底辺のおっさんは、魔王の顔をする
野鳥とトマトのスープに川魚の味噌煮。
俺以外の晩飯だ。そう俺以外のだ。
「モッさんはボロボロだからいつものな」
下井の差し出したコップは見慣れた青い液体で満たされている。
「マスターの主食『滋養強草』汁です」
ちーがーいーまーすぅー!!
何で磨り潰して水を加えただけのを出すんだよ! 畜生!
晩飯を食い終えたた俺達は大まかな方針を話し合っている。
まずはホルダーが『視て知る』力で入手した情報を共有し、オーク共の記憶を簡易的に体験して転移者の確認をする。
その転移者を一言で言えば『全裸の狂人』
身体を洗っていないのか悪臭がする骨と皮しか無い身体。
ボロボロの髪と伸びきった髭と異様に輝くギョロ目。
口から漏れる言葉は「女」のみを連呼しながら右手で自身の性的欲求を静めようとしている。
男は最後に「使って無い女」と叫んでのたうち回る。
つまりは、クソ転移者野郎は性欲を満たす為だけにあの赤毛の少女をあんな目に合わせた訳だ。
「山本さん、オレはあの人は許して置け無い」
竹井君が静かに告げて俺を見る。
「あの様な怪人を生かしては置け無い! 仲間の仇だ! ヤマモト殿! この私、シャルローネ・ベルギアに力を貸して貰いたい!!」
立ち上がり俺を見下ろすシャルローネ王女。
「なぁ、みんな、みんなは俺があのクソ野郎を許してやると思うのか? 確かに俺も何かを間違えていたら、あのクソ野郎の様になっていたと思うけどな、今の俺はあのクソ野郎を殺したい」
感情が篭らない冷たい声で俺は告げるとブロゥが立ち上がって俺の言葉を否定した。
「ノン! ダディ! ノン! ダディ、ダディは間違えているポ!」
ブロゥの否定にシブと下井以外のゴブリン達が立ち上がりブロゥを睨む。
「ダディ、ミーのダディはそんな顔をしてはダメだポ。
その顔はあの魔人や愚劣な魔王の顔ポゥ。
ミーはダディの困った様に笑う顔が好きポ。
今のダディの顔は欲望に溺れて自分を見失った傲慢な愚か者の顔ポ。かつてのミーや他の魔王と同じ顔ポ。
ダディは楽しそうに困った顔が似合うポゥ。
ダディがそんな顔をするポ、みんなも酷い顔になってるポよ。
知った様な事を言ったポが、ミーはみんなの事が大好きポゥ。
ダディが魔王に成り下がるのは黙って見ていられ無いポ! ミーは力強くでも止めるポゥ!」
ブロゥが俺を指差して告げると、俺の頬と手を誰かが触れる。
「うん、怖い顔だよ相棒。
ねぇ笑ってよ相棒。あたしの好きな笑顔を見せてよ」
「マスター、怖い顔をしています。
マスターの笑顔を所望します」
卯実が俺の頬に触れている。
トイが俺の手を握っている。
「主、我もその様な顔の主を見ていたくはありませんな。
笑顔でいていてくださらんか? 主」
シブが俺に微笑む。
「そだね、モッさんの今の顔、凄まじく怖いよ。
感情が無くて無関心な冷たい目なんてモッさんには全く似合わないからさ、ウチとバカ言って笑ってる時の顔が一番似合うんだよモッさんは」
下井も微笑んで自分の頭を掻く。
最弱底辺のおっさんのクセに何をやってんだよ俺は。
魔王の顔の俺? 倒しに来た勇者が爆笑して笑い死ぬかもしれないな。




