底辺のおっさんは、腹を括ります
卯実達に遅れて『へのへのもへじ洞窟』に帰り着いた俺達をシゴが迎える。
見張りである山羊夫婦がいないのは赤毛の少女の治療に駆り出されているとシゴから報告を受けながら洞窟を進む。
バリケードでシロリと合流した俺達は食堂エリアに着くと、シャルローネ王女が卯実と竹井君に取り押さえられていた。
「トイちゃん、相棒、お帰り」
俺達に気付いた卯実がシャルローネ王女を抑える事を竹井君に任せて俺達の駆け寄る。
「どうしたんだ? 一体?」
「助けた娘がさ、お姫様の友達だったらしくて······ その娘は女子スペースでヨウさんとカドゥが治療してる」
「下井やジャンのおっちゃんは手伝いか? 見掛けないし」
「うん、今さっきヨウさんの作ってる鍋とかを運んでるよ。
ねぇ相棒、あの娘、助かるかな······」
俺は珍しく落ち込み目に涙を溜めた卯実の頭を撫でながら「命だけならな」と短く答えた。
全く嫌になる。俺の予想になるが、ホルダーの『視て知る』事で得た悪い知らせの内容は、おそらくは転移者の生き残りがオークを操り赤毛の娘を襲ったと言う事だろう。
身勝手なクソが!! 朝丘よりタチが悪い。
シャルローネ王女は竹井君に組伏せられながらも抵抗を続けている。
「タケイ殿、せめて、せめてアンを看取らせてくれ!! 頼む」
「落ち着いて!! 山本さんならきっとなんとかしてくれる。だからシャルローネは落ち着いて結果を待つんだ。シャルローネが怪我をすれば赤毛の娘も悲しむし君の治療と言う手間が増えるんだ」
竹井君の言葉に俺は苛立つ。
有頂天なクサレ転移者のケツ拭きを何故、俺がしなければならないんだ。期待するなよ、俺なんぞに。
俺は底辺のゴミ親父だぞ、青い自称ネコ型ロボじゃねーんだから俺に期待しないでくれよ正義の味方······
「モッさん!!」
戻って来た下井が吊り下げ鍋を放りだして俺に駆け寄り腰にしがみついた。
「モッさん、あの娘、あの娘をどうするの?」
「本人に決めて貰うよ。俺に出来る事なんか無いしさ······ いつも他人頼りの俺には何も出来ないんだよ」
俺は無力だ、強者に守られてそれを自分の力と勘違いしかけている救い様の無い愚か者だ。
「相棒······ トイちゃんのガチでなんとかしようよ。
みんな、相棒とトイちゃんに助けられて此処にいるんだから、相棒ならきっと······」
「モッさん、ごめん。ウチ······ ウチもあの娘を助けてあげたい。
あんな事を言ったウチが言うのもおかしいし、モッさんを危険に晒すって分かっているけど、あの娘を助けてよ、モッさん」
クソが!! 死体ならばまだ割り切れる。瀕死の少女を見捨てる事がこんなにも苦しい事だとは。
「トイ、魔力チャージ残量は」
「413です、マスター」
ヨウの帽子で顔を隠しながらトイが答える。
魔力を無駄使いしていたから、歌ったり踊ったりする事が出来ていた訳か、それは問題無い。
「今ある魔石を全部チャージしてガチを回す」
腹、括ってやらー!! どうせ一度は死んでんだ!! バレるとヤバい? 知るか!! 手前ぇ1人で生きられねぇ底辺野郎が他人を見捨てる? ふざけんな!! 底辺だなんだ言われても此処で何もしないクソに成ってたまるかよ!!
「相棒!」
「モッさん!」
「山本さん!」
卯実、下井、竹井君の3人の顔が晴れる。
「そだ、トイちゃん、あたしの魔力をチャージ出来ない? 相棒の手をあたしが握って、あたしから相棒、相棒からトイちゃんへって感じに!」
「可能です。
可能ですが、マスターの生命に関わります。
マスターには魔力がありません。その為、マスターが他者の魔力を純魔力に変換する行為は負担に成ります」
「シブ! 魔力を貸してくれ」
俺はトイの忠告を無視してシブを呼ぶ。
卯実には悪いが俺が最も信頼しているのは命の恩人でもあるシブだ。シブなら俺の負担を直ぐに察してくれるはずだ。
魔法使い系のヨウやカドゥ達なら魔力をコントロールして負担を減らせるかもしれないが、魔力の無駄使いは出来ない。
「主、我でよろしいのですか? 二ノ宮嬢ではなく」
「なんかわかんねべが、おでの異能さで見ても、二ノ宮さのほがすくねぇべ! そったらおでの魔力さ使えばええべ。おでのほがすくねぇべ」
ジャンのおっちゃんが立候補するが俺は首を振り断る。
「ありがとう、おっちゃん、でも俺はシブに頼むよ。
シブなら上手くやってくれる気がするんだ。だからシブ、頼むよ」
俺の頼みにシブは頷き「承知!!」と答えてくれた。




