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第2章 第1話 魂の器

 ヒントは与えられた。暗き場所の者とは。

 第1コース。暗き場所の者。

 全ての力を取り上げられた。そう思っていい。

 上で、自分には何が残っているのか。暗い、只の一言。何も見えない。

 周りが暗いか。明るいか。たったのそれだけ。絶望に帰する事はない。

 周囲の音は聞こえる。聞こえる。その感覚だけを使い、この場を乗り越える。

 聞く。耳を澄ます。削る音。縦横無尽に、且つ繊細に歯を爪を立てる。宛がう。

 自分が何物なのか。ステは見えない。長く鋭い爪。伸びる鼻筋。円らな瞳。小さい口からは粘りの強い舌が出せる。

 「土竜かな」体感出来る図体構造は大きいと思う。

 腹が減る。ここには何も無い。それだけは解る。ここには、何一つ無い。土竜さんの食事と言えば、ミミズとか地中に身を潜める虫や卵。光にとても弱い。

 付近には何も気配が感じられない。無いが土竜と言えど率先して土は食べないだろう。

 己の姿を今一度省みる。盲目な眼。並よりは利く鼻。暗いか眩しいかしか判別出来ぬ眼。

 掘り進むと解る。自分には爪以外無いのだと。柔らかな土から、硬い岩盤。答えなぞ無くても解る。ここが地の底である証。

 暗く、光は全く無い。マップは無い。表示の感知が出来る物。それは深度。

 海抜、2千m。自分が何処に居るのか。仲間たちと、クレネからどれだけ離されたのか。全く綺麗に解らない。不安よりも諦め。自分で切った期限への戒め。

 辿り着く。ただそれだけの願い。

 爪を立てる。硬めの土に。歯を立てる。突き出す岩に。腕を叩く。柔らかな粘土に。

 喰らう土は、意外に不味く無い。目にする景色は、全く変わらない。

 深度、2100m。100mも下がった。息苦しくはない。

 低酸素活動。地中、水中問わず。正常活動が維持出来る。脳裏に浮かぶ文字の意味は。

 理解が及ばぬまま、掘って掘って掘り進む。正解は解らない。土竜って水中行けるの?

