っていた傷が逆再生の映像如く・・・

とまではいかないが目で認識できる程度の速さで修復されていく

別にこの部屋に特殊な細工がある訳ではない、少年の体質の問題だ


少年の名前は”千ヶちがせ こがらし

人間の父親と雪女の母親を持つ半妖


しかし特異な存在ではない

何故か?



簡単な事、半妖は稀な存在ではないから―――

―――この世界は既に御伽噺の存在が普通に存在する





今よりさかのぼる事、45年程

心霊・UMAなどオカルトブーム発生

その背景には映画や書物だけでなく、少なくない超自然の目撃情報

不自然な失踪なども確かに存在した



30年程前、世界的に精密機器等の異常。無視できないレベルで年々増加

それに伴う企業倒産、内戦外戦とわず小競り合いの多発、大混乱に陥る

ただ兵器もそのあおりを受けたため大きな戦争にはならず

この頃から『超科学の力(魔法)は実在するのでは?』という説が現実味を帯びてくる



25年程前、国際会議にて正式に新たな力であるいわゆる”魔力”の存在を肯定

また魔力の存在が一時的なものでない事も判明

むしろ逆に魔力が数百年程なくなっており、それが昨今復活したという説が有力視される

そして妖怪などに対する法的な立ち位置も明確に制定される



20年程前、大規模な仕組みが必要ながら異世界への移動手段の確立

これにより異世界の技術や素材が大量にもたらされる

同時に異世界を調査する職業『斥候員』の登場



この『斥候員』こそ現在の素材・技術等の根幹を担う重要な存在なのだ



『斥候員』とは簡単にいえば傭兵と探検家の間の子とも呼ぶべき世間的に認められた職業で

業務内容は本格的な大部隊を派遣する前の事前調査と露払いが主だが荒事も多く掛け値無しで命懸けの存在だ


しかし報酬は一回50万円とそれ相応であるため、人員には事欠かない


もちろん公然生贄制度と揶揄されたり人命軽視だと体制批判される事も多いが

彼らの活躍により異世界の開発が飛躍的に進んでいるのも事実な為

黙認、または故意の見逃しが続いているのが現状だ




これがこの世界の転換期でおきた大まかな出来事

細々説明していたら本棚どころか書庫が埋まりそうな程の量になるのは間違いないのでここでは割愛する



現在は混乱も収束し新たに現れた物や術を使い技術革新が行われている

特に素材関連は技術者が色々な意味で発狂するような事態になっている



世は大きく変わった―――




教師は朗々と教科書の内容を読み上げる


給食後午後一本目の授業

『近代史』20年程前から小学校で取り入れられた教科

歴史というより、転換期以降にこの世に現れた法則を教える側面が強い

これは転換期の際、親世代も世界の現状説明が上手く出来ないという問題が多発

間違った知識で混乱されては困ると時の政府が緊急で捻じ込んだという背景がある


現状、混乱はほぼ終息しているが妙なデマや不確定情報を流す輩もまだいるので

予防的な意味でも残してある



さて、そんな授業だが解り切った事を態々教える必要もあるせいか教室は今一つ集中が足りていない

小学校にしてはそこそこキチっとしたクラスの為かあまりざわついてはいないが

静かで給食後、さらに退屈な授業

おまけに給食前の授業は体育とくれば・・・当然の如く眠くなる



「眠くなる気持ちは解るが、ちゃんと聞いてくれないと先生寂しいぞ」

茶目っ気を含んだものいいだが、反応するものはまばらだ

「おら、千ヶ瀬を少しは見習ったらどうだ? バッチリ起きているぞ」

その声に教室中の半数以上が反応する



「せんせー、千ヶ瀬くんは痛くて眠れないだけだと思いまーす」

「知ってまーす」



ふざけ半分で正解を返したクラスメイトの答えに

間を置かず教師もふざけた口調で切り返す

教室中の大半が思わず吹き出す、これによりいくらか目の覚めた者もいるようだ



教師は作戦通りと言わんばかりの表情

凩からすれば利用された形だが別段腹を立てるような事でもないのでスルー―――

―――していたのだが教師はフォローを入れる



「千ヶ瀬も大変だな、お父さんへの挑戦者だったのに、その前座をやらされるなんて」

教師の言う挑戦者とはヒョロ長の事だ




そもそも何故、凩はヒョロ長と戦う事になったのか?

