底辺のおっさん、メスゴブリンを完成出来ず
メスゴブリンはまだ未完成なのです。
メスゴブリンが珍しいのか全員が俺の作業を眺めている。
今はメスゴブリンに持たせる道具をプラスチック粘土で作っている。
大型のバックパック、小型ハンマー、鉈、盾、デカイ鋏、ランプ、金床、ロープの束、シャベル、手回しドリル、ヘラ、ナイフ3本、ノコギリ、鉋、サイズ違いのノミを5本を作って、鉈とナイフ以外をバックパックに着け、鉈とナイフを本体に着けよう。
細か過ぎで指が攣りそう···
今回のゴブリンはダメ元の実験体なのに、シブ達『ホワイトゴブリン』は期待に満ちた目でメスゴブリンと俺の手を眺めている。
「妹ッス、妹! 楽しみっスね」
「僕、女の子の相手した事ないよシンに兄さん、どうしよう」
「ほほぅ、あたしは女の子では無いと? シロリ君?」
「ニノはメスっス。
とびきり獰猛で危険な猛獣のメスっス」
「ほほぅ、シンはとびきり獰猛で危険な猛獣にケンカを売ると? 上等だ表出ろコラ!」
コイツ等うるせぇな······
「主、これは小剣でしょうか?」
ナイフだよ、サイズがおかしいのは分かってるつーの。
「神たる我が主、この槍は刃がかなり大型ですなぁ」
それシャベル、剣スコってヤツだけど!! なにか!!
「皆、少々騒がしいぞ、主の邪魔をするで無い」
うんうん、シブは良い事を言うなぁ、刀作っちゃうよシブ専用の。
「山本って、不器用なのねフフフ」
違いますぅー、フルスクラッチが苦手なだけですぅー。
「ミスアサオカ、確かにこの作品集が不恰好なのは認めるが、マスターヤマモトの使用器具の不足も考慮するべきだ。
そして、まだ完成品と言う訳ではあるまい?」
ハードル上げんな目玉。
「この変な杖からして、この娘は魔女なのかしら?」
ディスイズアドリル!!、これはドリルです!!
「あーーー、もーーーー、黙れ黙れ黙れこんチキショーーー。
てめえ等パンツに沢蟹入れられてぇーか? それともアナゴが入ってやろうか!! あぁ!!」
っても、本気で怒った訳じゃ無いけどな、沢蟹なんか無いし。
「逆ギレでセクハラ、最低ね、死ねば良いのに······」
死ねとか辛気臭子に言われたく無いわボケ。
「ちょ、朝丘さんって、トイちゃん何を?」
蓋した小鍋を手にしたトイが竹井君のズボンのベルト通しを引っ張った。
「沢蟹です。
マスター、用意しました」
え、沢蟹? 何処いた? 俺、知らないんだけど······
「へ、沢蟹ってマジで!! その小鍋? あたし知らないんだけど、どうしたのトイちやん」
二ノ宮さんがトイの持つ小鍋のに手を伸ばすと、朝丘さんが叫び出した。
「やめて!! それはわたしのよ!!」
なんて言った? 今、何と言ったんだ? この女は。
「否定します。
マスターの定めたルールにより、朝丘 夕はこれ等の器具の使用権利があるに過ぎません。
又、器具内部に存在する沢蟹も、この場所の取り決めにより、マスター以外の個人所有権は認められていません。
マスターの生存に、二ノ宮 卯実、竹井 猛、朝丘 夕の3名を必須としておりません」
トイが無表情で淡々と告げる。
「そうっスね、主が『助けろ』って言ったから、ニノは潰れたマトマの実(トマトの事)みたいに成らずに済んだだけっスし」
「ですね、竹井さん達も主のご厚意でこの場所に居られるに過ぎ無いのですし」
シンに続きイットゥーが表情を消して告げる。
「待たぬか! この馬鹿者共!! 沙汰は主が決める事! 我らは主のお言葉を待つのみ。
早まるで無い馬鹿者共め!!」
珍しくシブが大声で怒鳴った。
戦闘中では度々あるが、仲間に向け本気で怒鳴り声を上げたのは俺が知る限り初めてだった。
「そうね、シブの言う通りね。
決めるのは主殿よね、アタシ達が自分の判断で始末して良い事じゃ無いわね」
いつの間にかホルダーを掲げていたヨウがゆっくりとホルダーを下ろし、イットゥーは腰の剣から手を放す。
「そうっスか? この女は主を見下してるっスよ。
ニノも最近は主に言いたい放題っスし、タケの兄貴ぐらいっスよ主に敬意を示してるの。
つーか、カドゥにしては良く我慢してるっスよね」
シンの言葉で俺は一番面倒臭いヤツ、カドゥを見ると、カドゥは立ったまま気を失っていた。
······なして?
