底辺のおっさんは、叫ぶ
化け物亀が爆散したのはホルダーが発案した悪戯だと分かったけど、本当に滅茶苦茶だな竹井君は。
普通は踵落としで亀の切断とか出来ないし、完全勝利を周囲に示したり、本当に滅茶苦茶格好イイ正義の味方だよ、全く。
俺は化け物亀が跡形も無く爆散し竹井君の勝利を見届けた途端に肩の力がふっと抜けた。
どうやら無自覚に緊張していた自分に苦笑し、俺はヨウとカドゥの2人にシブ達の治療を頼んだのだが。
はい、普段通りまともに行きませんね! こんちきしょうめ!
勝利に歓声を挙げて竹井君の元へと我先にと走り出す周囲の奴等が邪魔でヨウやカドゥが倒れているシブ達の元に行く事が出来ないでいる。
その様は酷いモノで、倒れ治療を必要としているシゴやシンを踏んで行く輩もいて、あー、うん、なんだ、殺すぞクソどもが!
「静まれ愚か者ども!」
俺がムカつきの余りヨウかシロリに吹き飛ばさせ様と思った途端にシャルローネ王女の一喝が周囲に響き、皆足を止め手シャルローネ王女に注目し出した。
「此度の勝利は我が夫、竹井殿のみ勝利ではない! 英雄たる竹井殿が属する放浪者団『へのへの一家』全員による勝利だ!
勝利の為に傷付き倒れし勇者達を足蹴にするなど言語道断! 彼等にもしもの事があれば私は決して赦さん!」
シャルローネ王女の一喝でシゴやシンを踏んでいたクソ野郎どもが慌てて飛び退いたが、俺は絶対に赦さん。
「俺の家族を足蹴にした報いだ。ヨウ、ホルダー『魔女の一撃』と『ホルダーの刑』をかましてやれ!」
「報いを受けて貰うのはやぶさかではないが、マスター ヤマモト『ベルギア第2王子ヘンク』や先程の発言についてはどうする」
「ん、そう言えば金髪小僧はどこ行ったんだ」
「化け物亀、すなわち秩序の大天使の翼に囚われていたが、ミスター タケイにより大天使の翼が破壊された事で解放された結果、高所からの落下となり広場の隅に転がっている」
「あの高さから落ちて生きてんのか、金髪小僧は」
「ヘンク王子は意識を失っている上に両足の骨折が1目で分かる状態だ。自力での抵抗および逃亡は不可能だろう。
現在はアインが監視中している。」
ホルダーから第2王子の状況を報告されて気が晴れ、1息を吐いた俺は誰かが菓子を食う音しかしていない事に違和感を覚え周囲を見渡し、トイ以外の面々がプルプルと震えている事を知る。
みんなが震えている理由は知らんがトイさんは平常運転ざんすね。
「許さーん!」
「言ったー!」
「「キャー!」」
「マスター、ポテチを所望します」
王様が激昂し、下井は左腕を掲げて振り回し、リール王女と人形がキャーキャー叫びながらテーブルをバシバシと叩き出して喧しく、トイはトイで空になった赤い筒を俺に向けてるし。
あー、うん、なんだ、怒ってる理由もキャーキャー騒ぐ理由も分からんし俺にどうしろと。
「我が夫! シャルルんったらタケちゃんの事を『我が夫』とか言っちゃつたよ、モッさん!」
「へ? 夫?」
「さっきゆーてたやんか『我が夫』って」
下井さんや、それマジですか?
みんなが騒いでいる理由が分からずにいたが、下井バシバシと右手でテーブルを叩く下井が告げた『みんなが騒ぐ理由』に理解が及ばず固り、理解と同時に叫んだ。




