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The order is war  作者: 冬の鍋物
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ウェルカムバック

 訓練施設での忌々しい3週間が過ぎ俺は飛行機に揺られていた。

 訓練施設の何が嫌だったかというと訓練プログラムが特殊部隊のそれに近かったことだ。的を外せば腕立て、射撃するときに真横の地面に銃弾を撃ち込む等々滅茶苦茶だ。高ストレス環境とはよく言ったものでその実、教官のストレス発散といわれても驚かない。あの鬼め。

 そのくせ射撃も格闘も最後まで教官に及ぶことはなかった。俺だってトップではないにせレンジャーの資格は早い段階で獲得した身なのだが。多分教官は人間の面を被った何かといったところだろう。あんなのが世界にはわらわらいると思うと恐ろしい。

 あんな人間やめたナニカにしごかれるよりか窓もない貨物機の中で訳の分からないコンテナと一緒に揺られている方が遥かに心が落ち着く。

 着陸が近くなったらしい、搭乗員からベルトを締めるように言われる。

 ベルトといっても二点式の粗末なものだが無いよりかマシだ。

 金具をはめナイロン製のベルトを引っ張る。

 ふと搭乗員から大きなものを渡される。

「機内サービスを頼んだ覚えはないぞ。それに誕生日でもない」

 見るとそれは銃だった。

「空挺作戦だなんて聞いてないぞ、それに資格持ってねぇし」

「規則だ、不時着したときのために武装しておくように」

 ノータイムで突っぱねられる。

 生真面目な奴めサングラスでよく人相がわからなかったがきっと不愛想な顔な奴だろうと思った。

 渋々銃を受け取る。この銃を撃つのが初仕事にならないように祈るばかりだ。

 機体が不規則に揺れる。パイロットが軸線の中に機体を維持しているのがよくわかる。

 突き上げるような衝撃とともにタイヤの音が機内にガラガラと響く。

 やはり人間は地上で生きるべきだと思う。空を飛ぶたびに銃が必要なのでは気が休まらない。

 シートベルトを外し銃を搭乗員に無造作に渡す。

「もっとマシなサービスはできんのかね。ウチの航空会社は」

「あんたは今回"機材"として運ばれてるんだよ、空中投下されなかっただけましと思いな」

「あーなるほど、人じゃないのね。俺は」

「そういうことだ、お前はいいとこ消耗品だ。気をつけろよ、日本人」

「ご忠告どうも、あんたらも落とされないでくれよ。飛行機事故の後片付けは悲惨っていうからな」

 飛行機の扉が開き光が差し込む。薄暗い機内に慣れた目にはいささか刺激が強い。

 イラク、バグダッド。自衛隊時代(前の職場)でも何度か来たことはある。

 イラク治安部隊の撤退、テロ組織の台頭、この国は再びテロリストの温床と変わり果てた。

 日本も度々テロを食らうようになったので治安部隊が再結成されたときに自衛隊を送り込んだ。

 任務内容も米軍程ではないにせよ容疑者の確保、警護などなど随分と弾を撃たせてもらう機会があった。当然、国旗にくるまれて帰還した同僚もいたが。

 旅行に来る場所でもないし二度と来ることもないと思っていたが、人生何が起こるかわからないな。

「おい、こっちだ日本人!」

 滑走路にいる日本人、というと限られているだろう。声の方を見る。

 テクニカルを加えた車列に防弾ベストに自動小銃を持った男、空港にこんな格好にいたらテロリストと間違われるだろう。TPOを弁えろTPOを。

「お前が最後の荷物なんだ、早く帰りたい。さっさとこれ(防弾ベスト)着て乗れ」

「へいへい」

 防弾ベストを着こみ男が待つ白いSUVに乗り込む。

 ヤギみたいな髭を生やしている。ここには鏡無ないのか、まったく似合っていない。

 車内は硝煙の香りがこびりついていた。

 理由は明白だ助手席、後部座席、トランクルームに銃手を詰め込んでまで火力を乗っけている。ハリネズミみたいな車だ。

 男が無線で合図すると車列が動き出す。

 こんなのは日常なのかゲートも素通りだ。

 メインストリートには焼け焦げた車に古い血痕。そう言えば初めて殺った(童貞を捨てた)のもここだったっけかと感傷に浸る。隣の山羊髭野郎から音漏れしてるロックミュージックとこの光景はナム戦さながら戦場の歪さが際立つ。

