底辺のおっさんは、相手の優先順位を理解していない
ホルダーによると補佐を付けず仕事をしていた出オチとあべしにこちらに寝返った真帝国関係者を補佐に付ける許可を出し、俺は本気で暇になった。
寝返った真帝国関係者の裏切りが少し心配だったが、ホルダーにしっかりと躾をされていた様子で物凄く従順で逆に怖い。
ホルダーはどんな躾をしたのやら……
誰か暇なヤツを誘って釣りにでも行こうかと思い、俺は厨房に顔を出したのだが何故か冷たくて硬くてゴツゴツした石造りの床に正座をさせられている。
「モッさん暇なのはええけど、誘う相手の優先順位を理解しとるんか」
下井先生、優先順位と言われても俺にはさっぱり分かりません。
「分かっとらん顔やな、それ。
まったく、そんなんやからモッさんはダメなんやで?」
「あー、うん、なんだ、その、先生、何がダメなのかすら分かりませんです」
「あーた、うーちゃんって婚約者がおるやろ。
うーちゃんがかわいそうやろがまったく」
あー、うん、なんだ、その、婚約者とか言われると照れ臭いんだけど。
「ヘタレ」
「ヘタレです、ハイ……」
とまぁ下井に怒られ、卯実とデートでもしてみようかと誘いに行ったのだが、普段が普段なので卯実がグネグネモードになると思いきやツッコミモードで怪しまれております。
「出掛けても、字が読めないから何の店かも分からないじゃん。
それに急にあたしを誘ったりするなんて、なんか隠してるでしょ」
「あー、うん、なんだ、優先順位があると下井に怒られまして」
卯実さん、俺をたくて硬くてゴツゴツした石造りの床に正座をさせて正面で仁王立ちで見下ろすのは何故なのでしょうか。
「なんの優先順位」
「お誘いする優先順位です……」
「相棒があたしを誘ったりするなんて、やっぱり怪しい」
すみませんが卯実さん、そんなじっとりした目で見下ろさないでもらえませんでしょうか……
何もして無いし、隠しても無いのに信じてもらえないって信用がないな、俺……
「マスター、暇です」
「なにしてるのー」
部屋のドアが開けっ放しと言うか、通路に正座させられているから、そりゃ人も通る訳で。
トイやリール王女が部屋の前を通る事もあり、彼女達が正座中の俺を発見する事も当たり前にある。
トイやリール王女が自分も連れてけと言い出し、騒ぎを聞きつけあれよあれよと人数が増えて卯実とのデートは中止。
結局は暇な面々で観光する事となり、現在は市場にやって来た訳だが。
辛気臭い……
出店がほとんどいないので人がいない。
人がいないから呼び込みの声も無い。
何でまた、こんなに人がいないんだ?
まばらにいる歩いている人も俯き暗い感じだし。
「ヤマモト殿、皆さん元気がないのでありますが、いったい何があったのでありましょうか」
リール王女の護衛と称してついて来たアンは落ち着きなくキョロキョロ、いや、動きが速過ぎてバババッと周囲を見回しながら聞かれても困る。
アンさん、田舎者を通り過ぎて不審者にしか見えないです。
リール王女は不安そうに俺のシャツの裾を摘まんで辺りを眺めてるだけで、トイにおいては無表情なのに退屈で不機嫌ですと言った雰囲気を醸し出してる。
「全体的にお休みの日とかじゃないよね、これって」
俺同様にこの辺に初めて来た卯実も市場通りの様子に引き気味だ。
「ヤマモト様、少々調べて参ります。
姉さん、皆様をお願いします」
リール王女の世話をする為について来たナミラさんが手近な店に向かって行くけど何事も無いと良いのだが。
そう言えば釣りに出掛けた時もほとんど人に会わなかったが、この街に何が合ったんだ。




