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パシフィックノナ対インド系多国籍企業   作者: 江戸銀(エディ)
狂乱救済海底『ナラタム』
7/19

インド人対ウニの録


「イカさん、タコさん、ヤドカリさん。何か勘違いしているようですが俺たちは決してあなた達のことを邪魔しに来たわけではないのですよぉ」


流石のガンガゼも引き腰になってしまうような絵面。巨大なイカと巨大なタコが海から這い出て大きな触手で津波をおこし、島を足場にドーンと大きなヤドカリに似た姿の蟹が先ほど倒したロブスターのような眼柄をこちらに伸ばして、台風のような威圧感を出していた。


「だれが、ヤドカリさんじゃあ!我は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』と呼ばれた一族の末裔の親戚に当たる王ぞよ」


ヤドカリ王は空気がビリビリと震えるほど轟く声でその長ったらしい名前を怒りとともにノナ達に浴びせた。


「SCPかよ……じゃあ、偉大なる蟹王様とそのお友達様、俺たちはこの島にいるって言われている人間の男を探しているんっす」


パイプウニが臆することなくそう言うと、イカ王とタコ王がそのドーム型の黒目を見合わせた。


「人間の男とな?」


「それは確かヤシガニ王の海底洞窟に住まうものではなかったか?」


イカ王とタコ王は100年にも渡るMTA騒動の犯人であるマハトマ・ラムシュアを近所のおじさんのように知っているようだった。自分の起源(ルーツ)がその近所のおじさんによって作られたと知った時、二人の大王はどのような顔浮かべるのだろうか。


「ぬ?辛いヤツのことか?ヤツはいいヤツじゃぞー、我が配下であるロブスターやバナメイエビにあのコウテツキジンエビを使わせてくれたんじゃ」


ヤシガニ王から発せられた配下という言葉に、軟体の王達は度肝を抜かれたように体を震わせた。そのせいで、荒れていた海は更に荒れ、うみねこ達は触手に当たって墜落した。


「配下を作れるのか!我がダゴン教団もそろそろ大幅に下僕を作ろうと思っていたところぞ」


「クトゥルフ殿だけずるいですぞ!イカ族は卵の世話係に、子イカの見守り役、大人イカが強い光に惑わされないようにする警備役……」


「それはオタクもうちも変わりゃせんよ!ウチだって最近教団からの生贄が少なくなってきとるし……」


海の真ん中で井戸端会議とはこれいかに。

イカやタコの産卵は一度に数百個産むものから1万個産むものまである。それに加えてMTA化の際に産卵の上限を強制的にあげられて、海洋生物種の実験台としてよく使われていたものだから、より生存能力や適応能力が高まっている。種を全体に見るならば、王だの皇帝だのとカーストを繕おうが、気休めにも勝者にもならないのは見え透いている。


「とりあえず、その男はどこに?」


「我が足元にある島の底にあるヒトデ型の穴の中におる。用があるなら連れてけ、それからイカ王とタコ王の配下を作るようにも伝えておくが良いぞ」


パイプウニの言葉をすんなり耳に入れ、イカ王に「配下の件は其奴らに任せましょうぞ」とやんわり触手から話すように差し向け、イカ王はそれを良しとして「まぁ、それならば」と、ノナ達を乱暴に宙にほっぽり投げた。重力に縛られずふんわりと落ちていくノナ達の体はそのまま水面に叩きつけられた。


「ゴボッボボボボ!!ゴボォ!」


『ジー・ジー……シュノーケル付けなさい!』


溺れるガンガゼにうまく着水したムラサキウニが予備のシュノーケル通信機をガンガゼの口に海水がと押し込んだ。


『ぷはぁ!飛んだじゃじゃ馬だぜ』


『馬じゃのうて、イカタコカニだべな』


『と、とりあえず、ラムシュアの居所はこの島の海底洞窟だってわかったっすけど、どうするっすか?』


足元は太陽光が届かない藍色の海。その1番の底にゴツゴツした岩肌が剥き出しに敷いてあり、整備することのできない自然洞窟が牙をこちらに向けて剥いている。


『決まってんでしょう?突っ込んで連れ出して日本に連れ帰るのよ』


特1型潜水艦(ブルーサブマリン)は既に手配してあるぜ。ジェットパックは無くなったが、日本には連れ帰れる』


特1型潜水艦(ブルーサブマリン)とはMTAの遠征に伴い発見した資源を運搬するための潜水艦。実際はジェットパックの方が早いが、水中ミサイルなどを装備している分攻撃力が高く、大昔にあったMTAの巣『アトランティア』を木っ端微塵に消しとばした経歴がある。


『海底洞窟にはすぐ行きましょう。ウニ割スプーン、構え!』


ムラサキウニは帯刀していたウニ割スプーンを引き抜いて、大きく掲げた。その威光はかのポセイドン像のように神性を感じさせるもので、泳いでいた小魚たちは一瞬にしてはけた。


『おう!』


『イエッサー!』


『だべさ!』


音割れを起こすほどの重複音が無線を乱した。


『総員、突撃ィ!』


引き締まったノナたちを奮い立たせる声は改造された人工生命体たちの底にわずかに残った原初の感情をふるいおこさせた。





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