出会いの時は
痛みにはもうなれてしまった。いくら鞭で
たたかれても。いくら縄で吊るされ殴られても。いくら使われても。自分はこうしないと生きられないと思っていたから。自分はこういうものだと思っていたから。冷たい部屋の中で私は飼われていた。あのひんやりとした感触はまるで私を慰めてくれているかのようだった。だが、あの部屋とは今日でお別れだ。
私は目隠しをされて箱に乗せられる。今はただじっと時を待とう。次はどんな人だろう。
まぁそんなことどうでもいいか。結局私のやることに変わりはない。そう思って私は目を閉じる。箱の中では虚しく通信機の雑音が響いていた……。
*
「おい、着いたぞ。」
私は引っ張られながら外に連れ出される。微かな緑の香り。温い風が木々を優しく揺らす。
涼しいから故なのか季節外れな蟋蟀が、もの悲しく鳴いていた。
「ほら、目隠し外すぞ。」
急に光が差し私は思わず目を閉じる。ゆっくりと目を開けるとそこには荘厳とした立派なお屋敷が立っていた。
「……っ!!。」
こんなところに私は仕えるのか!なんとも光栄なことではあるのだが……。一体どのようなご主人なのだろうか。結局私の奴隷としての立場は変わりない。期待しすぎるというのも違うような気がする。
「向こうに話はつけてある。さっさと行け。」
邪魔者のように私を追い払おうとするご主人様に、心の中でこっそり悪態をつきながら
「あ、ありがとうございました……。」
頭を下げた。この人が私にしたことは許せないが、私は弱い。立場上仕方のないことだ。
するとこの人はニヤリと口の端を上げた。
「言うようになったじゃねぇか。もう俺のもんじゃねぇってのが惜しいなぁ……。」
そんなことを言われて黙っている私ではない。
「ご主人がしたこと、一生許しませんから。」
私はこの人キッっと睨んでから、その場を立ち去ろうとした。この人はヒュ〜と口笛を鳴らしてから独り言の様に呟いた。
「まぁ結局お前は俺のモノだけどな。最終的には……な。」
もう歩を進めていた私にはこの言葉は届かなかった。それがどのような意味をしているかさえ伝わらなかった。私は歩く。己が道を。言いなりではない。自分の道を。
*
玄関前に立ち改めてお屋敷を見上げるとその大きさに圧倒される。なんて大きな家なんだろう。私はそのスケールに圧倒されながらも、玄関横にちょこんとついているインターホンをかちりと押した。ピンポーンという軽快な音がお屋敷の中で反響して聞こえた。中からは何故か物音ひとつしない。留守なのだろうか。
「すみません!」
声を張り上げて呼んでみたが出てくる気配すらしない。しばらく待っていたのだが痺れを切らして門をおしてみる。本来は開くはずのない門がいとも簡単に開いてしまった。まるで私を迎え入れてくれているように。開いたことに戸惑いはしたが、いつまで経っても変わらないと思い進むのを決意した。門を抜けると壮大な庭が広がっていた。池には色鮮やかな鯉たちが蠢いている。綺麗に手入れされた木々達を見て、ご主人様の性格が垣間見えるような気がした。さらに進むと大きな扉が待ち構えていた。ゴクリと唾を飲み込み、ぐっと強い力をその扉にかける。ゆっくりと扉が開く。まず目に入ってきたのは広いエントランスだ。天井窓から光が差し込む様は美しかった。靴を脱ぎ端に揃えておいたあとに、少しずつ前に進む。エントランスの中央からは横に階段が二つあり二階へ行けるようだ。
上を見上げると豪華なシャンデリアが光輝いていた。さらに奥に進むと少し広めのリビングルームがあつた。壁には大きな風景画が飾られている。中央には大きなテーブルがでんと構えていた。一人暮らしだと思っていたがこんなにも大きなテーブルを使うのだろうか……。周りを見渡してみると右側には長く続くいつくもの部屋。左側には上へと行くことが出来る螺旋階段がある。絵画の反対には、一面窓の扉から外のベランダへでることができそうだ。その扉のノブに手をかけ、ゆっくりと開いた。フワッとする森の香りが外から入ってくる風に乗って私の鼻腔をくすぐる。
改めて広いベランダを見てみるとそこに黒いドレスに身を包んだお淑やかな女性がうたた寝していた。なんて美しい人なのだろうと思った。この人が私のご主人様なのだろうか。
「んっ……はわぁ……。あら?私、少し寝ちゃってたのね。」
その女性はゆっくりと目を開くと私と目を合わせて首を傾げた。
「あら?あなたは……新しい奴隷の方かしら?」
「は、はい。本日よりご主人様のもとに仕えさせて頂きます。」
私は深く一礼した。
「嗚呼、あなたダメでしょう?無断で人の家に入ったりしては。」
ご主人様は少しムッとした表情でこちらを見上げる。そうだった。無断侵入ということになってしまっているではないか!
「も、申し訳ありません!」
深く深くお辞儀をした。自分としたことが……。するとご主人様はふふっと笑みを浮かべた。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。もとより私が鍵をかけないのがいけないのですから。インターホンもその為に付けたのだけど……私、よくお昼寝しちゃうから。気づかないのよね〜。」
「は、はぁ……そうだったのですね。」
大丈夫なのだろうか?ご主人様は少々抜けているようだ。すると突然あっ!と小さく叫びながら立ち上がった。
「そうだわ。少し待ってもらってもいいかしら?」
そう言うとお屋敷の中へとてとて走っていってしまった。一人残された私はベランダからの景色を堪能していた。ぼぅっと景色を見ているといつの間にか時間が過ぎておりご主人様が戻ってきていた。
「どう?いい景色よねー。私もここから見る景色が大好きなの。だから時折こんな所でうたた寝してしまうのよねぇ……。」
「おかえりなさいませ。如何様であったのですか?」
私がそう尋ねるとそうだったわね!と手を打ち持ってきたものを見せた。
「さっきはよく分からなかったのだけど、あなた衣服がボロボロでしょう?今は眼鏡があるからはっきり分かるわ。それで着替えて欲しいのよ。」
新品のメイド服だ。私は目を見開いた。いつか。いつの日か、あの洋服に身を包みたいと思っていた。薄汚れた自分の肌には着る資格などないと思っていた。
「ほ、本当ですか?私が、この服を……。」
するとご主人様はニッコリ笑った。
「ええ!きっと似合うと思うわ。でもその為にはね……。」
ご主人様は何を思ったのか、私の手を握り先導するように歩く。
「あの……ご主人様、私を何処に連れていくのですか?」
「え?それは勿論お風呂に行ってもらうのよ。まずはその体を洗わないとね〜。」
その時の笑みはほんの少し怖かった……。
あとがきてきななにか
まず、自分の自己満足に付き合ってくれたそこの貴方!ありがとうございますm(_ _)m
思いつきで執筆していますこちらの小説いきあたりばったりで書いてはいますが自分も人間の身……
更新速度が遅くなる等あるとは思いますが御容赦!
皆様に読んでいただけるように努力して行く次第ですのでよろしくお願いします( ´ ▽ ` )切実に休暇を……頂ければ……もっと()
今後とも拙い文章にお付き合いお願いします……
それではっ!