 爪、のような物が何か硬い物に当たる。当たった感触はあったが、反応は頗る鈍い。

 鈍いが、強い反発を感じた。迫る危機。持ち得る爪を身の前に交差させた。

 2度3度。打撃を感じた。抗う。本能のままに抗った。正解か不正解かは解らない。

 何度目かの交錯の後、当りは止んだ。

 「抗う者よ。何ぞは何か」

 「何か、が解れば生きてはいない」俺は答える。心に浮かんだ言葉を答えた。

 「ならば、この私を、乗り越えよ」

 「如何様にでも」俺は、赴くままにそう答えた。

 血みどろ、血塗れ。本能が訴えるがまま。立ち塞がった者に刃向かう。爪を立て、小さな牙を剥き、あらゆる抵抗を持って。俺は腕を振るった。

 目の前に感じた者が、息絶えるまで。振った腕が力尽くまで。

 息が絶えるまで振るい。俺は誇った。勝ったのだと。深度、2300m。

 深みに嵌っている。自らの意志で。また掘り進む。不正解だとしても。

 深度、2600m。何かの光を感じた。ここに来て、初めての光。戸惑う、地の底で輝く光りに。

 戸惑う光に尚喜ぶ。熱さを感じる。底知れぬ熱さは、地の底で蠢くマグマだと。

 ここは地底。マグマが在るのは当たり前。その熱に、紛う事無きその熱。真実は、ここだけに在ると。俺に訴えていた。

 何物かが俺を止めた。

 「いいのか?お前はそれで」

 「いいも悪いもないだろう。俺は、進むだけ」

 「潔し。それも危うい」

 何処か懐かしい声の響き。でも、これは師匠ではない。

 「それでも俺は、進む。お前を倒してでも」

 「そうか。それでは何も問わない。行くが良い。私を倒せたなら」

 眼に見えぬ者との戦い。爪を合わせ、牙を掠め合い、身体を擦り合った。

 熱い。暑い。摩擦熱と地熱。皮肌が爛れる。混じり合う。

 「意志は感じる。揺るぎない意志を。だから、行け」

 「有り難い。思い出せるかは自信はないが、忘れないと約束しよう」

 「クククッ。楽しき者よ。強いても進め。何時か、また会える日を胸に」

 「ああ。出来もしない約束を、しよう」

 俺は爪を振り、見えぬ眼で何かを探った。

 鼻は利く。土の匂い。マグマの匂い。同じ仲間は一切を感じない。

 気付く。俺は、もう人間ではないのだと。だからより、もっともっと掘り進んだ。

 深度、3500m。マグマの壁を破った。

 敵ではない何かの気配を感じた。

 「貴様の意志。受け取りはしたが、まだ弱い」

 魂漠。魂の形を掴む。眼に見えぬ魂の形。掴んだ所で、何が出来ようか。

 「大人しくしてくれ。俺は、行く」

 「強情な魂。我らは、眩しく思うぞ」

 交差する意志。そこには正義も悪も無い。生きようとする信念のみ。

 信念だけでは勝てない。だから、俺は乗り移った。


 第2のコース。暗き果ての者。

 移り、俺は自分を疑った。これは、俺なのか。疑わしい。

 操られている。乗っ取った。どちらが正解なのか。問われているのは、意志の力。

 持っていた爪は空を切る。当たらない。相手は、魂そのもの。

 邪魔だ。と心底思った。思ってみても、俺の攻撃は当たらない。空けた宙を切るのみ。

 失う物は何も無い?いや俺には在る。

 「おれは、抗う」

 「意気は良し。だが、それだけで勝てるかな」

 相手は笑うように、俺の攻撃を受け流していた。通じない。解ってはいても、俺は振るった。

 ブランク。相手の名を、勝手にそう命名した。相手からすれば良い迷惑だろう。

 「形無き者を、形造ル。それもいい。我らは、それでも抗おう」

 相手からの攻撃が打たれる。避ける術は無く、甘んじて受けるだけ。痛い。

 痛みと共に、相手の思いが俺に流れ込んだ。

 死んだ苦しみ。志半ばで果てた恨み。まだ生きたいと願った、切なる願い。

 受ける。ただ受け取る。俺が代わりにと。そう願っても、鋭い痛みは増すばかり。

 深度、4000m。海や海溝ならば、既に深海。俺は、下へ進んでいる。

 痛みは俺の魂を削り倒す。止めてくれと頼んでも、攻撃は止む事はない。

 「痛みはいい。我慢すればいい。それで、お前らは、救われるのか?」

 「解らぬよ。お前を殺しても、誰も救われぬ事以外は、な」

 解っていても。それでも彼らは攻撃を止めない。蜘蛛の糸を掴まんと。抗い、泣き叫んで。

 痛みに耐えかねて、俺は一息だけ着いた。ほんの一息だけ。

 受け入れる。受け止める。多く集まる彼らの意志を。俺の小さな心一つで、受け止める。

 ここにも正解は無い。神の意志も感じない。在るのは、彼らの希望。

 俺を倒せば何かが見える。盲信。見た事もない神を信じるが如く。信じる信念が、俺を貫いて掴んで離さない。彼らの手が、無数に足に絡み付く。

 受け止める事も、導くことも出来ない。俺には出来ない。だからこそ。

 「死んでくれ。おれの為に」

 「何と傲慢な。いや、強欲とでも言うべきか」

 何とでも言ってくれ。それでも、俺は行く。

 深度、5000m。俺は彼らの一粒毎に、当たらない拳を振るった。

 当り始める。拳は、掠めるのではなく。彼らの芯の部分を叩き殴り、砕いた。

 「もう一度言う。おれの為に、死んでくれ」

 「面白い。ならば我らの願いも、連れて行け!」

 連れて行け?違うな。共に行こう。俺から言える事はそれだけしかない。

 「共に行こう。次へと繋がる道があるのなら」

 「そんな物は、無い!」

 「無い?だから何だ?お前らは臆病者だ。抗う事を止め、希望を託す事も無い。軟弱で、独り善がりで、無法者。何かに掛ける勇気も無く、誰かに掛ける気概も無く。お前らは何を望む?」

 魂だけの者に向ける敵意。彼らの望み一つも叶えられないと言うのに。俺は喧嘩を売る。

 「希望?忘れてしまったよ。そんな戯れ言はな!だがそれでも良い。神に抗うと言うのだな?それが真だと言うのならば。証を我らに見せよ」

 見せてやる。やるとも。確証も確信も無いが、俺には目標が在るからな。

 「証は無い。何も無い。だが見ていろ。おれの隣で、おれの傍で。おれに、何が出来るのかを」

 答えは無かった。その代わりに、俺の中に流れ込んだ物は。無数の意識だった。

 果てない野望。誰かに向けた欲望。生への渇望。抱きたい、犯したい、幸せにしたい。金持ちになりたい。強くなりたい。あいつのように、お前のように。背が欲しい、賢人のような容貌が欲しい。商人で成功したい、金持ちになりたい。貴族の子に生まれたい、王族の家系に生まれさえすれば。犬猫のように自由に生きたい。強き狼のように他を蹂躙したい。