 またまたとんでもないところに来てしまったかな。

 会社の建物は地味なコンクリート造りのビルだった。

 入り口はすべてバリケードと現地人の守衛で固めている。

 一応、チェックもしているらしいし見てくれも悪くない、あとは裏切られないことを祈ろう。

「着いたぞ、日本人。お前はブリーフィングルームに行け、そこにお仲間がいるはずだ」

「助かったよ、お互い無事にやろうや」

 荷物を抱えビルに入る。中にいる人間がカタギに見えないこと以外はこざっぱりとしたどこにでもありそうな事務所だ。

 場所を教えてもらいとっとと挨拶をすますことにした。

 こういうのは第一印象が大切だ。特にあの教官どもみたいな奴から嫌われたらどんなことになるのか分かったものではない。

 ドアをノック

「失礼します」

 ドアを開ける。

「君か、今日からの新人君は」

 白髪が交じった大柄の外国人の口から流暢な日本語が発せられる。空港のあいつとは違って清潔感がある。

「はい、剣崎隆二といいます。よろしくお願いします」

 精一杯のスマイル、純粋無垢な青年を演じる。

「俺はグレッグ・バーレットこの隊の隊長をさせてもらっている、日本の兵隊は皆優秀だ。期待している」

 握手に応じる。握るだけでわかる、使い込まれた大きな手だ。これは完全に敵に回してはいけない人間だ。

「俺は武石漣だ。海上自衛隊でEODやってた。同じ日本人同士仲よくしようや」

 やや年上と思わしき日本人だ。坊主頭に筋肉質な体格、班長を思い出す。

「俺は陸上自衛隊で中即でした。よろしく」

 日本人の仲間がいて助かった。やはり同族がいると安心するものだ。

「あとは………おーい、イザベラ!人見知りなのは知ってるが挨拶ぐらいしておけ!」

 俺たちから距離を置いていかにも私は興味ありませんよオーラを出している奴がいる。クラスに1人ぐらいはいる集団になじまない系人間だろうか。

 しかもけん銃の清掃しているときた。絵にかいたような一匹狼ってか。

「私の名前はイザベラ・エレーラです。これで充分でしょう?」

 イザベラは銃を手に正確に部品を組み立てていく。

「いや、そういうわけにもいかないんだけど………」

 後頭部に手を当てる、いきなりこれでは先が思いやられる。

 イザベラの銃の結合もそろそろ佳境だ。

 暗く光る髪の間から見え隠れする顔、何処か見覚えがある気がした。

「ところで君、何処かであった?見たことあると思うんだが」

 スライドを組み込む。

「この会社で貴方に最初に遭った人間の1人」

 スライドを引く。

 顔を上げると蛍光灯が彼女の幼さの残る顔を照らす。

「まさか君か?君、こんな事していい歳か?まだ」

 イザベラがスライドを戻す。金属の擦れる音と僅かに震える音が響く。

「それ以上の情報が必要で?」

 そう言うとホルスターに銃をしまい彼女は部屋を後にしてしまった。

 彼女の目は美しくも冷たく光に反射していた。まるで鉄のようだった。

「………悪いな新人」

「いや、気にしてません」

「あいつは3週間前にここに来た。お前と面識があるってことはお前、左右田に会ったな?」

「会ったというか、スカウトです。てかありゃナンパです」

 グレッグはポーチをまさぐり煙草を取り出す。

「難儀だなぁ、あのお嬢さん何考えてるんだかなぁ」

 古ぼけたジッポーからオレンジ色の炎が揺らめく。

「ご存じで?あの人の事」

 煙草をふかし一呼吸置きグレッグが答える。

「知ってるも何も俺は護衛してたからな。おかしな人というのは絶対だな」

 それは同感だ。あれを見たら世の中の人間かなりまともな人間になってしまう。

「まあ、左右田に目をつけられた以上はきっと弊社で楽しいワークホースライフを過ごせると思うぞ。死ぬなよ、新人」

「全く嬉しくないですね。最悪だ」

 深く溜息をつく。俺帰れんのかな。

「ま、いつ死ぬにしても仕事はしてもらうぞ。武石、案内してやれ。日本人のよしみだろう」

「ウィッス隊長、ほら行くぞ新人。落ち込むと損だぞ」

 武石に肩を掴まれブリーフィングルームから引きずり出される。

 移動中の廊下ですれ違うの中には筋肉モリモリマッチョマンやら目つきの悪いのやら恐ろしいのもわらわらといた。階段に着くと俺は逃げ込むように地下へと下った。

 地下は薄暗く本社のような射撃場はないが代わりに車両のターミナルがあった。同じなのは武器庫といった感じか。

 武器庫は本社のそれより雑な作りだ。防弾窓ではなく鉄格子で仕切っている。あと煩い。

