底辺のおっさんは、倒す方法を見つける
竜巻に巻き上げられて床に叩き着けられても無傷。
戦闘の経験と技術が不足しているからスロは、目を閉じたり反射的な防御をとっているが、物理攻撃無効を生かしたノーガード戦法を取られるとヤバい。
「魔女の一撃!」
まともな相手なら必殺の強制ぎっくり腰の魔女の一撃なのだが、スロは痛みを感じている様子がない。
痛覚がないのか、あのクソチート野郎!
物理、火、土、氷、風、無属性の攻撃無効に痛覚カット、装備変更能力、正にクソチートだ。
なんか生き埋めにしても自力で脱出しそうだし、本当に面倒臭え!
ぎっくり腰にならなくても極一部の身体強化でバランスが取れず立つ事も難しくなり、ダメージは無いがスロの動きを制限出来たのは大きい。
「えい!」
「投擲です」
俺が有効な手段が思いつかず指示を出せないせいか、トイとリール王女がナニカをスロに投げつけ命中した。
そう命中してしまった。
まずリール王女が投げたナニカは、立ち上る事に四苦八苦しているスロの横面に命中し砕け、スロを転がし。
リール王女より非力なトイが投げたナニカは遅れて届き、倒れまいとバタつかせたスロの腕に当たり砕け散る。
「ソーセキッ!」
「にゃ!」
以心伝心、名前を呼んだだけで要件を理解してくれたソウセキが、魔法で全方向からスロへと風を吹きつけるこちらへの被害を防いでくれた。
スロは嘔吐き、ボロボロと涙を流し、風に煽られ床を転がる。
スロに嗅覚がある事が分かったけど。
リール王女殿下。
トイさん。
頼むからミミの実を投げる前に報告してください、臭いから! ってかどこから持って来たんだよ!
まあ、嗅覚はゲームじゃあんまり使われないし、あってもイベントやモンスターの索敵手段だろうから嗅覚カット能力は無いんだろうな。
俺は無い頭で次の手を考え、みんながスロ様子を伺っていると、ヤツは悪臭で完全に行動不能になる前に叫び声とともに魔力の衝撃波を全方向に放ち、ソウセキの魔法を打ち消しやがった。
しかし、備えていたヨウが即座に消臭の魔法で悪臭を除去してくれたので、こちらに被害は無いが魔力の衝撃波はヤバいな。
さっきのはみんなの視界情報でそうだと分かったけど、魔力の無い俺は動きも遅く魔力を感知出来無いから避ける事すら出来無いし、1撃でお陀仏って事にもなりかねない。
ヤツが動けない今の内に、他の魔法攻撃を試して置かないと範囲攻撃や相討ち狙いの自爆攻撃が有効だと気づかれるかも知れないな。
俺がヨウとソウセキに指示を出そうとすると、再びスロが叫び声とともに衝撃波を放つが、接近戦組が得物を振り抜き衝撃波を切り裂き、ソウセキは俺の前に現れるなり氷の壁を作り衝撃波を防いでくれた。
叫び、荒い息を整え、無理矢理立ち上がり、スロは聞くに耐えない戯言を喚き怒鳴る。
ヤツにしてみればこの世界は欲望を満たすゲームでしかない。
自分は攻める側であり、成功が約束されている側で、自分が殴られ蹴られ一方的に攻撃される訳が無くチートだインチキだとぬかしやがる。
やれ『雑魚がこんなに強いはずが無い』とか。
やれ『人のアイテムを盗んだ』とか。
やれ『データ改造だ』とか。
やれ『チートだ』とか。
現地の人達から様々な物を略奪し、データ改造で耐性やら特殊能力を得て、雑魚の分際で強者面するクソチート野郎がどの口が言ってんだ。
クソチート野郎が喚いている間に近接戦組は氷の壁の前まで下がり遠距離戦組と合流し次の攻撃に備えて俺の指示を待っている。
