インド人対ウニの承
『なんだこの海底洞窟』
入り口にはヒトデや小さな貝類、海藻がこびりついていてとても整備されてるようには見えなかったのに、中をのぞいてみるとそこは謎の合金で四面を囲われたトンネルだった。
小魚達がその暗闇の中でひっそりと眠りにつきピクリともせずに浮いている。
『これは……いるわね。いい?いつきてもいいように武器は構えとくこと』
『わかってるべよ。こーんな薄気味悪いとこ、怪しか思わん方が無理さね』
ジェットパックを失った今、ノナ達はほとんど徒歩に近い形で海底洞窟の中を移動していた。その先が10キロあろうが100キロあろうが関係なく行くしかない。黒幕であるあのインド人がいるのかもしれないのだから。
『……陸だぜ』
『へ?どうゆーことっすか?』
『緩やかだけど傾斜があったみたいね。数十メートル先に空気で満たされた空間があるわね』
暗闇に近い状態で、シュノーケルについた小型照明が名の通りの小型にもかかわらず懸命に照らしてくれた先に海の終わりが見えたのだ。
その先からは何やら白い光見える。それは陸があることを示しているに違いなかった。
『気を引き締めなさいよ、あんた達。これから上陸よ』
『アイアイサー』
『サーじゃない』
サーじゃないと本人は言うが、実はMTAウニは先祖と同じく雌雄同体。つまり雄であり雌である。Mr.でありMrs.である。サーだろうがマダムだろうが、正確にはどちらでも正解なのである。
それはさておき、ゆっくりと海水から這い出て秘密基地の陸海通路に上がった。そうしてシュノーケル型通信機を警戒しながらも外してみた。
「ぷはぁ!……スンスン、何この匂い!キツイわ!人間の教授の首筋の匂いと同じくらいキツイわ!」
白く清潔感のある通路からツーンとした匂いが奥からぬるりと現れ、ノナ達の鼻腔にあたる部分をダイナミックに突き刺した。
「これは……インド人間特有のKO-SHIN料とかいうガス兵器だぜ!!」
「それやばくないっすか!?」
「なんでもあらゆる粘膜を刺激してじっくりと身体をじわじわと熱して最終的には全身が痛みに襲われるんだぜ……」
KO-SHIN料。もとい香辛料。もちろんガス兵器ではない、れっきとしたカレーなどに使われる材料。間違っても人にぶっかけてはいけない。
インドの国民食であるカレーは日本国のなんちゃってべちゃべちゃカレーとは違い、多量の漢方薬にも似た珍しい香辛料を多量使っている。いくつものスパイスを混合するため、空気中に舞うと201×年においても地獄を生むと言われている。
今この海底洞窟に作られた近未来インド秘密基地にはガラムマサラやターメリック、ジンジャーなどなどが末端の廊下にも微小に流れている。
「さっさとミッションクリアしちゃいましょう出す!」
「じゃあ、パイプは棘皮展開状態を再展開して盾役やって」
「げっ……やっぱり俺はタンクっすか」
「いつもの布陣で様子見るから、仕方ないでしょ」
しぶしぶパイプウニはムラサキウニの命令に従うように、両腕を力を込めて伸ばした。
蠢くようにパイプウニの腕は折れた太棘が生え変わり、それより一回り太い棘が突き出した。
その硬さはあのイカ王のような大きすぎる力でもなければそうそう破ることのできないライオットシールドレベルのとても硬くしなやかな盾だ。
「行くぜ!」
生え変わったのをみるや否や、パイプウニを先頭にノナ達は長い廊下を全力で駆け抜けていった。
その途中から音楽が流れているのが聞こえてきた。それはモーニン○娘。の【L○VEマシーン】。
100年以上前の日本のアイドルが歌っていた曲でインドでも一部で大流行りしたらしく、現存するCDが焼きましされたり、データ化されたりして、その命は風前の灯ながらも受け継がれてきたのだ。
「何この曲……すごいテンションが上がるわね」
「なんだか元気になるっす……」
「あぁ、これは日本に持ち帰るべき曲だぜ……」
ノナ達の間ではだいぶ響いたらしい。
それが単に走りながら風に当たって心拍数が上がるせいなのか、それとも元の曲がすごいのか。
……後者である。
「抜けたぞっ!」
【L○VEマシーン】が流れている壁の隅についたスピーカーを超えるとそこは王座の間だった。
「なんっすかここ…」
玉座の間には一人の黒い肌の男が座っており、その後ろにはインドの国旗が垂れ幕のように張ってある。玉座の間からは真っ直ぐレッドカーペットが一列にひかれており、その両端には沢山のインド系の黒人が規律正しく並んでいた。
「インドドラクエ……?」