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パシフィックノナ対インド系多国籍企業   作者: 江戸銀(エディ)
【摩天楼神殿アラベスクー死海の竜骨リヴァイアサンー】
18/19

ウニ対リヴァイアサン ダレット


アカバ湾。

紅海の一部であり、エジプト、ヨルダン、イスラエルに囲まれたリゾートオーシャン。

海岸沿いにはかつての上品な豪華さを面影を残したホテル群が立ち並ぶ。


建物の中には、アラベスクから堕ちた者やマフィアなんかがいるだろう。

金の匂いと死の匂いが混じった異常な静かさが街を滞留していた。


死海と違ってアカバ湾の生態系は多様なために、MTAも町のいたるところにいる。


船蟲、ウミガメ、イルカ、はたまたジンベイザメまで半魚人のように擬人化された存在が海のど真ん中から見ても蠢いているように見える。


MTAの全てが人型になるとは限らないのだが、とある国際研究所によると約76%は人型に変生するらしい。

まるで新しい人類にでもなり替わろうとしている様だ。


そんなわけでアカバ湾沿岸の町はダークサイドに染まりきり、常人には住めない町となり果てていた。


陸路で死海を目指すのが難しいため、ここから先は現地クルーザーでアカバ湾をど真ん中から突っ切ることとなった。


移動手段のない陸路より、地の利を得られて速い海。

例え海中から巨大な敵が現れても最大のポテンシャルで迎え撃つことができるだろう。


後は単にノナ達がそういったリスクを考えなかったというのもあるが。


「お兄さん達、エジプトまでなんのようで来たんだイ?リゾートはもうほとんど枯れてたはずだロ」


クルーザーを運転するパーシヴァル船長が話しかけてきた。

ちょっと小太りで、酒に酔ったか日焼けか顔が少し赤く、小さなキャプテンハットを被っている初老が彼の容姿であるが、その見た目に反して海をものすごい速度でぶち飛ばしていく。

まともな湾岸警備隊が居たら、頭を撃ち抜かれててもおかしくなかっただろう。


「私たちはおっきな魚を釣りに来たハンターみたいなもんよ」


ムラサキウニはクルーザーの縁に座って、肩にかかったレーザーガンを揺らす。

パーシヴァル船長はそれを聞いて子供のように無邪気に笑う。


「ハンター!すごいネ、軍人かジェームズ・ボンドみたいなスパイかと思ってたヨ。このアーマーすごいカッコイイ!」


船長は目を輝かせて、ノナ達の着ている先端科学の結晶を操縦中にもチラ見していた。

それよりもこの時代に009を知っている人間がまだ残存しているのはレアなことだ。


「スッゲェだろ。そんでもうすぐ着くのか?なんだっけ?エイ?トラ?」


「エイラトだヨ!」


エイラトもアカバ湾の沿岸にある都市だ。

イスラエル最南端であり、エルサレムに向かう本当の一歩目となる町。

そこにも夏葉の手が回っており、サポートしてくれるらしい。


「車だと2時間くらいするケド、クルーザーで飛ばせばもっと早く着くヨ。でもー、騒いだらダメダメネー?meekdash(ミカダッシュ)の使徒に見つかったら、大変大変」


「ミカダッシュ?なんじゃそりゃ」


ガンガゼが聞き返すと船長は遠くの方に薄っすらと見える巨大な塔のようなものを指さした。

月まで続いたそうな超長大な建造物。

遠くからでは一本の塔にしか見えないが、


それこそ--超高層都市【アラベスク】だ。


たった一つではなく多くのマンション群がより合わされることで一つのバベルの塔となった現代神域。


「イスラエルの言葉で神殿って意味ヨ。ホラ、アレ。ぼやけてるケド見えるでしョ?あの塔がミカダッシュだヨー。異国の人はアラベスクって呼ぶマンション……俺タチみたいにあぶれた者からしたら、あそこは神殿だヨ。神のいる物質世界を超えた場所サ」


船長はどことなく悲しさと羨ましさが混じった切ない口調でノナ達に語った。


「アラベスクに住める人間は限られてるのね。そりゃ、建物の部屋数が無限ってことはないだろうしね。無限ホテルのパラドクスは起こり得ない」


「ノンノン、あそこは物質世界を超えた無限の世界だヨ。アラベスクはアラビアの模様。無限に広がる模様だヨ。あそこは無限の世界サ。神のいる世界に行けるのは選ばれた人間だけ、俺はァ選ばれなかったんダ」


