底辺のおっさんは、サムズアップでそれに答えた
ガーゴイルはバイク形態に変形して転がる剣に向かい、ホワイトゴブリンは俺達にサムズアップを向けて投石中の卯実へと向かって行くが、竹井君や卯実の動きを目視出来る視点だと。
滅茶苦茶遅ぇ。
成れの果てに攻撃している竹井君達を普通とするとガーゴイルやホワイトゴブリンはスロー再生の様に動きが遅い。
気持ち悪いくらいに遅く見えるのは俺が慣れてないからなのだろうか。
俺自身の眼で見る事が出来無い速度で繰り広げられる戦闘なのだから見えているだけでホワイトゴブリンやガーゴイルは十分凄いんだろうけど、速度差が酷い。
ともあれ、ホワイトゴブリンは卯実にチェーンソーを渡し、ガーゴイルは大剣の側でバイク形態から悪魔像へと再び変形して大剣を回収したのだが、その間、成れの果てが何もしていなかった訳ではない。
手を持たなかった腕の先端は、蠢き、裂け、5本の鉤爪となり、空を飛ぶシド達や銀竜を捕まえ様と振るわれたり、鉤爪の先端から光線を放ったりと別世界な戦闘を繰り広げている。
変化があったのは上ばかりではなく、下半身の方も棒状の塊だった脚の先端は爪先や踵のある足へと蠢めきながら徐々に変化し続けている。
卯実は投石、アンは砲撃、ブロゥは光線、竹井君は蹴りのスキルで衝撃波を放ち、成れの果てへと攻撃しているがアンの砲撃とブロゥの光線以外はほとんど効果がないのか、成れの果ては地上部隊を無視していて今のところは被害は無い。
俺はまず武器を手にした卯実の様子窺うと。
卯実はチェーンソーを自前の魔力で動かしたチェーンソーから出ている魔力の刃がデカイ。
30センチはありそうな魔力の刃が並ぶチェーンソーが高速回転すると、外に飛び出た光の刃が繋がって見え、まるで不恰好な光の大剣みたいだ。
光のチェーンソーを構えて卯実が突撃して行き、ガーゴイルの方は大剣を手に竹井君の側に駆けつけたところだった。
竹井君は大剣を手にしたはずなのに、手にした途端に大剣は光を放ち、消えた。
「山本さん! もう1本の方も!」
竹井君が大剣を持った途端に光って消えた事にあっけに取られた俺に竹井君から2本目をくれと念話が来たのだが、どこにあるのか俺は知らない。
人間ってヤツは急に知らない事や、分からない事を頼まれたり、尋ねられると。
狼狽える。
頭の片隅にある冷静な部分が、俺に説明しているのか見つからない言い訳を作っているか知らないが兎も角、俺は慌てて左右を見回すが、ホルダーに教えられるまでただ慌てるだけだった。
もう1本の大剣は真帝国の兵士達が持ち出しており、衝撃波で飛ばされそうになった時、重しとして地面に突き刺さっていると、ホルダーに教えられてその方向を見ると真帝国の軍団長のあべしが大剣を引き抜き、全身を発光させていた。
あべしのヤツ、何するつもりだ。
「受け取れ英雄っ」
お前もか!!!
お前なのかあべし!!!
この世界では危険物は投げ渡すのが流儀なのかっ!!!
何故投げ渡すのかは分からないが兎も角、あべしが投げた大剣は高速回転しながら突き進み、竹井君はそれを容易く手にした。
あー、うん、なんだ、流石は正義の味方だ、うん。状況がヤバ過ぎてさ、盛り上がるシーンっぽいのにさ、真面目やれって言いたくなったよ、おっさんは。
少しの驚きと、少しの呆れと、少しの怒りで現実逃避しそうになったけど、大剣は無事に竹井君の手に収まっ…… また消えたよ畜生がっ!!!
俺はそろそろ『ま゛ーーー!!!』って叫びたくなりそうなのだが、当の竹井君は右手を左腰の宝玉に当て、左手を右腰の宝玉に当ててから腕を開き、右手を頭上に掲げると右手から閃光の柱が立ち、そして。
竹井君が掲げた右手には白銀の刃を持つ黒い大剣が握られていた。
生まれ変わった大剣を手にした竹井君は大剣を構え様とすると、竹井君の前でガーゴイルが再びバイク形態へと変形し、それを見た竹井君がこちらに顔を向けたので俺は。
いや、俺達はサムズアップでそれに答えた。




