底辺のおっさんは、囮になるつもりです
特にする事も無くベッドで安静にしているのだが、トイ、卯実、リール王女の3人はなして部屋に居座っているのだろうか。
この世界の娯楽は知らないが、ただ椅子に座ってるだけって退屈だと思うのだが。
ニコニコと笑顔で俺を見ているリール王女。
思案顔で俺を見ている卯実。
顕現で召還し、バージョンアップしたはずなのに相変わらず無表情のトイ。
「あー、うん、なんだ、俺ってどれくらい倒れてたんだ」
気まずさの余りに尋ねてみたのだが、卯実さんや、なして貴女は長いため息を吐くのでしょうか。
「さっきも言ったけど2日」
そして、なしてそう刺のある声で返すのでしょうか、俺には分かりません。
「大体の事はホルダーの『視て知る』で知ってるけどさ相棒。無茶のしすぎだよ、本当に危なかったんだから」
心配を通り越して呆れ顔の卯実が堰を切った様に説教をしだすのだが、彼女の言い分は最もなので俺は黙ってそれを受け入れるのだった。
段々と説教と愚痴が混ざりだし、ただ言いたい事を言ってるだけの状態になった卯実のそれは、ドアをノックする音と入室を求める声で一応は終了し、笑顔のリール王女が姉であるシャルローネ王女を部屋に迎え入れた。
シャルローネ王女の他には竹井君、下井、ヨウ、ホルダー、ソウセキ、アンが来ており、みんなが無事を祝ってくれた後に本題に入るのだが、人数が多いのは分かるが俺の隣で横になって寛ぐのは如何なモノかと思いますですよ、トイさんや。
シャルローネ王女は真剣な顔で俺達『へのへの一家』に、1日も早く真帝国を攻撃して欲しいと依頼して来たけど、何があったんだ。
シャルローネ王女はそんなに好戦的な娘じゃなかったと思うのだが。
「あー、うん、なんですか、その、山本さんが倒れてシブ達がかなり荒れてたんで、シャルローネが「気晴らしに兵隊さん達に稽古を付けては」って提案したら、あー、うん、なんですか、その収拾がつかなくなって、その、兵隊さん達が死にそうなんですよ、無茶苦茶なので」
ばつが悪そうに頬を人差し指で掻きなが竹井君が理由を説明してくれたけど。
あー、うん、なんだ、気まずい、本当に気まずい。
俺の判断ミスで死にかけたり、シブ達が兵隊さん達に迷惑をかけた訳なんだし、謝らないとダメだよな、俺が悪いんだし。
「あー、うん、なんだ、そのさ」
「ヤマモト殿に責は無いのです。我々の不甲斐なさが招いた事、お許しくださいヤマモト殿」
俺が謝ろうとしたら、シャルローネ王女が勢い良く頭を下げて謝罪するので謝るタイミングが……
「恥の上塗りと分かっておりながら、皆様に周辺国への支援を依頼する己の不甲斐なさ、誠に申し訳ありませんヤマモト殿」
「ねえ様」
あーもー、俺が悪いのになんでそんなに謝るかな! リール王女も不安になってスカートを握りしめてるし! 勘弁してくれよ、全く。
「あのさ、悪いのは俺! 判断ミスで死にかけたのは自己責任で、俺の判断ミスでリール王女を危険に巻き込んだのも俺! しかもまだ謝ってない!」
「いや、しかし」
つい逆ギレした俺にシャルローネ王女がまだ何か言いかけると、竹井君がシャルローネ王女の肩に手を置き、左右に首を振って止めた。
なに通じ合ってんたよ、こんちきしょうめ。
「兎も角、俺の判断ミスで迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
逆ギレしたまま謝罪とか、態度が悪いな俺。
「あのね、そのね、リールをまもってくれて、ありがとヤマモト」
態度の悪い俺にリール王女が頭を下げてお礼を言うなりベッドの端に乗って。
あー、うん、なんだ、そのさ、子供と言ってもされると照れ臭いな、頬にキスとか。
「む、ヤマモト殿が妹を望むのなら私は祝福する」
俺はされた方で、した方じゃないザマスわよシャルローネ王女殿下閣下。
卯実さんが能面みたいな顔でみてるから止めてよ。