 何かを削る音が武器庫の奥から廊下まで響いている。

「デイブ、いるか?」

 武石が叫ぶ。

「いない訳ないだろう、ここは俺の持ち場だからな!」

 奥から騒音に負けない程の大声が響く。

 音が止みしばらくすると奥からオイルのにおいをにじませた白人の恰幅の良い男が出てきた。

「紹介する、コイツはデイブだ。我が社のガンスミス兼ガンマニアだ。もし渡された銃に不備があるならコイツに言え、大抵はどうにかする」

「とは言ってもやり過ぎると始末書もんだがな」

 デイブがからからと笑う。

「始末書って………」

 顔が引きつる。

「何、ある仕事で携行できる武器がけん銃のみと言われた奴がいてな。そいつがけん銃はどうも心細いというからその国の法律を調べてけん銃の定義に当てはまるように小銃を改造しただけだ」

「具体的にどんな?」

「銃身を10.5インチに、銃床も取り払った。一度銃床の形をした補助具を取り付けようかという思ったがあれ、今じゃ違法なんだな知らなんだ。ハッハッハ」

 とてもついていけない。なんでこんなのが会社で職人やってるんだ。

「お前さんも何かしてほしいことがあったら俺に言え、まあ言われなくてもいじるかもしれんがな!」

「遠慮しておく、俺はこの銃は案外気に入っているんでね。勝手にバランス崩さんでくれ」

 大きくため息をつく。

「俺の銃、見せてくれるか?一回は確認しておきたい」

「おう、準備できてるぞ」

 デイブが大きな体を揺らし奥の武器庫に向かう。

「なあ、あいつ大丈夫なのか?ただのNRAのギークじゃないのか?」

「大丈夫だよ、仕事はしてる。ぶっ飛んだベクトルを制御できれば奴の知識はそれなりに使える」

「だといいが………」

 デイブが小銃とけん銃を抱えて戻って来た。

「ほら、コイツがお前の銃だ」

 本社で触ったのと型と照準器は同じだが黒い皮膜が所々薄くなったり擦れたりしている。使用感溢れるとはこの事だ。

 槓桿を引きボルトを再びリリースする。まあ、妙なガタつきはない。軽く中を失敬しても燃焼ガスの塵は特に付着してない、程度は悪くはなさそうだ。

 けん銃は全くの新品だ、大将太っ腹。

 送り付けられてきたカタログから選べと言われたので自衛隊の名残で同じメーカーの物を選んでしまった。

「P226とはまた少し前のやつを選ぶなぁ剣崎」

「だってこいつ、9mmけん銃の面影があるじゃないですか、扱うなら慣れたやつがいいかなって」

「今時はポリマーフレームにハンマーレスが主流なんだがなぁ」

「使えればそれで、それに基本は小銃をぶん回せば事は済みますし」

 武石はイマイチ納得してなさそうだ。俺は違いがよく分からないから似た奴にしたのだがそれはどうも武石には理解できないらしい。こればっかりは好みの差だ仕様がない。

「どうも、デイブ。変なことすんなよ。したらケツの穴に改造パーツ突っ込むからな」

 取り敢えず釘を刺して武器庫を後にする。まあ、仕事はしてるらしいのでここも大丈夫だとは思うが。

「さて、後は追って説明するからお前の部屋まで送るぜ。荷物も届いてる筈だ」

「それで頼む、時差ボケも治したいしな」

 気が緩むと欠伸が出た。やはり貨物機での移動は無理がある。

 驚いた事にこのオフィス、宿舎も兼ねているらしい。24時間労働も気軽に行えるブラックアピールなのかどうなのか。

「明日から仕事だからな、しっかり治しておけ。じゃあ明日また迎えに来る」

 そう言うと武石は数個奥の部屋に入っていった。

 安っぽい木の扉を開く。ヒンジの油が切れかかっているのか甲高い音が鳴る。

 中は4畳程の広さにベットとデスク、破片が飛び込むのを防ぐ為かベニヤを被せた窓という刑務所並みの簡素な構造だ。

「懲役1カ月か………早くも嫌になってきたぞこりゃ」

 取り敢えずベットに転がる。天井ではシーリングファンが空気をかき混ぜている。

 ふとイザベラを思い出す。かなり若かった。俺よりも、下手をしたら20を下回る歳かも知れない。この仕事は素人ができるほどヤワではない。そうするとあいつは俺かそれ以上の経験のある人間ということになる。でもあの年でそれはあり得ない、あってはならない。きっと俺の見間違いなのだろう。そう思い込む。

 ヘリコプターの羽音、小競り合いする銃声の音、最後に聞いたのはいつだろうかいつから慣れてしまったのだろうかまどろむ頭では見当もつかない。深く息を吸い、吐く。意識を落とし喧騒から逃げることにした。

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