イージーデイ
俺は町からはるかに離れたテロリストさえもいないこの世の果てで身を焼かれていた。
「後どれくらいだ。こんなのさっさと終わりにしよう」
正直先日の待ち伏せの報告書やらで疲れている。結局2体の仏を作ってしまったのだ。その遺体をはっきり見たのは俺だけなので回収された死体を確認させられたし色々と聞かれのだ体力も心も疲れる。
「もうすぐだ、もう少し我慢してくれ」
武石が何をしているかというと即席爆破装置の改造だ。本来は道路の脇にあったものをイザベラが目ざとく見つけその場で起爆装置を解除、ここまでえっちらおっちら車で運んできたという状況だ。ここ2時間ほどは122mm砲弾と一緒に行動している。武石がしくじれば一同仲良くあの世行きだ。
「よし、いいぞ。あそこの岩陰まで退避だ」
車に乗り込み指定された岩陰まで車を走らせる。
未舗装で整備もされていないただの荒れ地なのでそれなりに揺れがひどい。
「なあ、武石?お前海自のEODだったんだろう?」
「ん?ああ」
武石は起爆装置のリールの調子を見ている。先ほどから車の進行に合わせてからからと言っているやつだ。
「今までどれくらい解除したんだ?」
「それはあれだな、お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているかというやつだ」
「そうか」
別に不思議ではなかった。俺も今までに何人殺ったかなんて覚えてはいないのだから。
そうこうしている間に着いたので岩陰に車を止めサイドブレーキを引く。
車から降り岩陰から爆弾を双眼鏡で覗く。
武石はせっせとリールを点火装置に結び付ける。
「ようし、メイドインイラクの花火大会だ。Fire in the hole!」
武石はまるで何かの司会者のように言うと勢いよく点火装置のスイッチを入れる。
次の瞬間、砂煙が上がり腹の底まで響く爆発音が発生する…はずだった。
「ちっ、不発か」
武石が目に見えて不満そうな顔をする。
「仕方あるまい、あの装置は欠陥が多い」
双眼鏡をしまいながらをなだめる。
そうしている間にイザベラは車のリアゲートを開け大きなケースを取り出す。
その気になれば子供くらいなら入れられそうなケースの中には50口径の対物ライフルが入っている。こういう時のために物理的に衝撃を与え爆発を誘発させるという非常に脳筋的な手法で爆発物を処理できる。
イザベラが紙の箱から50口径の弾薬を取り出し一発一発弾倉に込めていく。か細い指が弾薬の大きさをより強調させる。イザベラは無造作に弾倉をこちらに投げた。慌てて両手でキャッチする。
「2発よ、向こうでM24触ってたんでしょう?それだけで命中させなさい」
不愛想に告げるとイザベラは別のケースから観測用の単眼鏡を取り出す。
「お前が一番うまいならお前がやるべきじゃあないのか?」
弾倉にはまっている弾薬を眺める。こんな弾重機関銃以外で撃ったことがない。
「前の戦闘であんたが単細胞ってのはわかったから他に使い道がないか見てやろうってのよ。全く、感謝しなさい」
何に感謝すればいいのか、全くわからない。
「まあまあ、こいつとしては新戦力の実力を把握したいって言ってるんだ…多分」
腰に手を当て溜息を吐く。
「分かりましたよ、この性根と口が腐ってる奴の言いなりは癪ですがあんたが言うならやりますよ」
再びイザベラの方眉が上がる。だがこれ以上は言ってこなかった。
ケースからデカブツを取り出し二脚を立て置く。地面に腹をつくとベスト越しにかなりの熱量が伝わってくる。弾倉に息を吹きかけ微小な塵を飛ばす。まあ、これぐらいのゴミでどれ程の誤差が出るかなどわかったものではないが。
弾倉をライフルにはめ込みボルトを後退させ薬室に弾薬を送る。
「…おい」
「何よ?」
「何よじゃねぇ、お前観測手だろ。情報をよこせ情報を」
「何言ってるの?一人でやるのよ」
「はあ?」
わざわざスポッティングスコープまで取り出しておいてやることはただの鑑賞なのか?コーラとポップコーンでも用意した方がいいってのか?
