底辺のおっさんは、魔王の顔を辞める
魔王の顔ね、クソ底辺ハゲ野郎に一番似合わない顔だな。
魔王? 魔人? んなモン俺の家族にいるから間に合ってる。
家の元魔王さまは鶏頭で、オレンジ顔の優しい魔人は正義の味方なんだし、勘違いしたクサレ魔王に俺がなる必要はねぇよな。
本当にダメダメの勘違い野郎だな俺。
卯実やトイ、シブ、下井に心配を掛けるて、新入りのブロゥに止められて思い出すなんて本当に勘違いのダメ野郎だ。
俺は魔力を持たない最弱の転移者だって事を忘れてシブ達の力を自分の力と勘違いしやがって。
「ねぇ相棒。あたしもアイツを殺したいけど、相棒が怖い人になっちゃう位なら、あんなヤツは無視しようよ」
卯実が両手で俺の左手を包み込み、トイも同じ様に俺の右手を両手で包み込む。
「俺はアイツを殺したいが、今の俺達は無関係だ。
アイツをどうするかは、被害者に決めて貰う。
優柔不断かもしれないが、止めるにしろ、倒すにしろ、まずは被害者の娘が決めてからだと気付いた、いや、気付かせて貰ったんだ」
俺はトイや卯実を安心させるべく笑顔を作ってみるが、俺は笑顔を浮かべられたのだろうか?
「山本さん、被害者の娘がアイツを殺したいと言ったらどうしますか?」
竹井君が俺を見据える。
真剣で力強い目を俺に向けてテーブルの上で手を組んでいる。
組んだ手の震えが竹井君の怒りの強さを俺に知らせている。
「取り敢えずは、アイツを捕まえようか? 戦えない俺は、みんなに頼む事しか出来ないけどね」
今の俺は不思議と落ち着いている。
今日の俺は頭に血が上り過ぎだったな。
瀕死の女の子を拾って、ビビって、無茶して、見えなくなって、襲撃されて、バカやって、最後にあのクソ野郎。
1日を振り返ればなんて事は無い。何時も通り、てきとーでバカ騒ぎの1日じゃないか。
クソ野郎なんざ後回しだ。あの赤毛の少女を助ける方が先だろ当たり前に。
「あ゛ー!もー! 本当ーに!! ダメなヤツだな! オレは! 山本さんばかりに負担を掛けて!」
いきなり竹井君が叫び出してみんなの注目を集めた。
「オレはアイツを許せ無い! でも家族を危険に晒す訳には行かないのに! 何でここで山本さんに責任を被せ様とするんだよオレ!! あ゛ー! もー! 本当に! 」
竹井君が自己嫌悪の叫び上げテーブルに頭を打ち付けた。
ちょ、竹井君テーブルが壊れちゃうから止めてよぅ。
「あ゛ーーーーー!! もーーーー!! 何を考えているんだ私は!!」
シャルローネ王女も叫び出してテーブルに頭を打ち付け出す。
アンタもかよ! 止めれ! テーブルがマジ壊れる!!
「バカか私は!! 仇だなんだ言う前にするべき事があるだろが! この愚か者が!! ガッ」
あ、竹井君の頭と激突した。
流石の竹井君でも不意打ちは効果がある様でシャルローネ王女と一緒に頭を押さえている。
「座ったら? みんなで立ってられると、ウチも立たないとダメな気がするし」
下井の言葉でゴブリン達が座り始める。
「そうポね、ダディも笑ってるポゥ。家族が居ればダディは大丈夫ポ!」
ブロゥは多分笑顔を浮かべて、軽くジャンプし空中で胡座をかいてそのまま地面に着席した。
あー、うん、なんだ、俺は鶏の表情は分からないんだよブロゥ。
でも、止めてくれてありがとうな。
俺は心の中で鶏頭の元魔王に礼を告げた。