それはヒョロ長が凩の父親への挑戦者という名のほぼ道場破りだったからだ



凩の父親は科学館の学芸員・・・なのだが、その科学館は異世界関連を扱いそこの職員は元斥候員も多い

そして斥候員は武芸者だったり格闘家だったりケンカ自慢だったりで腕っぷしに自信がある者が大半

故に事情を知る者からすればそこの科学館は『実戦経験豊富な猛者の貯まり場』という訳だ



つまりヒョロ長は道場(科学館)破りに来て偶々見かけた千ヶ瀬親子に挑戦状を叩きつけたという事だ

(因みに、凩の父親はレスリング畑の出で一時斥候員もやっていた)



結果は凩は先に記した通り完敗で終わっが

凩の父親はお互い無傷の引き分けで終わったらしい

・・・が、ヒョロ長は『どういう訳か』茫然自失で涙を流しながら去ったとか何とか




閑話休題



口先だけでない本気の心配を含んだ言葉だが

園芸家が泥塗れになる、登山家が野営をする、釣り人が長時間待機する

それと同じように武芸者は怪我をするもの

好き好んでなるような状態ではないが、この程度の怪我など必要経費も同然だ(凩にとってはだが)

さらに、前座をやらせたのも凩が実戦経験を積む為の父親が与えた機会だ



教師はさらに謝罪の言葉をかけようとしたが

凩の様子から不要な気遣いだったと察し話を切り上げ授業に戻・・・れなかった




「凩!なんなのその態度!!武芸者名乗ってるクセして先生への礼儀がなってないわよ!」

凩なら決して聞き間違える事のない声が何か言っていた


別に凩も教師も気を悪くはしていないのだが、凩が謝罪を流した形になったのは傍から見れば印象が悪かった

確かに凩も「気にしていない」の一言でも言うべきだったかもしれないが



「はあ・・・何なの?そのぼさっとした顔は?」

確かに凩は呆けた顔をしている、横槍を入れた少女に向けてだが


「ほらさっさと謝りなさいよ・・・あーもう鈍いわね! ごめんなさいね先生」

「確かに謝罪は必要だな。終わった問題を再度波立てて授業を止めた有谷ありやさんにはね」

「・・・え!?」



人の為を思って抗議の声を上げた少女だが逆に叱られるとは予想もしていなかった

今度は有谷と呼ばれた少女が呆けた顔をする番だ



その光景を見た凩は思わず顔を背け忍び笑いをする

恥ずかしさと馬鹿にされた怒りで反射的に凩を罵ろうとする有谷だがその声はクラスの爆笑と被さる事となる

「凩っ!アンタのせいでっ!」

「いや、鼓桃こももの勇み足だろ」

「何も無きゃ足も踏み出さないわよ!」

「てめ、何が何でもオレのせいにしたいのかよ!」

周りの生徒は喜んで囃し立てる、教師は『ああ、やってしまった』頭を抱える、そして件の二人は周りが見えていない




学級崩壊には程遠いクラスだが、この二人がケンカを始めると途端に流れが破綻する

二人とも個ではそれなりに学業・生活態度とも優秀なのだが掛け合わさるといつもこうだ

その様子は、やれ痴話喧嘩だの、やれ恒例イベントだの、やれクラス名物だの

まあともかくこの二人は事ある毎によくケンカをするのだ



凩をライバル兼天敵視する少女の名は『有谷ありや 鼓桃こもも

身長140cm後半の標準体型で、腿まで届くふんわりとしたとても長く美しい色濃い金髪が特徴の

天女と見紛うばかりの優れた容姿を持つ少女である


優しく明朗快活で賢く思慮もできる

と、ここまでなら実に完璧な人物だが

直情的なところがあり近しい者に対してはそれが顕著になる傾向がある


そして普段はその近しい者の最たる人物の凩とよくつるんでいる為

結果的にクラスでは『優しい』『明朗快活』『賢い』といった点が

