底辺のおっさんは、自分の過去を語る
シブの魔力を借りてトイにチャージした俺は目、鼻、口、耳と顔中の穴から血を流して倒れたらしい。
そんな無茶をした結果、トイの魔力チャージ量は501、総魔力チャージ量は596まで増えた。
思ってた程チャージできなかったな。
でも、シブが俺に流した魔力量は100だとジャンのおっちゃんが『分析』の異能で調べてくれたので、他人の魔力を借りてチャージした場合のロスが計算できたのは大きな収穫だ。
「相棒! ごめん! あたしがあんな事を言ったから······」
「主······ これは我の失態、我が直ぐにでも止めていれば······」
「気にするなよ。多分、何時か同じ様な事をしてたと思うから卯実の責任でもシブの責任でも無いよ。
俺こそゴメン、心配を懸けてさ」
身体がロクに動かんから慰める事も出来ねぇ。
「マスター、マスターは何故、自分以外の存在を助け様とするのですか? 自分を危険に晒してまで助ける理由が見当たりません」
トイの言葉に竹井君や卯実が語気を荒くしてトイを責める。
まだ目が見えんから、どうなっているか分からん。
「トイちゃん! オレ達は家族じゃ無いか!! 山本さんの思いや言葉を否定する様な事はトイちゃんでも許せない!! 取消すんだ!」
「ふざけんな!! 相棒がみんなを助けてくれたからあたし達は家族になったんでしょ!! なんでそんな事言うのよ!! トイちゃんは相棒だけ居れば良いの? シブさんやヨウさん、ゴブリンのみんなも邪魔者なの? 答えろ!!『召還姫』!!」
「竹井猛、二ノ宮卯実には尋ねていません。
二ノ宮卯実、私はトイです『召還姫』と呼ぶ事は許しません」
トイの声に刺がありやがる。畜生! まだ目が治らねぇ。
「ちょ、竹ちゃんもうーちゃんも、落ち着く!! 飯抜きにするぞコラ!! トイちゃんもさ、言い方を考えてよ。
モッさんがウチ等を家族として見てくれているから、ウチ等はモッさんの事を大切な家族だと思えるんだよ? モッさんに否定されたらウチ等ゴブリンや悪魔の連中は顕現を解かれて、簡単に始末されるって分かってるの?」
下井のクセに諭すか、有難いな。
「私は······ 私は欠陥品です。下井凛花、二ノ宮卯実、竹井猛の言い分を理解出来ません。
マスターの死は私の消滅を意味します。
ゴブリン達や悪魔達を失っても、私はマスターを失いたくありません」
「な、なんでよ! 相棒が死ぬとあんたまで死ぬのよ!!」
何が起きてるのか分からん。殴り合いとかすんなよ畜生! こうなればヤツの力で!
「ホルダー!! 俺に視せろ! 今の状況を! 目に見せてる訳じゃ無いんだろ、お前の『視て知る』力は!!
いっ、クッソ痛ぇ。怒鳴っただけで全身が痛ぇ。
洒落になんねえな、こりゃ」
マジで痛ぇ、泣きそうな程に痛ぇ。
「相棒! 無理しないで。相棒に何かあったら、あたしは······」
「あー、うん、なんだ、俺が無理無茶するのはさ、家族の為なんだと思う。俺は日本で家族を失ってるんだ。
馬鹿な俺はさ、昔のダチに騙されて務所に容れられて、家も母親もその時に失くした。
俺の家族は複雑でな、親が再婚同士で母親の連れ子が俺、父親の連れに兄と姉がいて、良く虐められていたよ餓鬼の頃は。
余りに俺への虐めが酷ってんで中学の時に離婚しちまって、母親一人子一人の出来上がりだ。
俺は中学校の紹介で卒業して直ぐに働き出したが不況で倒産。
他人になったはずの兄や姉が家に嫌がらせをしたりしてくれたお陰で引っ越しする羽目になったりと、クソっ垂れな毎日だったな、あの頃は。
馬鹿な俺は何を勘違いしたのか、俺がいると母親に迷惑がかかるとか言って家を出て働き出したけど、今度はリストラで切られて、寮に入れる請け負い仕事で何とかやってたが、其所も期限切れで追い出された。何とかアパートを借りて日雇い労働でやってりゃ、社長の親戚だかの会社でパワハラで殺されかけて、逃げたらダチに騙され務所行きで、母親の死に目にも会えなかったんだ。
何をやってもダメな俺だから今の家族だけは絶対に守りたいんだ。今の家族といるのが楽しくて嬉しくて死んでも守りたいから無理も無茶もし続けると思う。
トイにして見りゃ『ふざけんな』って事だろうけど、そこは運が悪かったって事で諦めてくれよ」
あー、うん、なんだ、俺、何を語っちゃってんだよ、恥ずかしいヤツだな。