選ばれなかった。


拒絶を嫌うように滲む言葉。

人類は未だに霊長の座にはいるが、核戦争後となれば貧富や格差は凄まじい。


人らしい人として生きられる人類は今やもうマイノリティなのである。


「選民思想か……て、無限の世界?」


ラッパウニの言葉に反応するようにムラサキウニがベルトにつけて持っていたクリスタルスピーカーから声が響いた。


『あり得ません。無限世界など定説上この次元には存在しないものです。我々が存在している宇宙空間ですら、果てがあるとされています。この宇宙内に無限の空間を作り出す余地も方法もありません』


「ワーオ!今のなんだイ?ロボット?トランスフォーマー?」


この時代にトランスフォーマーを知っている人間がまだ残存して以下略。


「あぁ、もう。イーちゃん?出てきちゃダメじゃない。あなたは秘密兵器なんだから。自己主張だなんて本当に生き物らしくなっちゃって」


ベルトに着いたスピーカーを振り回して黙らせる。

ウィンウィン、と奇妙な電子音がスピーカーから酔ったように流れた。


「さぁ、そろそろ長旅も終わりダ!キミたち降りる準備しちゃいナ!」


遂に船首の方に海岸の町、エイラトが見えてきた。

ここ中東に来るまでも長旅だったノナ達にとって陸に上がれるのはもうすこぶるうれしかった。

海洋生物だったはずのノナ達は今となってはもう陸を恋しがる陸の住人として進化してしまったのだ。


「パーシヴァル船長、ここまでありがとうございました」


見えてから到着までは早く20分とかからなかった。

クルーザーは正式な港ではなく、崖の影になっている岩場に止めてもらい、そこから飛び込んでビーチ方面に上がることになった。

ノナ達はムラサキウニに続いてお辞儀をして感謝を表し、パーシヴァル船長も赤ら顔に優しい笑みを浮かべて見送った。


「いいノいいノ!困ったときはお互い様!今度俺が困ったことがあったらそのスパイ道具でカッコよく助けてよネ!」


「えぇ、勿論」


キャプテンハットを振って別れの挨拶をする船長を背にノナ達は岩礁の海に潜って海の深い闇の中に姿を消した。


「うぅ!まるでリトルマーメイドだネ!」









「いい人だったわぁ。人間もまだまだ捨てたもんじゃないわね」


無事、ビーチの端から上陸に成功したノナ達は廃れた立体駐車場の中にいた。

蒸し暑いメラメラとした空気が籠っている。


「一期一会な出会いに浸るのもいいんだけどさー、ここどこ!」


「だから、アカバ湾の最北端に位置するエイラト。爆心地からは離れてるからまだ人は住んでるけど、空港は閉鎖中。両隣をヨルダンとエジプトに囲まれた砂漠の地。この酷暑は私たちにはキツいけどスーツの体温調節機能のおかげで快適だわぁ〜」


「便利だべ、このスーツ。機能満載心拍数もわかっちゃうらしいべ」


無駄に多機能なスーツだなぁ、と思いながらムラサキウニはクリスタルスピーカーで3Dマップを広げる。赤いマーカーと青いマーカーが丁度ノナ達のいる立体駐車場を指示していた。


「後は死海まで車を使いたいわね。もう太陽も真上まで来てるし、ここからはスピードが勝負、手配されてるはずの車を見つけるのが最優先」


「どうやらこの辺にその車とやらがあるらしいな」


「マーカーついててよかったわ。じゃなかったら、ここから先西遊記みたいなことしなくちゃならなかったしね」


「ささっと回収してとっとと行くっす!」


五人がまずは車探しをしようと、物陰から立ち上がった瞬間何者かと視線が交差してしまった。

全体的にモノクロツートンで末端が黄色いドレスのようなヒレを持った人魚がいたのだ。


「あァ?テメェらみねェ顔だなァ?」


「どこの雑魚が紛れ込んだのでしょう。ここ最近はここに来る雑魚なんていなかったんですがねぇ」


魚人にはノナ達もインドで遭遇したことがあったが、そいつらはどちらかといえば魚の要素が強めなタイプだった。

しかし、視線が交差した相手は完全に人間よりの顔立ちだったのだ。


人為的に遺伝子改造が行われていないMTAは擬人化の度合いが甘いというのに、奴らはノナ達に引けを取らないほど人間に擬態していた。


(やだ......ワタシタイプかも!)


「とりま、ボスが到着するまでこいつらで遊ぶかァ」


黄色い髪で右目が隠れた男が指をぼきぼきと鳴らしながらノナ達に近づく。


「それ、名案ですねェ。ここはカルチエの縄張り。あなた方雑魚にはお仕置きが必要です」


黄色い髪で左目が隠れた男が足並みそろえながら冷笑する。


「......オーケー。初手から色々突っ込みどころ満載だけど、幸いこっちには武器とアーマーがある。ぶん殴って突破するわよ!」


「「「「イエースッ!」」」」


全員が二人組の男に向けて銃を構えて特攻をする。


数的有利はとれているが果して。







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