底辺のおっさんは、酒を振る舞われる
ハゲでガリで170センチに届かなくて魔力ゼロのパッとしないヤツで悪ぅごさんしたね、こんちきしょうめ!
女将さんの感想に俺は少しばかりムッとしたが、ここはまぁ大人なので我慢するとして。
「マスター ヤマモト、彼女はそこまでは言っていない、事実を事実として受け止めるのも結構だが、我慢は身体に良くは無いぞ」
余計なお世話だよ魔杖め。
「ちょっと! 相棒を馬鹿にするとただじゃ置かないわよ!」
「某達の名を騙った連中がいた事だけでは飽きたらず、主を愚弄するとは。女、覚悟は出来ておるか」
「馬鹿にした、殺す!」
「主に向かって不山戯た事をぬかすと、店ってヤツごとブッ潰してやるっスよ」
「その重そうなお腹でぎっくり腰になったらどうなるのかしら?
目の前で店が塵になるとどうなるのかしら?
無限の悪夢に囚われるとどうなるのかしら?」
「女、腹を捌いて殺すぞ」
「ふしゃー!!」
あー、うん、なんだ、みなさんそういきり立たない。庇われてる俺が情無くなるから。
「ちょっとちょっと、お待ちよ。ついパッとしないなんて言っちまったけどさ、別に馬鹿にしてる訳じゃないだよ、気に触ったんなら謝るよ。
失礼な事を言ったアタイが悪かった。ごめんなさい」
みんなを制止するかな様に両手を突き出したのちに女将さんは謝罪の言葉を口にし、頭を下げ様としたので俺は慌てて彼女の肩を押さえて止めた。
その腹じゃ腰を曲げるのも大変だし、こんな世界じゃお腹の子にどんな影響があるのかも分かったモンじゃない。
「止め止め! 俺は気にしてないから。みんなも落ち着く!」
「なんだい、アタイなんかに気を使ってくれるのかい、アンタは」
俺に肩を押さえられ、きょとんとした顔で女将さんは俺を見ると再び豪快に笑い出し、俺の背中をバシバシと叩きだしたんだが、滅茶苦茶痛えから止めて。
「相棒は強くて優しくてどんな時でも気にかけてくれる大人で音痴で自分に自信がなくて無理と無茶ばかりで毎回倒れてたり変なところもあるけど凄い人なんだから」
腰に手を当てて胸を張って述べておられる卯実さんや、途中から悪く言ってないか俺の事。後、早口言葉かよ。
「アタイなんかに気を使うのは家の旦那以外じゃ初めてだよ! それにアンタの為に怒ってくれる連中がこんなにいるなんて大した男だよ、アンタは!」
ただでさえポンコツな身体だと言うのに、痛みと衝撃に耐え忍んでいた俺は女将さんの最後の1撃で、地面に飛び付くほど仲良しになったよ、こんちきしょうめ!
女将さんに吹っ飛ばされたりと、なんだかんだとありつつも飯を食わせると言い張る女将さんに俺は折れ、明日以降か昼ならばと条件を付けると即座に彼女の店へと引き摺られて行き、俺達は円卓の1つを占拠させられている。
円卓を占拠する様に強いられているんだ!
「マスター ヤマモト、そのネタはつまらん」
勝手に頭の中を視るなよホルダー!
アホなやり取りをしつつ席で待っていると女将さんはリール王女と同じくらいの歳の子2人とともにジョッキを運んで来るが、中身はなんだ?
「ほら、まずは酒だよ!」
片手にジョッキを3つづつ持った女将さんは俺の前に3つ置き、左隣に何故かいるトイの前に3つ置いた。
まあ、隣に回せと言う事なのだろうが、右隣の卯実や左隣のトイに回せるモノじゃないだろ、酒は。
木製のジョッキを満たしているのは、ファンタジー物の世界で良くあるエールとか言うビール擬きやワイン、蒸留酒のウィスキーの類いではなく、多雑で不純物だらけで濁り切った酒。
所謂『どぶろく』ってヤツで、未成年の卯実や多分卯実より歳下のトイに飲ませるのは論外だし、どぶろく初体験の俺もヤバいかもしれない。
「さぁージャンジャンやっておくれ! なんなら店の酒を全部飲み干したって構わないよ!」
女将さんはそう言うが、原料のカスみたいなのが浮いてるし、どうすっかね。




