底辺のおっさんは、今後を考える
先の事は、誰にも分からない、出来る事は備える事だけ。
カレーなる一夜が明けて、俺は米を炊く。
出汁が無いので味噌汁はお預けなのだが、ぼんやりと今後の事を考えて苦笑する。
今後の行動方針なぞ前世ではまともに立てた事覚えが無いのに世界が変われば生き方も変わる様だ。
前世では『先の事を考えろ』と度々言われたが、ぬかすのは大抵がマウントを取りたいだけのクソ野郎だった。
クソ野郎どもの言う『先の事』はただの希望を垂れ流す事らしくネックポイントを理解していなかった。
俺が『どっかで働く』と言えば鼻で笑い宣う。
『~の資格を取って~社に入る』等はただの希望、ればたらでしかないと言うのに。
学歴の有無、資格を取得する為の資金や時間の有無、希望する会社がその資格を必要としているかの有無。
単純に資格がある事が有利だとしても、希望する会社に入る為にその資格を取る人間がどれだけいるのか? 入社出来るかは何一つとして保証されていないのに関わらず、さも自分は大丈夫と言った感じでぬかす。
更には、入った後の事を考えていない点も笑える。
クソ野郎どもが口から垂れ流す言葉は大抵が穴だらけで、それこそクソの役にもならない。
先の事を考える等は、ただの予定だ。
決定では無い。
上手く行くかは賭けだ。
賭けの準備をし勝率を上げる為に奔走しているに過ぎない、それこそイカサマだろうとなんだろうと使えるモノは何でも使う覚悟が必要だ。
この世界はシンプルだ、必要なモノが単純化している。
『ただ生きる為の事をする』それだけで充分だ、考え過ぎる必要は無く、人の商業圏であっても俺にはトイがいる分有利だろう。
何せ異世界である日本の物を手にする事が出来るのは、大きなアドバンテージになるはずだ。
人が支配下に置いた世界では無い事はこの森を怪物達が闊歩している事が証明している。
この森は人の支配圏では無い。
まずは今までこの世界の人間に一度も合っていない点が上げられる、河川沿いに1ヶ月以上いるのに出会わないのは流石にあり得ない。
怪物の存在もそうだ、人が支配下に置いた世界ならば危険な怪物を駆逐しないのは考えられ無い。
此処が自然特区だとしたら管理者がいるはずだが、煮炊きの煙を1ヶ月以上も見逃す様な奴等なら居ない方がマシだ。
今は生活も安定している、そろそろ遠征に出るべきか、此処で完結した生活で済ませるか、判断が付かない。
これは賭けだ、この世界には人間がいるかどうかも分からずに人里を探す旅に出るか、此処での安定した生活で満足するかの。
「馬鹿じゃねぇの俺は、てめえ1人で決めて良い事じゃねーだろが、馬鹿め」
「ん、誰が?」
俺の独り言を半端に聞いた二ノ宮さんが尋ねて来るが、座る俺に対して二ノ宮さんは両手を両膝に当てて前屈みで俺の顔を見ているのでデカTシャツの襟から胸が見えている。
「見えそーだぞ、胸」
俺は顔を反らして嘘を吐く、見えそうでは無く見えてた。
「え、あ、あーえー、見た?」
二ノ宮さんが慌てながら胸元を腕で抑えて俺を窺う。
「見えたら教え無いだろが、見え無くなるんだから。
万が一に見えるとまずいから顔を背けたんだ」
「んー、分かった、一応信じる。
で、誰がバカなの?」
「俺が、馬鹿だって再確認しただけだよ。
もう少しで米が炊けるから、みんなを呼んで来てくれるか?」
「ハイハイ、おっけ。
あたしの相棒は馬鹿じゃ無いと思うよ、あたしは」
馬鹿な勘違い野郎だよ、俺は。
ご飯と塩だけの侘しい朝食を済ませた俺達は今後の行動方針を話し合う。
朝丘、下井の2人は移動を反対し、竹井君と二ノ宮さんは移動を賛成する。
ハッキリ言えば、俺、トイ、下井に多数決の参加権利は無い、俺が参加するとゴブリン達が俺に従うので、俺イコール最大多数に成ってしまう。
トイは参加する気すらなさそうで、下井はゴブリン枠の上に俺に反対すると『左腕に宿るモノがパンチを繰り出す』為、俺に従う可能性が『大』だ。
「で、言い出しっぺのモッさんはどうなん?」
やはり下井はアホだ。
「言うのは良いが下井、多分シリンにぶん殴られるぞ、俺と意見が対立すると。
と、言う訳で俺とトイは多数決に不参加だが、移動すると言っても今日、明日って訳じゃ無いし、場合によっては戻って来る。
そうで無いとただの追放だろ?」
「下井さんはゴブリン枠だから相棒に従う事に成って。
トイちゃんも相棒に基本従うから不参加。
相棒が言い出しっぺだから移動派なんだろうから結果は出てるよね」
「なんか、納得出来ないわよ」
「自分で移動派を説得してくれ、俺が入ると多数決にならない」
「えー、モッさんを抱き込めば勝ちのが楽じゃ···んべら」
シュールだな下井、自分で自分を殴って舌噛むのは。
「シリンちゃんなしてーウチ何か悪い事を言ったぁ?」
「はぁー、相棒を利用するって言う所がアウトでしょ、アホ」
「アホ違いますぅー」
「んじゃ下井はパーな」
「誰が出っ歯の大物芸人だー、って古過ぎ! モッさん化石並みに古いって」
「全然分からないから、止めてよ、頭が悪くなるわ」
「竹ちゃん、このねーさん酷くね?」
「オレに言われてもな。
でもオレが竹ちゃんだと、オレが下井さんを倒すのかい?」
「その竹ちゃん違う!! 世界の巨匠違うし」
「相棒ー、何の事か分かる?」
「大昔のお笑い番組のネタだ、俺がガキの頃のな。
あー、えー、なんだ、移動の件は保留にするべ、話進まんし」
結局、移動の件は10日後に再び決を取る事に決めて、俺達はその間に保存食の開発などで備蓄を増やす事を決定した。
先の事を考えるのが予定と言うのは、飽くまでも、山本さんの考えでしかありませんのであしからず。