軽く舌打ちをしてスコープを覗く。目標は適当に置かれた122mm砲弾。直線距離は概ね700m、陽炎が揺らめいている方向からして風は左から右に0.9m前後、俯角を考えると大体680mいかないぐらいか。
静かに呼吸を整え人差し指の力を強める。状況に変化なし。引き金を絞る。
けたたましい音とともにマズルブレーキから炎が露わとなり砂ぼこりが舞う。着弾。わずかに右。風の影響が少し強かった。ボルトを後退させ次弾を装填する。
さっきの射撃で充分なヒントは得た。次は外さない。雫を落とすように引き金を落とす。
轟音と砂ぼこりがあたりを覆う。今回は122mm砲弾の衝撃も加えたものだった。
さっきまであんなものと10m以内にいたと考えると恐ろしい。
ボルトを後退させ薬莢を拾いあげる。
「ほら、2発だぞ。お気に召したか」
見せつかるかのように薬莢を立てる。
「まあ、合格点ね。デカい口は初弾で当ててからいってくれるかしら」
「へいへい」
空返事をして薬莢をポケットに突っ込む。
「試験は満足か?帰るぞ」
グレッグに言われる通りに車に乗り込み会社に戻る事にした。ああ、全く忌々しい。
翌日、今回は2人でのVIPの警護だと告げられブリーフィングルームに入ると左右田とイザベラが既に部屋にいた。イザベラは俺の顔を見るなり帰れと言いたげであったがそうはいかない。俺は命令でここに居るのだ。
「いいんですか部長、隣の元秘書がものすごい顔しているんですけど」
「はっはっは、君も嫌われたなぁ。ほら、彼女私も見たことない顔しているぞ」
何でそんなに面白そうなんだ。俺は全く面白くない。
「私は反対です。このすっとこどっこいに貴方の命は預けられません」
「ほら、彼女もこう言ってますし。考え直してみては?」
左右田は笑みを崩さない。
「相互理解のいい機会だろう?君達の関係はこれからも続くのだから大切だぞ?」
「どちらかが死ねばそれまでです。まあ、死ぬのはこの男ですが」
「いやいや、俺は案外悪運強いぞ、何せこの前ので生きているぐらいだからな!」
スーパーの広告より誇張した口調で言う。
「まあ、君達がなんと言おうと30分後に出発だ。準備したまえ」
二人同時に了解と言葉を発したが全く語気が違う。俺は適当に、イザベラは心底呆れたような様子だ。
「ほら、さっさと行くわよ」
武器庫から銃を取り出す。今回はフルサイズの小銃ではなくけん銃弾を使用する短機関銃が渡された。何でも小さいし車の中に隠せるからということらしい。使うような状況にならないのが一番だが。
「なあイザベラ、そんなに俺と組むのが嫌か?」
薬室を確認する。かわいくはないがライフルのそれよりは小ぶりな薬室だ。
「嫌ね」
きっぱりと答えられる。
「じゃあ何でだ?理由ぐらい教えてくれなきゃ改善のしようもないぞ」
「…嫌いなのよ」
「どこが?」
「あんたみたいな甘ちゃんよ。妙な仲間意識だったり躊躇をするのはやめなさい。そのうち死ぬわよ」
「そんなに甘いかねぇ?」
「ゲロ甘よ、アメリカのチョコレートぐらい」
「マジか」
確かにそいつは甘いな。弾倉を差し込み安全装置をかける。
「ああ、運転はあんたね」
キーを手渡される。LP1と書かれたのシールが張られたプラスチックのタグが如何にも事務的な印象を受ける。
「お前も運転できるんだろ?」
「この国で女がハンドル握ると目立つでしょう?」
理由はわかるが自分の容姿を見ていっているのだろうか?幼さの残る顔立ちに褐色の肌で髪はショートカット、服装はパンツスタイルだ。そのせいで線が細いのもバレバレ、やんちゃ盛りのガキと言っても通じそうだ。
「女ねぇ、色気が足りないな」
ぽつりとつぶやく。するとたちまち肘が飛んできた。腹部に鈍痛。
「…本当に色気がねぇ」
嗚咽とともに本音が漏れる。せめて可愛げでもあればいいのだが。
VIPの警護なのだから車はとんでもない防弾高級車なのだろうと思っていたがそういうわけでもなさそうだ。今回使う車はボロくはないがこれといって特徴のない地味なベンツ190Eだ。
「地味だな」
「そりゃそうさ高級車なんて使ったら私はここにいると言ってるようなものだろう?」
高級車のエンジンはSUV違う楽しみがあるかと思ったがそれはお預けらしい。
車への関心もそこそこに各種警報装置を確認する。
「行きましょう、部長」
左右田を車に乗せ自分も運転席に座る。
会社も日本大使館はグリーンゾーンの中なので今回は安全な経路を使うことができる。まあ、大したことは起きないだろうし気楽に構えていよう。
サイドブレーキを下ろし車を出す。