『いつも凩に対しブチ切れて、常時不機嫌少女』という『定評』になっており

すでに怒り顔がデフォルトという認識だ




さて、そんな凩と鼓桃の烈火の如きケンカだが大抵は驚くほどあっさり終わる

今回は

ジュッ

鼓桃の背中から何かが焼ける音が聞こえた

「!―――鼓桃!お前羽が焼け「え? 熱っ!?」

いつの間にか鼓桃の背中に蝙蝠の羽のような巨大な翼が出現していた



凩が人外の血を引くように、鼓桃もまた人外の血を引いている

少女はダンピールとヴァンピーラ・・・つまり半人半吸血鬼同士の夫婦の子

身体の大部分は太陽光に対し人間並みに耐えるが吸血鬼部分である翼は太陽光にとても弱い

太陽光など受けようものなら魔力があっという間に変質し、比喩抜きに燃え広がる



慌てて翼を消す鼓桃

この翼は意思により出現消去自在なようだ

尤も、今回のように無意識で出現させてしまう事もあるようだが



「・・・なあ前から思っていたんだが、その翼さ・・・」

「あー、うん・・・神経あまり通ってないみたいなのよね。痛みとかもあまり感じないわ」

「そっか、気を付けろよ。髪の毛に燃え移ったらシャレにならないから」

「こ、怖い事言わないでよ・・・」

先程の罵倒合戦から一転、少女への配慮ある言葉としおらしい返答



「よし、ケンカは終わったな?授業を再開するぞ」

タイミングを計っていた教師は即座に言葉を挟む

「今回は炎上未遂とか穏やかじゃなかったな

1時間目の時みたいに消しゴムが落ちただけで止まってくれると有難いんだが」

そう言って授業を再開する



そう、このように二人のケンカはいつも大小問わず外的要因であっさり終わる

余談ではあるが、ケンカが長引いた時は教師が『外的要因』を作り出して止めているそうだ

この教師冷たい仕事人間のような見た目でありながら、かなり柔軟な行動力を持っている




放課後、掃除当番でもない凩は早々に友人達と共に学校を後にしていた

「おーい、凩ー帰ろうぜー」

「あーちょっと待ってくれー」

「ところで奥さんの怪我の具合は「誰があんな奴と!」

「いやいや、こっちは何も有谷さんの事とは言ってな「そのつもりで言ったろうが!」

「相変わらず有谷ちゃんとの事となるとムキになるねぇ・・・」

何の気ない友人達との会話


「まあいいじゃねーか、とっとと帰ろうぜ」

「いや、よくね「はいはい、雪男は黙っていましょうねー」

「今日はなにして遊ぶ?セパタクローでもするか?」

「あれゲームにならないで盛り下がっただろ!」

「じゃあペタンクで・・・」

「何でテメェはマイナースポーツばかり推すんだ?」

「ペタンクがマイナースポーツだと!?謝罪と賠償を「誰がするか!」

本当に何でもない与太話


「ここは大人しくインドアの遊びがいいんじゃないか?」

「ならスカッシュ」

「いやボルダリングで」

「アイスホッケーだって室内だぞ」

「スポーツから離れろ!」

「という事は競馬からも離れた方がいいのですね?」

「あ、競馬ってスポーツなんだ・・・」

こんな日常が何よりも貴重だと気付くのは


―――少しだけ先の未来だった

主人公のいる国は日本です

諸外国も普通にあります

但し、全てではありませんが世界各地の御伽噺かと思われていた魔法や妖怪・妖精の類が

史実に基づく事だったという大き過ぎる違いがあります


また、語られる妖怪や妖精が全て居る訳ではありません

さらに言えば上位・下位の存在とやらも確認されておりません

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