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底辺のおっさんは、テンプレに感動してしまう

 リール王女を見失うのもそのはず、ここから4つ先にある店を差し示し、スキルを解除した卯実が入って行く。


 リール王女達が絡まれ卯実が助けに向かったにも関わらず、通りにある店の説明や自分は一寸(ちょっと)ばかり顔が利くなど、自慢話に夢中のアンを放って俺は卯実を追いかけて店に向かうのだが、身体が痛すぎて走れない。


 トイに追い抜かされ、俺の後ろにいたヨウに不意打ちで抱えられて店にたどり着くと、リール王女と子供達を背に庇う卯実を囲む存在がいる……


 あー、うん、なんだ、コイツ等はブロゥの近類種か何かか? 頭だけ獣の連中が卯実に絡んでいるのだが。


 猛獣とかの頭なら格好良いんだけど、ブロゥ同様にアレな頭だし。


 卯実の正面にいるのは溝鼠(ドブネズミ)だし、卯実の左右を塞ぐ右側は縞馬(シマウマ)頭で、左側は鴨嘴(カモノハシ)頭。


 この連中は頭以外は人の様で卯実に手をだしたり引っ込めたりしてからかっていやがる。


「何があったか知らないが、そこら辺にしてくれよ。俺の連れなんだ」


 俺が獣頭達に声をかけるとリール王女と子供達は俺の後ろに回り込んで俺を盾にしくさりやがり、卯実は振り向いてしまった。


「へっならそこで見てな、この女が喘ぐ(なく)のをよ!」


 溝鼠頭がそう言うなり卯実を捕まえ様と手を伸ばしたが、その手は空を切る。


 卯実が溝鼠頭に踏み込み、その場でターンしながらしゃがみ、すらりと伸びた脚で溝鼠頭の足を払い、床に着けた手で身体を回転させる。


 俺がガキの頃にテレビCMで少し流行したブレイクダンスとか言うヤツに似た動き、格闘技だとカポエラとか言う逆立ちして蹴るヤツに似た動きだ。


 腕の力で全身を回転させる卯実は縞馬頭と鴨嘴頭をまとめて蹴り飛ばしたのだけれども……


 相棒、今の自分の格好に気がついているのか? 珍しくスカートを穿いてるんだからアレが必然的に見える訳なのだが。


 見えた事より考え無しの行動に対する呆れの方が強くて溜め息が出ちゃうよ、相棒。




 脚を振り回して獣頭達を蹴り飛ばした卯実は回転の勢いを殺さずに両腕の力で飛び、空中で身体を(ひね)って着地するなり俺に頭を突き出して来た。


 俺にその頭を撫でろと言うのでしょうか、お(ぜう)さん。


 溝鼠頭は真後ろに倒れた際に頭を打ちノビてるし、縞馬頭と鴨嘴頭はまとめて蹴り飛ばされて石壁と仲良くしてる。


 卯実が突き出した頭を撫でていると、理由は分からないがトイも頭を突き出して来たので仕方無く撫でてやると、周囲から歓声が上り俺を驚かせた。


 なかなか個性的な連中に絡まれていたので周囲の確認が疎になっていたが、改めて店の内を確認すると4つの円卓(テーブル)とカウンター。


 円卓を囲み木製のジョッキを手にして卯実を称える男達。


 カウンターの奥には倒した状態で積み上げられた大樽や木製の皿やジョッキが納められた棚。


 酒と油の匂いに満ちた店内。


 この店は間違いなく酒場だ。


 映画などで見知った中世ヨーロッパ風の酒場。


 ヤバい、なんか今の俺、感動してるっぽい。


 異世界で酒場に行ったら絡まれるとか、マジでヤバい、テンプレだよテンプレ! 感動モノのヤバさだろ!


「うるせえぞ、ザコどもが!」


「おれ等を誰だと思ってやがるんだぁ!」


「まぐれで調子ノッてんじゃねえぞ!」


 俺が異世界転生のテンプレ『酒場やギルドで絡まれる』体験で我を忘れていると、円卓の1つを占拠している獣頭の集団が木製のジョッキを円卓に叩き着け、入り口付近にいる俺達に向けて怒鳴り、こっちに向かってくる。


 獣頭の集団が向かっ来ているのだが、凄え微妙だ。


 絡んで来た溝鼠頭、縞馬頭、鴨嘴頭の仲間だと思うが、コアラ頭とか駱駝(ラクダ)頭とか蝙蝠(コウモリ)頭とか頭以外は人間っぽいので本当に微妙だ。


「この国から真帝国の連中を追い払った『けもけも一家』を舐めんじゃねぇぞ!」


 カピバラ頭が怒鳴ると周囲の男達は黙り込み、俺達から視線を反らし出したけど。


 あー、うん、なんだ、君等、(かた)りか、うん、なんだ、取り敢えず。


「取り敢えず、アレだ」


魔女の一撃(ストライク・ウィッチ)!」


 俺がアレと言った途端にヨウがホルダーを振り抜きアレの名を告げた。


 強制的に対象をぎっくり腰にする必殺技、魔女の一撃(ストライク・ウィッチ)


 獣頭の騙り屋どもは全員仲良くぎっくり腰で床に崩れ落ちたが、どうしたもんかね、コイツら。

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