グーグルマップでも道は空いていると出ているし実際交通量も多くはない今日は楽な仕事になりそうだ。いっそラジオも付けたいぐらいだが仕事中なのでそれはしないことにした。
日本大使館はチグリス川沿いにある。意外とこじんまりとしているがこれでも立派な日本国の大使館である。正門には小銃を携行した現地の警備員が数名で警備にあたっている。中には恐らく警備対策官がいる。許可証を見せ車を敷地内に入れさせてもらう。
「LP1、現着」
本部に無線を飛ばす。感度は良好、外に出て左右田を下ろす。
「部長の警備は私がやるわ。あんたは大人しく車を見てなさい。あと、武器は車に置いて行くわ、中は武器持ち込み禁止なのよね」
そういえばそうだった。俺もここに来たときは隊長と数名が丸腰で入っていった記憶がある。
「分かった、こっちは任せろ」
「あてにはしてないわ。」
「へいへい」
何故仕事中の会話だけでこうピリピリさせられるのだろう。
何はともあれ予定では30分ほどの話し合いだそうだ。忌々しい程に暑いがエンジンをかけっぱなしというのも勿体ないのでエンジンを切ることにした。5分と経たず室内が暑くなってきたので窓を開ける。全開ははばかられるので拳一個分程度にしておく。
「何が相互理解だ、相手にその気がなければ不可能だろうに」
革のシートにもたれかかる。
イザベラが置いて行った武器を手に取る。けん銃は俺のとは違うものだ。
あんなにか細い体でこんなもの持って戦っているのだ。しかもあの腕前、相当な前歴であることは容易に想像がつく。そんなのと理解だとかできるのだろうか。ある程度平和な環境で育った俺にはあいつの気持ちなど皆目見当もつかない。
「あの時撃ったあんな感じに育つはずだったのかねぇ」
一人感傷に浸かっていると一人の警備員が近づいてきた。
「何でしょう、ご存じのとおり駐車の許可は取ってますが」
念を押しておく。
「すいません、確認してほしい書類があるのですがちょっとそこの詰め所まで来ていただけますか?」
「俺はここでこの車を守れと命令を受けている。申し訳ないが書類だったらこっちに持ってきてくれ。あんたにも仕事があるように俺にも仕事がある」
警備員は心底嫌そうな顔をして詰め所に歩いていく。逆の立場だったら俺も同じ顔をすると思う。
ふと横に目をやると3人の警備員が建物に入るのが見えた。
「お待たせしました」
窓の隙間から紙が差し入れられる。見ると大使館に発送された俺のデータだった。
「こちらの書類に間違いはございませんでしょうか?」
「ああ…間違い?暑いなちょいと失礼」
エンジンをかけエアコンを入れる。ついでに窓ももう少し開けることにした。
「靴下、かな?」
「はい?」
警備員がきょとんとしている。
「あんたの会社な、制服としての靴下はないが色は指定されてんだよ。ちなみに紺色な。お前白色じゃん」
「す…すいません」
何故知っているかっていうと昔から会社が変わってないからだ。
「他にもあるぜ。規定でな日本大使館は入り口に常時2人以上立たせておくことになってるんだ。あいつら行っちまったらお前一人じゃねぇか、しかも俺の相手してるし。まあ詰まる所…」
「お前ら、本物の警備員か?」
男の目の色が変わる。悪態をつくと男はぶら下げた小銃に手を掛けた。
すかさずギアを入れ車を急発進させる。ほぼ同時に発砲音、リアガラスに亀裂が走る。
すぐさま停車し今度はリバースにギアを叩き込み男目掛け全開でバックする。
鈍い音と衝撃が伝わる。それでもアクセルを踏みぬく。わずかな間をおいて車は大使館の壁に衝突して止まった。
銃を構えながら車外に出て確認すると車と男と大使館でサンドイッチが出来上がっていた。どう見ても即死だ。また報告書が増えてしまった。
「お前のウンチクも役に立つな、相棒」
すかさずイザベラに無線をつなげる。しかし通じない。誰かが妨害電波を垂れ流しているんだろう。
今の音には気が付いているだろうがあいつらが中に入ったはずだ。
「くそっ、また独断専行か。イザベラに小言言われちまう」
イザベラの分の武器を担ぎドアを蹴り破る。
ただでさえ広い部屋に向こうの人間とこちらの人間、合わせて5人しかいないので余計に広く感じる。
向こうの人間は事務方の人間2人と左右田部長と話す人間が1人といったところだ。身のこなしや体格、服装から考えて武器は持っていない。
やはり大使館内の武装した人間は入り口の金属探知機のゲートにいる警備員と交代の人員だけのようだ。
カーテンも締まっているし狙撃の心配もなさそうだ。しかしこんな環境だと見るべき物が少なすぎて退屈してしまう。
などと思っていると建物が僅かに揺れる。地震ではないはずだ。それに音もかすかに聞こえた。事故か?
