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底辺のおっさんは、旦那と呼ばれる

 10メートルを越えていそうな黒く爛れた巨体がゆっくりと立ち上がり、目鼻どころか口すら無い顔を俺達に向ける。


 天使達の残骸に取り込まれたのか、吸収したのかは分からないが、運命の大天使だった腐れ野郎は今、俺達を見下ろしている。


「バケモンやんけ……」


 下井の口から零れた小さな呟きは的を得ているが、巨大な化け物と言う事は目立つと言う事でもある。


電磁加速砲(レールガン)!!」


 いつの間にかヨウが砲弾を化け物に撃ち込むのだが、竹井君とブロゥの同時攻撃ですら効果の無かった化け物は電磁加速砲(レールガン)を受けてもよろめくだけ。


 物理攻撃無効って何なんだよ、幽霊の類いでも無いのに。


「マスター ヤマモト、完全に攻撃を無効化している訳では無い、表面魔力による保護膜が圧倒的なだけだ。ミスター タケイとブロゥの同時攻撃を耐えれたのは肉体の弾性による物であり、保護膜さえ突破すれば攻撃は通る」


「無効じゃ無くて耐性ってヤツか、それでもゲームじゃいるまいし滅茶苦茶だな」


「仕方があるまい、巨体と言うのは最低限それを維持する体力や筋力があるのだ」


 知ってるよ、そんな事。


 ホルダー先生のありがたいご説明を聞いていると、いきなり化け物の頭で爆発が起こり、化け物目掛けて複数の火球が殺到する。   


 火球はおそらく竜帝(ドラグカエサル)のブレス攻撃だ。


 高層建築物の無いこのベルギア王都で10メートルはあるデカブツは離れていても良く目立つ事だろう。


 あの戦闘狂がこんなデカブツを見逃すはずが無い。


 竜帝(ドラグカエサル)の爆発するブレスに続き、銀竜も光線の息吹き(レーザーブレス)を化け物に向けて放つ。


 シドとシロリのコンビも頭を集中して砲撃を加え始めるのだが。


 爆発などで見た目は派手だがダメージそのものは大した事が無い様子で、化け物を倒すには全く火力が足りていないのが分かる。


「ホルダー、トイの制限を解除したらどうなるんだ」


「マスター ヤマモト。制限を解除したトイ様ならば堕天(おち)た大天使ですら容易く処理出来るのだが。


 君は再び死を迎えるだろう。


 トイ様に送る大量の魔力が君を蹂躙し、今の君では心身共に耐え切る事は出来ないと私は予測する」


 犠牲が俺だけなら全滅よりはマシだが、俺だって死にたい訳じゃ無い。


 制限の解除は最終手段とするにしても。


 ヨウの必殺技は魔法で物理的な再現をしているだけなので効果は薄いし、ブロゥの魔法も化け物を倒し切るほどの威力は無い。


 動けないソウセキやこの場にいないカドゥが参戦したところで今までの様に一撃必殺とはいかないだろう。


 卯実の投石はほとんど無意味だし、変身した竹井君は遠距離攻撃が出来ない。


 俺が状況整理しつつ手を考えていると抱えたままにしていたリール王女がもぞもぞと動きだし、寝起きの様なぼんやりとした顔を俺に向けた。


「うにゅぅ、ヤマモト? あっ、白くて悪いのはっ」


「1つに集まってデカくて黒くて、厄介な奴になりやがった。今、竹井君や卯実達が相手をしてる」


 我ながら頭の悪い説明だとは思うが、細かい説明が出来るほどの余裕は無い。


「だったらリールもたたかう!」


「止めろって、竹井君の攻撃でも倒せない相手なんだぞ魔法の使えないお前が行っても足手纏いだ!」


「せやで、ウチらに出来ん事はタケちゃん達を信じる事だけやで」


 俺の腕の内で化け物と戦うんだと暴れだしたリール王女を下井と2人で止めるのだが、子供にすら勝てない俺ではリール王女を止める事は出来なかった。


 持ち前の怪力で俺を弾き飛ばし、下井を押し退けて走り出そとするリール王女に彼女は役目を与える。


「リール、剣を。あの大剣をタケイ殿に届けてくれ」


 気付かなかったがシャルローネ王女も意識を取り戻し、地面に寝たままで上半身をナミラさんに起こして貰っていた。


 流石にリール王女も姉の言葉を無視する事は無く、弱々しくも姉が指差す大剣に顔を向け「うん」と力強い返事と共に駆け出し、大剣を手にする。


 子供と言うのは何時(いつ)だって大人の想像を遥かに越えてくる。


 大剣を手に突撃するのかと思ったが、リール王女は走るよりも速く、そして危険な渡し方を選びやがった。


 投げた。


 目一杯に力を込めて


 投げた。


 怪力の持ち主であるリール王女が全力全開でぶん投げた大剣は真っ直ぐに竹井君へと飛んで行く。


 その速度は卯実の投石並み。


 つまり、視界共有していない状態の俺には見えない速度。


 デカくて重くて危険な刃物が、プロ野球の速球派投手(ピッチャー)が投げたボールよりも速く竹井君の背中目掛けて飛んで行く。


 一応は投げる前に「使って」とリール王女は声をかけてはいたが、誰に向けた言葉なのか不明な訳で。


 声に反応した卯実が驚き、その場から飛び退いて大剣を避けたくらいに危険な渡し方だ。


 投げ渡されたはずの竹井君においては回し蹴りで迎撃すほどに危険な渡し方だった。


 迎撃され、竹井君とは離れた場所に大剣は転がり、ちゃんと受け取ってなどと投げた本人は怒るのだが。


 いきなり投げる方が悪いだろ、普通。


「ホワイトゴブリンはチェーンソーを卯実に渡して、ガーゴイルはさっきの剣を竹井君に」


 大剣で化け物を斬れるかどうかは分からないが、素手よりはマシだろう。


 俺の指示でガーゴイルはバイク形態に変形して大剣へと向かい、ホワイトゴブリンは「アタイに任しとき、旦那ぁ」と言い残し卯実の方へと駆け出して行くが。


 もしかして、旦那って俺の事か?

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