風とちょうちょとシャボン玉
「ひだまり童話館」第18回企画「ひらひらな話」 参加作品。
作品の最後にクーニャさんから頂いたイラストがあります。ぜひ一緒に楽しんで下さい。
他サイトにも観月、もしくは観月蛍名義で投稿しております。
きょうはとってもいい天気です。
ヤマボウシの新しい葉っぱは、黄緑色にピカピカとひかっています。
まっ白なお花も、ぽっ、ぽっ、と、咲きはじめたところです。
ヤマボウシの上を、七色のシャボン玉が一つ、とんでいきました。
「わあ! いっぱいでたよ!」
マサキくんの声といっしょに、たくさんの小さなシャボン玉が、いっせいにヤマボウシの上をこえていきました。
「カレンも! カレンも!」
カレンちゃんは、パンダのシャボン玉セットを取り出します。
えんがわで、小学校からかえってきたマサキくんと、幼稚園からかえってきたカレンちゃんが、シャボン玉であそんでいるのです。
ママは洗濯物をたたみながら、にこにこ二人を見ています。
太陽は、カンカンとてりつけて、マサキくんとカレンちゃんのひたいに汗をにじませます。
すると風さんが、二人のかみのけの間に、すずしい風を送ってくれました。
ピリリリリリ ピリリリリリ ピリリリリ
お部屋のなかから電話の音が聞こえてきました。
「おにいちゃん!」
ママがマサキくんに声をかけます。
ママが「マサキ」ではなく「おにいちゃん」と呼ぶときは、だいたいおねがいごとがあるときです。
「ちょっと、カレンちゃんをおねがいね!」
ほらね。
ママはそういうと、あわててお家の中へ、入って行ってしまいました。
「わかった!」
と、マサキくんがお返事したときにはもう、ママの姿はありませんでした。
マサキくんとカレンちゃんは、シャボン玉が大好きでした。
ですから、シャボン玉を作るための道具を、たくさん持っているのです。
水鉄砲みたいな形をしていて、引き金を引くだけで、たくさんシャボン玉が出てくる道具もあります。小さな丸がいっぱいついていて、息を吹きかけると、シャボン玉がお団子みたいにくっついて出てくる道具もあります。
ママがいなくたって、ふたりでいくらでもあそべます。
ふたりはいろんな道具をつかって、さまざまなシャボン玉を作りました。
そうしたら、風さんも仲間に入りたくなったのでしょう。つよい風が吹いたかと思うと、シャボン玉がいっせいに向きを変え、お家の中へと入っていきました。
「あっ!」
二人は声を上げて、お家の中へ入っていったシャボン玉を目で追いました。
きゃー、あはははは。
風さんのいたずらに、カレンちゃんはおおよろこびです。
「みろよ、カレン」
マサキくんが指さしたのは、縁側におかれたままのせんたくものの入ったかごです。
「あ! カレンのパンツ!」
せんたくものの一番上には、カレンちゃんとマサキくんのとっておきのパンツがのっていました。
二枚のパンツの上で、シャボン玉が一つ、ふわふわとゆれています。
「シャボン玉も、ぼくのゴーゴージャーのパンツ、かっこいいって!」
「カレンのパンツのほうがかわいいよ。だって、ひらひらがいっぱいついてるもん。おにいちゃんのは、なんにもついてないじゃん」
「ばか! ゴーゴージャーがかいてあるだろ。カレンのパンツなんか、ただのまっしろじゃんか」
二人がケンカをはじめると、シャボン玉がぱちんと弾けてわれました。
二人はまたシャボン玉を作ります。
今度はちょうちょさんもいっしょにあそびたくなったのでしょう、黄色いちょうちょがひらひらと、シャボン玉と一緒に空をとんでいました。
しばらくするとちょうちょさんは、マサキくんのゴーゴーパンツにとまりました。
二人はちょうちょさんをおどろかさないように、目だけでパンツの上に乗るちょうちょさんを見てみました。
「ほらみろ、ちょうちょも、ゴーゴージャーのパンツがすきなんだぞ」
サマキくんは小さな声でいいました。
「ちがうもん! ちょうちょさんは、カレンのひらひらパンツとお話してるんだもん。そうだ、カレンのパンツはひらひらだから、ちょうちょさんといっしょにとべるんじゃないかな?」
カレンちゃんもいっしょうけんめい小さな声で言いました。でも、ついつい大きな声になってしまいます。
「へーんだ、パンツが空をとんだりするもんか」
「するもん! ひらひらおパンツだもん!」
その時です。
今までで一番強い風が吹いてきたと思ったら、くるくるとつむじを巻いて、ママのたたんだおせんたくものを引っかき回し始めました。
「ああっ!」
一番上に乗っていたゴーゴーパンツとひらひらパンツがくるくるくるっと空にとばされました。
「うわああああ、とんだあああ!」
二人のパンツはくるくるしたと思ったらひらひらひらっと落っこちてヤマボウシの木にとまりました。
「まあああぁぁ! たいへーん!」
電話を終えたママの大きな声が、お家の中からから聞こえました。
「ママ、ママ! カレンのひらひらパンツが、お空をとんだんだよ! ちょうちょさんと一緒にとんだんだよ!」
ママは「はいはい」と言いながら、お庭に出ると、ヤマボウシの木におっこちたパンツをひろっています。
「マサキ、とばされた洗濯物は、パンツだけ?」
マサキくんは「うん」と答えました。
ママは「汚れてないわね、よかったわ」とつぶやきながら、パンツをひっくり返したり、光に透かしたりして、じっくりながめています。
パンツが汚れていないことをかくにんすると「ふぅ」と、肩をすぼめて、マサキくんとカレンちゃんをふりかえりました。
「ふたりとも、今日は暑いからおやつはアイスクリームよ。シャボン玉を片付けて、手を洗ってらっしゃい!」
パンツをまた、おせんたくものの一番上にのせて、ママはお家の中へと戻っていきます。
カレンちゃんは「おにいちゃんと、カレンのおパンツ、とんだんだもんね? ね?」
と、マサキくんを見上げます。
どう答えたらいいんだろう。
マサキくんはちょっとだけ考えました。
さっきはカレンちゃんと一緒にさわいでましたが、マサキくんはもう、パンツが一人で空をとんだりしないことを知ってます。
でも、カレンちゃんのキラキラの目が、みつめています。
「うん。でもさカレン、これはおにいちゃんとかれんの、ひみつ。な?」
マサキくんは唇に人差指を当ててみせました。
カレンちゃんは「ヒミツ!」というと、うれしそうに、お兄ちゃんのマネをしました。
「ふたりとも、アイスクリームとけちゃうわよぅ!」
ママの声がして、二人はあわてておかたづけをすると、家の中へと入っていきました。
おわり。
マサキくんは「ひだまり童話館」第八回「とろとろな話」に参加しました「世界一のホットケーキ」にも出演しております。
ちょっとお兄ちゃんになったマサキくんです。