廊下から革靴で床を叩く音が聞こえる。この部屋に一直線に向かってくる。同じ位置から金属と金属のぶつかり合う音も聞こえる。
異変に対して反応が早すぎる。恐らく敵だ。とっさに消火器を手に取る。
ノックもなくドアが蹴破られる。やはり敵だ。
消火器をばら撒き視界をくらます。
煙の中から薬剤を吸い込みせき込む音が聞こえる。音さえ聞こえてしまえば位置がわかる。
目標を絞り一気に跳躍する。目を覆いせき込んでいる男の腹に跳躍の勢いをそのままに膝を入れる。膝が肉にめり込む感触がした恐らく悶絶ものだ。続いて1m程後ろにいた男の銃を蹴り上げる。空いたボディに拳を叩き込む。よろけたところで右ストレートで脳を揺らす。最後の男はもう既に引け腰だ。右ストレートの勢いを殺さず地面をけり回転蹴りを食らわせる。
廊下の奥から足音が聞こえる。恐らく一人だ。男の腰からけん銃を抜き構える。
廊下の曲がり角から影が出る。正体はあのバカだ。
「味方だ!撃つな!」
「あら、味方ってのはどっちのことかしら?」
「冗談はよせよ。しかし…あーあ無駄骨かよ。くそ、心配して損したぜ」
剣崎は息を切らせている。クリアリングを諸々無視して全力でこっちに来たのだろう。
「で?」
「あ?」
「また命令違反でしょ、持ち場を離れたじゃない?言い訳はあるわけ?」
「これがベストだと思ったんだよ、武器を持った連中が中に入っていって部長とお前が危ないと思った。そしたらお前が規格外の化け物だったってだけだ。ほら、武器だ」
短機関銃とけん銃を受け取る。
「まあ、いいわ。本部には連絡したわけ?」
「だめだ、誰かが妨害電波垂れ流してやがる携帯もだめだ。この建物からは連絡できない。それに裏切り者含め警備員は全滅だしな」
通報を防ぐために講じた措置だろう。机上の固定電話をかけるが不通だ。電話線も切られたらしい。
「とっとと職員連れてずらかろう何をするにも人が居なさすぎる」
「そうね。では部長、これを渡します。反対側に逃げる出口を押さえてください」
けん銃を手渡し腰の予備弾倉も全てポケットに突っ込む。
「私はホワイトカラーなのだがなぁ、まあ仕方ない」
部長はヘアゴムを取り出し慣れた手つきで髪を結び上げる。
「申し訳ありません」
頭を下げて謝罪すると体がふわりと部長に包まれた。
「いいんだよ、ただ君も無事でね」
そう告げると名残惜しそうに私から離れ大使館職員を連れ廊下の奥に消えていった。
「なんか見ちゃいけなかったかな?今のは」
「黙れ」
脇腹に拳を差し込む。
「さあ、私達は殿よ。ここが墓穴だと思って働きなさい」
「…おー」
少し強く殴り過ぎた気がするがまあいい。
窓を覗くと正面に車が何台か止まっていた。中には武装した男。諦めの悪い奴ら、恐らくほぼヤケクソのプランBだ。前提が崩壊しているのによくやる。
窓ガラスを破り銃撃を加える。銃撃に気が付いた奴らは散り散りに隠れる。
遅れて別の角度から剣崎が銃撃する。こちらに気を取られた奴が剣崎の銃弾に倒れる。
仲間の死に激昂したのか一斉に銃弾が飛んでくる。こちらは数が少ないからこれをされるとお手上げだ。断熱材や窓枠の破片が 雨のように降りかかる。僅かな間に頭を出し状況を整理する。いくつかの人が庇の下に入って行くのが見えた。
「取り付かれた、下に行く。上は任せたわよ」
階段へ駆ける。
一階に到着し次第ドアの付近に銃撃を加える。銃撃が止まる。弾切れだ。空の弾倉を引き抜き予備弾倉を取り出す。弾倉を差し込む頃に2人の大男が銃を乱射しながら突進を始めた。銃身には銃剣が付けられている。どうやら冥土の土産に私の命を御所望らしい。柱に身を隠しながら銃弾をご馳走する。片方は沈黙した。あと一人、時間も弾もギリギリだ。連射でバイタルゾーンに照準を集中させる。それでも倒れない。
銃剣の間合に入ってしまった。刺突が繰り出される。まともに喰らえばそれだけでお陀仏だ。咄嗟に短機関銃を盾にする。