「ダメ、完全に気を失ってるわ。
コレの事だから多分、怒り過ぎて頭がボン! ね」
カドゥの顔の前で手を振っていたヨウが俺達に握り拳を見せてからパッと手を開いて示した。
「兄者、これでもっスか?」
「それでもだ」
シブが俺を見詰めながらシンに答える。
「メシ食うべ、その沢蟹をさ、みんなで。
後、いつもありがとなシン、代わりに怒ってくれて」
俺は頭を掻きながら告げた。
俺達は地面に直に座り足の低い自作テーブルを皆で囲み、沢蟹と鶏肉とマトマの実を茹でた物を久しぶりの昼メシにして食っていた。
いつもはシンを相手に騒がしい二ノ宮さんもモソモソと黙って食っている。
暗い食卓に俺は溜め息を吐き、自分の皿をテーブルに置いて頭を掻いた。
「あー、うん、朝丘さんは自分の内で人を順位付けしてるよな? 別にそれが悪いとは言わない。
確かに俺とトイは役立たずだがゴブリン達のリーダーだ。
脅す訳じゃ無いが余り下手な事を言わ無いで欲しいんだ、ウチのイカれ坊主が喧しいから」
朝丘さんは俺を無視してブツブツと何か呟き続けながら自分の皿の中身を箸で突っき、カドゥも同じ様にブツブツと呟きながら皿の中身を箸で突っいている。
ゴブリン達が何か言い出す前に俺は腕を上げてゴブリン達を制して全員を見回す。
トイと朝丘さんとカドゥ以外が俺の言葉を待つ。
「朝丘さん、貴女には罰を受けて貰う。
沢蟹の事を隠していたからじゃ無い、不用意に騒ぎを大きくしたからだ。
もし、嫌だと言うので有ればここから出て行って貰うよ。
後、シンとイットゥーも一因があるから罰を受けて貰うよ。
シンとイットゥーは10日間、交代で夜の見張りと便所の穴掘りでもして貰おうか。
朝丘さん、貴女は『ホルダーの刑』を受け貰う」
俺の決定に、二ノ宮さんが小さく悲鳴を上げてシンとイットゥーが項垂れ、朝丘さんは無視を続けていた。
「マスターヤマモト、私の刑とは一体?」
二ノ宮さんは気が付いたが他の面々は首をかしげる。
まぁ分からんよな『ホルダーの刑』言われても。
『ホルダーの刑』それは自分のトラウマや黒歴史、他者の悲惨な記憶を強制再生する極めて厳しい罰だ。
二ノ宮さんと俺はある意味で経験済みなのだが、アレってかなりクルんだよな、見るのも見られるのも······
「ホルダーは朝丘さんに俺達や朝丘さん自身の記憶を見せてやってくれ。
ただし、見せるのはこの世界に来てからの事だけだ」
「マスターヤマモト、それが罰になるのか? 私には理解出来ん」
「例えば、俺の初日と2日目の記憶や転移者を埋めた時の記憶とか、二ノ宮さんが追い回されていた間の記憶とかだな。
二ノ宮さんの記憶は本人の許可が有れば、だけどな」
「ふむ、理解した。
今の安穏とした生活に比べ、マスターヤマモトの飢えと渇きの記憶は確かに罰に足りうる。
生き残れなかった者がいると知ればミスアサオカも態度を改めてるやもしれない」
「頼んだ。
他の人は自由行動、ただし自己責任の範囲で頼む」
俺が話を終えると、二ノ宮さんが手を上げ立ち上がる。
「あたしは山本さんの手下にはなりません。
何故なら、あたしは山本さんの相棒だからです。
相棒だから対等でなければ成らないのです、あたしと山本さんの間には上下は無いし、あたしに出来ない事を山本さんがして、山本さんが出来ない事をあたしがする。
そんな関係で在りたいとあたしは思う」
なんなん? いきなり?
『アナゴが入ってやろうか』は誤字ではありません。
以下『フルスクラッチってなんなん?』な人の為の補足
フルスクラッチとは全て自作で作り出した物の事で、フルスクラッチビルドと言う用語を略した言葉です。
首の差し変え等の既存品を流用する改造はミキシングビルドやセミスクラッチビルド、ハードスクラッチビルドと呼ばれています。
なので山本さんの作ってるのは本体のメスゴブリンが既存品の為ミキシングビルドです。
詳しく知りたい方はスクラッチビルドでググるとイイかと←丸投げ