「マスター ヤマモト、落ち着け。王女殿下閣下と訳が分からなくなっているぞ、ミス ニノミヤもだ」
もっと早く出て来てよホルダー先生は! こんちきしょうめ。
「マスター ヤマモト、私は無機物なので畜生では無いぞ」
「遊ぶなよ、ホルダー先生。んな事よりも真帝国の情報は何か無いのか」
「まずは君やリールを襲った者についてだが。
名はフラマン、真帝国の暗部を統べる将軍であり、外見、能力、第三者視点によるフラマンの活動記憶から推測されるのは、フラマンが妖精族かそのハーフだと言う事。
次にフラマンの行方だが、視て知る事でヤツの足取りを探ったのだが、誰も見ていない事が判明している」
「なるほど、潜伏中の可能性が大きいな」
「その通りだ、私個人としてはシャルローネの依頼は断るべきだと判断する。理由は告げずとも分かるだろう、マスター ヤマモト」
「王族の警護か、ベルギアの」
「マスター ヤマモト、呆れて物が言えんよ、君の解答は」
「あのさ相棒。あたし達はシャル達を守る義務は無いんだよ、頼まれても。
シャルは友達だし助けたいけど、フラフラマンとか言うヤツが相棒の事を知ったら絶対にまた来るよ、絶対」
あー、うん、なんだ、卯実さん、フラフラマンって凄ぇ倒れそうなんだが。
今にも倒れそうなフラフラマンにぶっ飛ばされた俺ってなんなのさ。
「ミス ニノミヤ、フラマンだ。マスター ヤマモトの記憶にある酔拳と言うカンフーマスターでは無い」
や、真面目に言われても返しに困るのですよ、ホルダー先生。
「兎に角! そのマンから相棒を守りながら仕返しをするのは危険だって事! 分かった!」
逆ギレされてもさ、そのマンってなんなのさ相棒。
「危険だって事は分かったけど、逆に守りを薄くして返り討ちにした方が良いと思う。
まず、フラマンとか言う酔いどれ小僧が本当に潜伏しているか不明な事。
いないヤツにビビって時間を奪われるよりも、炙り出した方が周辺国の被害も減るし、ヤツが別の任務に駆り出される可能性も出て来るだろ。
次に、ヤツの目的がリール王女だった事。
ヤツと言うか、真帝国の目的は周辺国の同盟破棄だと思うんだ。
もし、ベルギアが周辺国を裏切り真帝国に寝返ったらどうなるのか。周辺国は総崩れで瞬く間に真帝国に攻め滅ぼされると俺は思う。
寝返りの信憑性を持たせるならば、ベルギアの王自ら真帝国に下ったと宣言させる事を選んだから金髪小僧の反乱やリール王女の誘拐を企てたんだと思う。
任務に失敗したヤツは逃亡する為に潜伏中の可能性がある。
最後に虫や動物にも見られずに潜伏し続ける事が難しいからだ。
ホルダー達の『視て知る』能力は虫や動物にも効果があるから、こちらが隙を見せればヤツが虫や動物に見られる確率が上がるし、何よりも俺達にはバックベアード種のホルダーやヨンタがいる事を知っている人間が余りいない事だ」
「なるほど囮作戦と言う訳だなマスター ヤマモト」
「その通り、発見さえ出来れば後はどうとでもなるだろホルダー」
「だがマスター ヤマモト、最大の問題は誰がフラマンを迎え討つのかだ。シブ達は決して譲りはしないぞ、君の仇討ちなのだから」
「それはどうとでもなるさ、竹井君、卯実、ヨウ、ソウセキがフラマンを相手にする。
警護を必要とするシャルローネ王女、リール王女、王様、金髪小僧の4人だから各1名がつけばいい。
俺に警護が必要なら朝丘とジャンのおっちゃん、連絡要員にフューラちゃんが居れば時間は稼げるし、何より俺は動けないから3人で内職でもしていればいいだけだ」
「いや、シブ達が納得しないだろう、マスター ヤマモト」
「シブ達も囮なんだから納得して貰うさ、シドは上空からの監視要員で残って貰うけどブロゥと竜帝の2チームに別れて周辺国から真帝国を追い払い、最後に皇帝をぶっ飛ばして、この厄介事も終わりだ」
さて、反撃開始と行きますかね。
「マスター、ガチャの予定を忘れています」
トイさんや、締まらないから止めてよ……




