嗤う魔女
アタシとホルダーはイットゥーとシドに周囲の警戒を頼み、アタシが使える最強の技の準備に入る。
複数の魔術で水素と酸素を圧縮結合させてそれを着火して水素爆発を起こす技。
主殿は『指パッチン』とか言ってるわね。
「元素精製! 水素! 酸素! 元素融合!発火オーバースっ」
アタシが目標の倒木に向けて腕を伸ばして発動トリガーとなる詠唱と指打ちを今まさにする寸前で、大きな石が飛んできた。
アタシは発動を中断して投石を避ける為に飛び退き、無詠唱の低威力版を石が来た方に放つ。
イットゥーがアタシの盾に成るべく前に出て矢を放つ。
シドはその場でガトリングを乱射しているわ。
不自然な草木の動きで避けられているのが分かる。
「出てきなさい! それとも今、死にますか」
イットゥーが放つ矢が襲撃者達の腕を吹き飛ばす。
毛に覆われた獣の腕が視界に入る。
「出てきなさいよ代用品くん。久能好夫」
アタシは襲撃者、久野に告げる。
狼と猿を連れる救い様の無いクズ野郎、久野 好夫、ヤツは狼を連れアタシ達の前に出て来る。
「やっと、気付いたのかよクソビッぎゃ」
耳の腐り落ちそうな台詞を最後まで喋らせる気は無いわ。
アタシは炎をヤツの顔の前に生み出して言葉を遮ってやり、鼻でヤツを嗤う。
「割と前から知ってたわよ、アンタが川崎に乗っ取られてたのはね」
久野達にはアタシ達の様に拠点がある訳でも地力が勝る訳でも無いのだから、川崎から受ける複数回の襲撃を退けれる筈が無い。
「間抜けめ。私の『視て知る』で分かっていた事だ」
「ホルダー、いつ頃から乗っ取られていたのですか」
油断なく久野川崎を狙いながらイットゥーが尋ねて来たわ。
「猿だ。君が救出した猿にスライムの分体を寄生させていたのだ。
分体のサイズが小さく、マスター ヤマモトや他の者に寄生する事は出来なかったが、猿から久野に移り活動していたのだよ、イットゥー」
ホルダーの説明に久野が口笛を鳴らす。
「へぇ初めからかよ」
ホルダーが久野に罰を与えた時にスライムが寄生している事を知ったのだけど、勘違いさせておきましょ。
「久野や貴様を救おうとしていたマスター ヤマモトの優しさを踏みにじるクズ野郎、貴様は万死に値する」
「モブがデカイ口聞いてんじゃねえぞ! この異世界はオレが主役でオレの世界なんだよ! あんなハゲモブがデカイ顔しやがって、ざけんなよ! クソ運営が! やり直しだろが!オレの異世界をこんなにしやがって、死ねよ!クソが! 馬鹿が! モブのクソが!」
激高し喚き散らし始めるヤツをアタシは嗤う。
心置きなく実験出来るわ、あのゴミで。