まともに受け止めてしまった為壁まで吹き飛ばされる。その拍子に頭も打ったらしい世界がやたらと眩しい。無様に床に転げる。
ふと振り上げられた銃剣が目に入る。
「まずー」
閃光と共に乾いた発砲音が響く。
大男の体がぐらりと揺れ倒れる。
「人の相棒に何しやがる豚野郎」
剣崎はまるで家畜を見るのかのような目で死体を見下ろす。あろうことか剣崎は1弾倉丸ごと撃ち込んだようだ。
「大丈夫か?」
「ええ、でも敵は?」
「まだまだいるよここはダメだ、引くぞ」
先程の刺突を受け止める場所が悪く銃は銃身がひん曲がってしまっていた。
「ほら、俺のを使え」
先程使われたけん銃を手渡される。グリップにはまだ剣崎の体温が残っていた。
剣崎に肩を担がれ後退する。
「ほら、しっかりしろ。憎まれ口でも叩けよ。また勝手しちまったぞ」
出来るならばしている。脳を揺られたらしく気分が悪い。
「ファックだよファック!本当にしつこい連中だ!弾倉も次で最後だしよ!」
残弾も僅かでまともに戦えるのは剣崎のみ。
「いよいよ年貢の納め時かしらね、私を置いていきなさい。こっちにはまだ弾がある。あんたの馬鹿体力なら逃げられるでしょう?」
弾倉を抜き残弾を確認する。予備も合わせて25発前後、まあ数分は持つだろう。
突然頬に拳が飛ぶ。一瞬状況が飲めなかったがどうやら剣崎に殴られたようだ。
「ふざけるな!俺はなぁ!バカで単細胞でもヘタレじゃねぇ!誰が女のガキ一人置いて逃げてやるかよ!」
ああ、これは本物のバカだ。もう少し賢いならけが人を殴ることはないだろう。ほら、鼻血が追加だ。もうここまで来れば清々しい、では一緒に死んでもらうとしよう。
鼻血を手の甲で拭う。
「あそこの隅の部屋に陣取るわよ。私をドア側の壁の隅に置いてあんたは一番奥で構えていなさい」
こうなれば一人でも多く道連れだ。さっきの男のことは笑えない。
ここは大使室のようだ。剣崎には幸運ではないか母国の旗の下死ねるのだから。
早速1人目がご入場、剣崎が軽くあしらう。
続いて3人程なだれ込んでくる。脇の私には気が付いていない。がら空きの横っ腹に確実に弾丸を叩き込む。
「弾が切れた、クソッナイフで格闘したことなんて初めてだぞ」
剣崎が短機関銃を放り投げる。
廊下に足音が聞こえる。大勢だ、まだこんなにいるのか。
一人が侵入、すかさず剣崎がとびかかる。だが何かがおかしい。
「待ちなさいそいつは!」
「ん?げ…部長じゃん…これ…」
部長がここに居るということは。
「動くな!合衆国陸軍だ!」
けん銃を下ろし両手を見せる。
「ようやく騎兵隊のお出ましね、遅いわよ」
「間に合ったのだからいいだろう、レディ」
「そうね、ありがと」
礼を言う。剣崎はというと米兵にこのことは内緒にしてくれだの自身のしたことを隠そうとしている。
「けがの調子はどうだ、痛むか?」
こんなトーンの声は初めて聴いた。何をしたいのかは丸わかりだが。ガーゼを手渡されたので垂れ流しになっている鼻血を拭く。
「いやー悪いんだが、このことは適当に薬莢でも踏んだとか言って誤魔化してくれないかなぁ。ほら、さっきの貸しはなしでいいからさ」
ため息が漏れる。こいつという人間は。
「まあ、いいわ。でも1つ貸しだからね」
「1つ?チャラだろ?」
真っ直ぐ鼻を指さす。まだ十代の少女のいたいけな少女の顔面をグーで殴ったのだこれを忘れてもらっては困る。
剣崎はバツの悪そうな顔をして渋々了承した。
奴が困惑する顔は見てて愉快だ。不愉快な奴だがこういうことには使える。
「何か面白いことでも?」
「さっき相棒って言ったわね、私が許可した覚えはないけど?」
「…忘れろ」
「いいわよ、たまにはお守りっていうのもやってあげる。あんたが死ぬまでそう長くはなさそうだし丁度いいわ」
「またそういうこと、まあいいか。じゃあ、これからもよろしく頼むぞ、相棒」
まあこれから迷惑料としてトコトン困らせてやる。きっと面白いぞこれは。