指示を待たれても確信が無いから水、雷、光、闇の魔法を試す事くらいしか思いつかん。
「マスター ヤマモト、光や闇の攻撃魔術なぞ無い。
光は火属性または無属性であり、闇は無属性に色を付けただけだ。
君のイメージする攻撃は精神干渉や光による熱エネルギーの集中でしかなく、神聖属性ならばあるのが、神鉄製のミスター タケイの神剣やシブの棒は神聖属性の武器であり、スロに対し無効である事は確認済みだ」
先生、そう言う事は先に教えておいてください……
兎に角、水と雷の攻撃が効かなければ打つ手なしって事になる。
ソウセキは防御に回ってもらって、ヨウが雷、卯実の刀で水なら手間が無いかも。
「アタシが雷属性で卯実ちゃんが水ね」
「あたしは水ね相棒!」
「ニノだけだと心配っスからオイラも行くっス!」
「某とタケイ殿は牽制ですな」
「みんな、絶対に勝ちましょう!」
「ならば私は闇を投影してヤツの視界を奪うとするか」
「にゃーがおうさまたちをまもるにゃ!」
「あー、うん、なんだ、手段はみんなに任せるよ……」
まだ決めた訳で無いのですがフライングで指示を伝えるのはどうかと思いますよ、ホルダー先生。
「開戦です」
トイの号令にみんなは「了解!」と応えて駆け出すけどトイさん、セリフ盗んなよ!
卯実とシンが水属性で攻撃するのかと思いきや、まずホルダーがスロの顔を包む様に暗闇を投影してヤツの視界を奪うと案の定。
突如視界を奪われたスロはパニックを起こしたのか無意味な文句を並べたて右往左往してやがる。
その隙だらけのスロに対してヨウが低姿勢で駆け込む。
「雷底!」
そして魔法の電撃を乗せた左の掌底を突き上げる様にスロの胸へと繰り出すけど、なんっすかその中2臭い名前と某だってばよなニンジャ漫画の必殺技染みた技。
とは言え、ヨウの1撃を受けたスロは一瞬だけ痙攣したが、特に攻撃が効いた様子も無く両腕を滅茶苦茶に振り回してヨウを追い払うが。
「顔面に水!」
俺は電撃を受けたスロの反応を見るなり雑な指示を飛ばすが卯実とシンは理解してくれただろうか。
2人が俺の指示を理解し、大量の水を顔面に受けたスロが俺の想像通りのリアクションをしてくれればこの戦い、俺達の勝ちだ!
急に指示を出された卯実とシンは一瞬だけ止まってしまっう。
俺のミスだ。
原因も分からず視界を奪われパニックを起こしたスロが自棄にならない保証は無く、魔力の衝撃波を放てると言う事は、スロが魔法攻撃が出来る可能性でもある。
あのクソチート野郎は自分を中心に爆発を起こし卯実とシンを巻き込みやがる。
でも、巻き込まれる寸前で卯実が刀を床に投げ刺し、岩壁を作り出す事で直撃からは逃れられたけど。
爆発で視界を取り戻せると思い込み再び自爆しやがる。
卯実の岩壁は2度は防げず吹き飛ぶのだが、彼が間に入るには十分過ぎる時間は稼いでくれている。
持つ者を不死身する大盾を手にする竹井君が卯実とシンを庇い、竹井君とは別に攻勢に出たシブが棒を伸ばしスロの腹を突き上げ、天井に張り付けにした事で3度目の爆発は起きず、卯実とシンがスロの顔に放水する隙を作り出す。
即座に卯実とシンが放水を開始するけど、スロはシブの棒で天井に押し付けられたままでいる訳じゃ無い。
大量な水を顔面に受け続けながらも、無数の火炎球を滅茶苦茶に放つ事で張り付けと水責めから逃れたが、落下し床に叩きつけられ、水を吐き出し、そして咳き込む。
確定だ。
あのクソチート野郎の身体は酸素を必要としている。
つまり窒息させればヤツを倒す事は可能って事だ。




