ウニ対リヴァイアサン アレフ
荒涼とした聖地を内包した聖地:エルサレム。
メッカや嘆きの壁や聖墳墓協会などの有名な聖地の他にも神殿跡が幾つも残る神聖と信仰の都市。
過去にこの国では大きな宗教戦争が3回ほど起こっており、その結果またここも核の炎によって汚染されてMTA達が蔓延っていた。
しかし、イスラエルの中にある死海はもともと生物が存在できない環境だったためにMTAの発生を完全に防ぐことに成功したのだが、ティべリアス湖、スエズ湾、アカバ湾には大量に発生してしまった。
それに加えて近年の海面上昇の進行により地中海側からの侵食がエルサレムの近くまで来ていた。
この時点でイスラエルに住める人間は限られ、政府も正常に機能せず国を維持するのにやっとという状況。現在のイスラエル人口のほとんどがエルサレムにできた超高層都市【アラベスク】に居住している。
このアラベスクが厄介なのだ。
なんとこのアラベスクのほとんどの建物が1.000m級のビルディングでどの人も500mよりも上にある居住空間で暮らしている。
飛行機やヘリの発着場までそのビルディングに内包されているために人々はわざわざ危険な地上に降りる必要はなくなったという。
ほぼ国家に等しいアラベスクの全権を握っているのが、表側では教祖ストイコビッチ、裏側では宗教団体【海の導き】というわけだ。
アラベスクの中であれば権力者もマフィアも王も神も全て【海の導き】による決定で行動が決められる。
もしこれに逆らうようであれば、天界から一転、羽をもぎ取られ真っ逆さまに地上に落下するというわけだ。
一方エルサレムから落とされた人間達が行き着く先はミツペ・シャレムというキャンプ地のように小さな入植地。昔の人口は190人ほどしかいなかったが、アラベスクから追放された者達が集まり現在は500人ほどまでに増えている。
しかしそこしか住める場所がなかったのか?
エルサレムを北に進むとあのベツレヘムがある。他にも沢山の小都市が存在するではないか、と。
儚いことに全て消え失せた。
聖地エルサレム以外のすべての都市は核の炎に飲まれ、消滅したのである。
三宗教の泥沼の聖戦渦中にいたはずのエルサレムが消滅せずに残っていたことはもはや奇跡以外になんと呼べば良いことか。
結局は第四の宗教団体によって魔改造されてしまったが。
死海に近いミツペだが、この死海にも厄介な都市伝説があった。
それこそ今回ノナ達が調査すべき神話級のMTAーーリヴァイアサン。
あの生命が芽吹くことのない死の淵に巨大な竜がいるという目撃情報が絶えないらしい。
ミツペは死海にかなり近い場所にあり、おおよそ貧しさを紛らわせるのにたまに行く人物がいるのだろう。
発生事例がなかった濃霧が最近では頻繁に起こり、その霧の海の中を悠々と巨大で長大な何かが蠢いているとーー証拠写真まで撮られている。
一部霧にかかって見えないが中央だけその胴体が動いた時の旋風で晴れたらしく黒鉄のような鱗が見えていた。
正しくリヴァイアサンの名を受けるにふさわしいであろう災害獣があの死海にいる。
それでなくとも、アラベスクの表の管理者ストイコビッチにはマハトマ・ラムシュアの情報を日本の秘密組織に流し、倒させたという因縁がある。
今回のミッションはリヴァイアサンの正体の調査。
リヴァイアサンには殺害許可すら出されている、もっとも物理的なスケールがイーシュワラと全く違うのでその刃が心臓に届くことはほぼないだろうが。
信仰と退廃。
人類と神々が織りなしてきた都市エルサレムの運命は果たしてノナ達とどのように関わってくるのか。
摩天楼神殿アラベスクの旅路は長い。