底辺のおっさんは、絶句する
カルフールの街に滞在してだいたい60日が過ぎ、その間に真帝国軍を撃退した回数は実に10回を越えている。
急激な戦況の変化と言うか、支配地域の拡大で付近の街を解放しに向かう余裕が全くない為だ。
東方諸国と真帝国軍は睨み合うだけで動かないので今のところは問題はないけど。
真帝国に戦奴として扱われた人達を故郷に帰す事や、寝返った真帝国兵やら騎士やらの処遇、それ以外の捕虜の処遇、補給物資の運送、街の治安維持と圧倒的に手が足りない。
ベルギアからエロ? エル? どっちだったか忘れたスタス、セランのじいさん、ジャンのおっちゃん、朝丘が協力しに来てくれたりもするが、内政的な面での人材不足が兎に角酷い。
セランのじいさん、ジャンのおっちゃんは内政関連の手伝いが出来るけど、俺や朝丘は下井の手伝いくらいしか出来ないし、他の面々は基本的に戦闘要員だし、フラマンは防諜関連で手が一杯。
ヨウとホルダーにおいては、防諜、情報収集、兵員輸送のチェック、運送管理と多忙。
下井も備蓄の管理や料理教室等で多忙。
個人的には料理教室は先人達が築き上げた知識の略奪みたいで嫌なのだが、基本的な事を教えて食料事情の改善や食材に関する知識が増える事での経済効果等の全体に対する利点が多く反対出来る状況でないので黙認している。
なんとか現状を打開しない限りは次に進む事が出来ないけど、どうしても人手が足りない。
街を安心して任せられるほどに戦力が集中している訳でもなく、かと言って戦力があっても街が危険に晒されては意味が無い。
やっぱ決戦か、電撃作戦の2択か……
敵を引寄せて一網打尽にする決戦
航空部隊で帝都を襲撃する事でこちらに手が回らなくする電撃作戦。
おそらく犠牲者が出る決戦
相手の警戒心を強めてしまう電撃作戦
直接帝都を襲撃して決着を付ける事も出来るかも知れないが、俺達に対抗出来る魔王や大天使がどれだけいるのかも分からない以上は迂闊に手を出すべきじゃないと思う。
知らない誰と家族や友達、優先順位は決まり切っている。
「ならば決戦と言う事だな、マスター ヤマモト」
「ホルダー、無断で念話を繋いで俺の頭の中を読むなよ」
「しかし、魔力を持たない君は考えが駄々漏れの筒抜けなのでな、この際、プライバシーは諦めてもらおう」
ひとでなしのこんちきしょうめ
「私が無機物なのは今に始まった事ではない。
まあ、冗談はこのくらいにするとして。
マスター ヤマモト、敵の戦力を釣り出す為に決戦を仕掛けるのは時期尚早と私は考える。
敵戦力には8魔王並びに6大天使がいる事は確定事項であり、我々は『運命』『秩序』の2体の大天使を撃破し、子細不明ながら『悪意』の魔王を撃破している。
元『災厄』の魔王であるブロゥは別として
闘争の魔王
病の魔王
偽りの魔王
破滅の魔王
腐敗の魔王
暗黒の魔王
時を司る大天使
獣を司る大天使
調和を司る大天使
真実を司る大天使
以上、最大10体の魔王級が真帝国に残されている可能性があり、魔王級はこの先の重要拠点の防衛を任されていると考えられる。
ミスター タケイが勇者の再来だとしても犠牲者を出さずベルギアでの魔王級との戦いの様な奇跡が度々起こる事は無い点を踏まえ、魔王級を撃破するには野戦である事が必須事項だ」
「つまり、犠牲者を出したく無いなら魔王級を引っ張り出さないとならないって事だよな」
「その通りだ。
真帝国に残る魔王級戦力がどれほどなのかは不明だが、ウィクトルや属国の王を『視て知る』事で、最低でも3体は確認されている」
「マジかよ……」
「属国の王は『真実』の審判と言う儀式に参加させられ、2人の人物に真意を見抜かれるとの事だ」
「真実の審判って事は『真実』の大天使と『偽り』の魔王辺りだな」
「その2体の他には勇者の剣と大盾を扱い真帝国に対抗していたウィクトルの祖父を殺害した闘争の魔王が確認されている」
ちょっと待て!
勇者の剣がどれほどの物かは知らんが、使用者を不死身にする大盾を使っているヤツを殺害したってどう言う事だよ!
アンがやったみたいに使用者の意識を刈り取ったのか!?
「その点はウィクトルの父を『視て知る』事で判明しているが、闘争の魔王は使用者の意識を奪う事なく手にした大鎌でウィクトルの祖父の首を刈り取っている。
今現在、我々が最も警戒するべき相手は闘争の魔王であると言えよう」
あのチャートアイテムが無効化させられるなんて、ヤバ過ぎだろ……




