7 お金を貯めよう
「残念、それは私のおいなりさんだ」をどこかで捩じ込みたいがたぬきだった。狐…出すか?
午前中は現実で仕事。
と言ってもほとんどの仕事はアンドロイドやロボットの自動化により無くなり、人間のやることは最後のハンコ押すことぐらいさ。流石に決定権は渡せないということらしい。
後は報告書を上げてっと。
空いた時間に電子雑誌を読む。一面趣味の特集だ。
今の世界はお金持ちより趣味を生み出す人間が偉い。
今、世界のトップは海馬氏だろう。VRの世界は更に広がっていくはずだ、ゲームの停滞を吹き飛ばす革新的技術。
世はまさに大HENTAI時代。ドン!
VRで10倍の時間を遊べるし、仕事なんてしなくても生活できる。半分現実で生活するとしても500年分は体感で生きられる。
要は暇なのだ。
▽▽▽
アンドロイドが作ったお袋の味シリーズのランチを食べる。
お袋も趣味で料理を一時期やっていたが、合わなかったらしい。
お袋の味とは何だろうかと、意味もないことを考えながらベッドに横になる。
現代では生まれて直ぐに後頭部にチップが埋め込まれる。
このチップのお陰でVRを満喫できるわけなのだが、本来の目的は健康管理のデータ取りだ。脳波も読み取り発信する。
近くに送受信の機械があればVRの世界にダイブできる。
フルダイブはベッドとかでないと出来ない、危ないからな。
ちょっとした電気制御ならそのままできる。
リモコンいらずだ。
じいさん曰くニュータイプらしい。
親世代でも考えただけで色々出来る人は半分だ。
さて、ゲームを楽しもうか。
▽▽▽
魔法店前に二足立ちのデフォルメたぬきが出現する。
現実と体が違うのに違和感が無いのは不思議だ。
しっぽを見ると視界に全部入る前に逃げていく。
回る俺、逃げていくしっぽ。
誰かが近づいてきたので影が掛かる。そちらを向くと魔女ファッションの女性がいた。第一フレンド、むらさきである。
「たぬきは何してるの?」
「いや、来たばかりだけど」
もしかして賢さって思考に影響かけてるのか?
誰もいないと思っての行動が見られていた恥ずかしさと言ったら、穴を掘って隠れたい。
「そう」
空気の読める優しい子です。
「むらさきさんは何かしてた?」
「呼びにくいならサキでいい」
「じゃあ自分もあらまきだから、マキで「たぬき」アッハイ」
「これからお金貯めて魔法の書を買う」
「じゃあ、クエストこなしてお金貯めようか」
「うん」
パーティー申請して町の近くの森に向かう。
モンスター討伐しながら薬草採取してポーションにしてお金を貯めようというザルな計画だ。
町のモンスターも村と変わらない
ラビとスライム。たまにハグレウルフだ。
サキさんはウルフに興味津々だが残念、モンスターだ。
薬草採取はサキさんがしている。採取ナイフを使うと取得数が増えるのだが、何で増えるのか疑問だ。
薬草婆さんもナイフをくれなかったし、時間があったらギルドでチュートリアルを受けよう。
前衛のたぬきがモンスターを探知し、後衛のサキさんがマジックボールを撃つ。瀕死ならたぬきが止めを刺す。
そんな感じで問題なくクエストをこなす二人。
「いやー、3日掛かったけどもうすぐ1000G達成だ!モンスター素材とポーション売ればいいけど後で使うだろうからな」
「お金預ける」
「あぁ、ギルドに預けとこう。死んで半減は洒落になんない」
「じゃあ、また明日」
「バイバイ」
▽▽▽
たぬきは現在、夜の部に突入
現実で夕飯を食べた後にまたログインしたのが丁度夜だったのである。
ちなみに宿に泊まると起きる時間を設定できる。実際10時間寝ると現実の1時間分寝ることになる。プレイヤーごとに昼夜バラバラにならないための苦肉の策である。
夜はモンスターの時間だ、プレイヤー探知範囲が広がり凶暴になる。ノンアクティブのモンスターでも近づくと襲われるらしい。
「流石に死ぬかも知れないおふざけに連れていく訳にもいかないからなー」
夜の草原に仰向けになって星空を眺める。
どうやら隠密のお陰でモンスターに見つからなかったようだ。
現実の環境も昔と比べると大分良くなっているらしいがこちらの世界の夜は更に良い。
BGMの音量を上げる。
基本はモンスターの出す音を聞くためにBGMを切るのだが今は関係無い。どうやら夜のフィールドは環境音がメインのようだ、虫の声が聞こえる。
「あぁ、綺麗な星だ」
ざわめく草と風の音、虫の声を聞きながらたぬきは瞬く星々をしばらく眺めていた。
視点固定でないなら上を見てみると面白い発見があるかもしれない。