底辺のおっさんは、笑う
集団脱走した真帝国兵達をホルダーが『視て知る』事で、地下牢にぶち込んでいた金髪小僧の見張りをしていたソウセキは、手下を呼んで嗤っている腐れ野郎に襲われ、人質となってしまったのだと知る事が出来た。
つか猫質か、ソウセキは猫だし。
重傷の様子だが命に別状が無いソウセキよりも、ソウセキが見張っていた金髪小僧。
家族が殺された事をシャルローネ王女やリール王女、あと王さまに気付かれないと良いが。
「オ、オレ様は真帝国軍団長なんだぞ、オ、オレを殺せばし、真帝国がだ、黙ってなないんだぞ」
「本来ならばただ消すだけの家畜が檻から解き放って貰えた事を本来ならば、神に感謝し神敵と刺し違えるべきところを、本来辿るべき運命に抗うなど赦される事ではない。本来の地位を鑑みても家畜と大天使、比べるまでも本来ないのだ、家畜」
あべしとか言いながら死にそうな顔の真帝国軍団長は腐れ野郎に怯え、本当にあべしとか言いながら死にそうなくらい恐れ震えているが、それでも。
それでも奴は集団の先頭に立ち、腐れ野郎の命令に抵抗する。
仲間と生き残る為に。
少なくとも、俺にはそう見える。
「マスター ヤマモト、君の美点ではあるが、それは悪い癖だ。真帝国兵達は我々の敵であり、君が救いの手を差し伸べるべき存在では無い」
「分かっている。分かっているけどさホルダー、借りがあるだろ。ソウセキの命を救ってくれた」
「それは結果論だ、マスター ヤマモト。ソウセキを人質にする事で優位性を持とうとしただけの事だ」
俺の考えをホルダーは否定するが、腐れ野郎の不意打ちを受け、気絶したソウセキを奴等が腐れ野郎を止めて助けたのは事実だ。
「全く君は。しかし手が足りない問題はどうするつもりだ、マスター ヤマモト」
フラマンを包囲しているシブ達を呼び戻すべきか、館で籠城するべきか。
「聞け!真帝国の兵士達よ。汝等が死兵となりて討つべきは我々か、運命の大天使を名乗る傲慢なる殺戮者か!
汝等の帰りを祈り待つ親兄弟、家族の願いを無為にし、このベルギアで果てる事を望むのか! 真帝国の兵士達よ! 我シャルローネ・ベルギアの問いに答えよ!」
数秒、ほんの数秒間、俺が迷っているとシャルローネ王女が腐れ野郎と真帝国兵達の間に出て腐れ野郎を真正面から見据え、剣を向け、そして背を向けた真帝国兵達に問い掛けると。
「このエセ中国人のホン・ライ野郎! 運命、運命じゃかましいんじゃボケが! 生きとる以上はいつか死ぬのは当たり前やろが! 死ぬのが怖くて、死ぬその時まで抵抗して何が悪いじゃい」
いつの間にか隣にやって来た下井が吠え、俺はつい、つい笑ってしまった。
セランのじいさんが教えてくれた様に、俺は笑う、声を上げて。
「運命は俺達の敵って事らしいけどよ。生憎と俺達は『最弱無敵』のへのへの一家! 敵はまとめて畳んでぶっ飛ばしてやんよ!」
「何時まで寝ぼけとんのや! 新入りぃ」
俺の啖呵に下井が未だに動かない新入り達に向けて怒鳴り、俺と下井は同時に吠えた。
「ぶちかませ!」
俺達の方に顔を向け、その手は食うかと嗤うのだが。
残念ながら誰も乗っていないバイク擬きが天使達をなぎ倒しながら俺と下井の前でバラバラに分離し再度合体し悪魔像の姿となり。
「トマソン!」
訳の分からん掛声の後、3体仲良く横並びの天使が上下6つに別れ、ドロドロと溶けて行き、溶けた天使の背後にはチェーンソーを横に振り切りこちらにサムズアップを向けている白いゴブリンがそこにいる。
「本来あり得ない! 本来、本来、本来ぃぃぃ!」
「黙れ、耳が穢れる」
背後に控えさせていた天使達の一部がなぎ倒され、3体が一振りで始末された事に、腐れ野郎が認識が追い付かないのか発狂した様に頭を掻きむしり喧しく叫ぶと、残った天使達の合間をすり抜けて来た影に殴り飛ばされた。
動き出したガーゴイル、ホワイトゴブリン、古代ゴブリンは、俺と下井の言葉通りに天使達へ攻撃をぶちかまし、俺の前に集結した。
残念ながら周囲の警戒がなってねぇんだよ、腐れ野郎。
「こいつはどっこい、ざまぁかんかんガッバーナやでエセ中国人」
ドヤ顔なのは良いが河童の屁じゃ無いのか、下井。
ってか、ガッバーナって何?
 




