底辺のおっさんは、超変身に巻き込まれました
着地失敗のダメージは無かったかの様にアンは勢い良く上半身を跳ね上げて俺達に無事な姿を見せたが、そのがっかり感は大きく、リール王女は下井の肩を揺さぶりアンを指差している。
「ぬお! 死ぬかと思ったぁ」
起き上がる成り叫ぶアンの姿に脱力感に襲われ、俺はツッコミすら入れる気になれなかった。
「アン、怪我とか大丈夫」
リール王女と下井を連れて卯実がアンの様子を見に行くのだが、俺ってもはや眼中に無いのか。
「いやー失敗失敗。コケてしまったのでありますよ」
アンは照れ隠しで頭を掻くのだがライガーの姿な為、アニメや漫画染みていて、なんとも滑稽だ。
「ほら、アンはダメダメなのじゃ」
リール王女が『フフン』と聞こえそうな気がするくらい偉そうに胸を張ると下井が舌を連続で鳴らし人差し指を左右に振る昭和臭が香る否定をして見せた。
「チッチッチッそいつぁー少々違うゼぶらじゃー。アンちゃんはダメダメちゃう」
「さっきも転んでへんなカッコだったよ!」
「アンちゃんはヘッポコだ! ダメじゃない! ヘッポコなんだよ! のじゃっ娘!」
「ちょ、2人とも言い過ぎだって。アンは空とか飛べて凄いとこあるじゃない」
卯実さん、空とか飛べての『とか』って何さ、海や陸を飛んだりするのでしょうか。
「否ぁー! 否であります! 自分はアンと言う、カッコカワイイ美人過ぎる騎士では無いのであります! 自分は『仮面ライガー』であります!」
「否ぁー! 否! 否! 否ぁー! ヘッポコ小娘ぇー! それは我の真似か! 否! 断じて否! 我はその様な無様を晒した覚えは無い!」
参加するなよカドゥ、俺と一緒に空気になっとけよ、面倒臭いから。
カドゥのイカれ坊主が乱入した事でカオスな状況になりつつあるので俺は未だに着地しないシドを手招きして呼び、カドゥを配送してもらう事で事を納めた。
「時にヤマモト殿、カドゥ殿はどちらへ?」
空気に徹していた俺に、変身したままのアンが質問して来やがり俺に注目が集まってしまう。
「ちっ、捕虜になってた兵士達とかの治療に行ってもらった」
ついつい舌打ちをしてしまったが、質問に答えてやるとアンは『俺には見えない速度』で詰めより俺の肩を揺さぶり出した。
「自分も飛べるのでありますよ! 自分に頼めばシド殿に往復してもらう必要は無かったのであります。自分にも何か、何か仕事を、ヤマモト殿!」
流石に信用出来無いからとは言えず、アンに揺さぶられながら言い訳を考えていると「アンはお空とべるの? どうして?」とリール王女が呟きアンの矛先が俺からリール王女へと移った。
子供特有の語彙の無さで、理由を尋ねているのか方法を尋ねているのか分からないのだがアンは『方法』を尋ねられたと判断した様だ。
「飛べますぅー。今の自分は空を飛べますぅー。目に物を見せてやるのであります! 超変身!」
「目がー」
いきなり超変身したアンの閃光で目が眩んだ俺は何時もの叫びを上げたのだった。