 金持ちの正妻として子を設けたい。楽をして生きて行きたい。

 財力さえあれば、容姿さえ問わず。人間性だと謳い果てたい。

 彼の者の子さえ設ければ、私は勝ち組。

 真面な容姿さえあれば。きっとあの人も振り向いてくれたはず。

 やはり正義も悪も無い。死して渇望する者に罪悪なんて関係ない。

 受け止める。俺は、受け止める。この、何処にでも在る欲望を。反吐が出そうだ。

 「気持ちわりぃ。でもよ、それが人間って奴だよな。おれたちは、醜い。自覚が在るなら、尚のこと!今生在る者に託すべきだ。臆病者共!聞け!おれは、生きる。生きてやる」

 「眩しいな。生きる、光か」

 「そんな大それた物じゃない!おれに力を貸せ。無償でだ。おれは、お前らの願いは叶えない。何一つ叶えない。だからどうした?消えたくない?だったらそこで永遠に彷徨え。おれの邪魔をするな!おれは行く。付いて来れないなら、所詮お前らはそこまでだ!!」

 戸惑う魂たち。2つの進路に揺らぐ魂。

 答えの無い争いに身を投じる者。傍観する者。尚も俺を捉えようとする者。

 薙ぐ。見えない拳と脚で。消え行く魂は省みず。

 無垢な魂。正義も悪も無く、求む求まず。

 

 第3のコース。魂の依代。

 深度6000m。地を破ると海に出た。鰭を動かすのを止めると息苦しい。

 回遊魚になったようだ。泳ぎ続けないと死んでしまう。

 マップは未だ使えない。念話も勿論使えない。下か上か迷う。

 自分が今何物かは認識出来ない。鏡もないのだから当然。鏡があっても思考が追い付かない。伝える術が無いなら、上へ行ったとしても仲間か漁師の餌食。

 人を釣るのは大好きだが、自分が釣られるのは大嫌い。俺は下へと向かう。

 対応していないのか、苦しさが募る。

 深度6500m。幾ら泳いでも呼吸は整わない。深度を見ながら垂平移動に変更。

 運良く、死にかけのマッコウクジラと遭遇した。魂の交渉。

 「死にかけとお見受けする。その果てる身体をおれに渡す気はない?」

 「愚かな者よ。この身を使おうと、持って数分。それよりも我が身を海王神様に届けよ。なれば海王様の血肉となり、我らの願いを叶える礎とならん」海王神って誰?

 彼らの意図も目的も解らない。その彼の身体を見る限り、何かの戦闘後なのかズタズタに各所を引き裂かれていた。何かしらの闘争の痕。誰かにその身を捧げるのが望みなのか。

 「意匠は立派だが、おれはあんたを奪わせて貰う」

 「回遊魚如きが、この私を奪うだと?抵抗するぞ。最後の力を絞ってでも」

 果てる寸前だと思われた体躯から、繰り出されるのは巨大な尾。死を覚悟している者の最後の抵抗。

 速い。回避が追い付かない。受ける?一撃死確定だ。ここで死ぬのは宜しくないな。

 さっきの彼らの仲間入りは避けたい。

 後ろから魚群が現れた。長い牙が前面に突き出ている。カジキの類いか。深海6500に回遊するのもどうかと思うが、仲間に入れれば運が良い。運が・・・悪かった。

 鋭い牙に尾が突き刺されて身動きが取れず、呼吸も困難。

 「先日の威勢はどうしたのかね?こんな所で立ち止まって」

 「止めたのはあんたらだろ!助かったけど、このままだとおれ死ぬぞ」

 「こちらに乗り移れ。眼から本当に鱗が落ちそうな気分だ。真逆この様な手段があったとは」

 地中方面に居た彼らだ。俺の後を同じ方法で追って来た。

 遠慮なく魂を乗り換えて、人で言う憑依を行った。

 辛くも逃亡して放置したクジラのように、長き時を過ごし、脳が発達した者であれば自身の魂を固定化出来る。要は知能の問題。下っ端の魚類には小さな脳しかなく、本能で動いている者が殆ど。その身体を比較的容易に奪える。

 奪えるからと調子に乗っていると、先程のような状況に陥る訳である。

 クジラ種なら海面にも出られるし、コミュニケーション能力も格段に上達が見込める。上手くやれば地上の仲間たちに、取り敢えずの無事を伝えられるのに。

 地上が遠い。土竜に転移させられてからの月日の経過は不明。

 体感では数日だったが、俺を突き刺した先輩方が言うにはもっと経過している雰囲気。

 「なぁ、あんたらはどうやって時間を認識しているんだ?」

 「勘だ」

 聞いた俺が馬鹿でした。

 こちらの遊泳スピードが速すぎるのか、クジラさん以降は大した害敵には遭遇しなかった。

 深度、7800m。幾つかの海底洞窟を潜り、開けた場所に飛び出た。

 ここは深海。地上の光は一切届かない場所。鮟鱇提灯のような自家発光機能を搭載していなければ光の類いは得られない。はずなんだが。

 ここまではお魚特有の体内コンパスと物理認識能力で泳ぎ続けて来た。

 「なぁ、あんたら。こんなん知ってたり・・・」

 「知らんな」

 だろうと思ったよ!

 目の前に広がる光景は、街路灯が立ち並び、平坦な岩畳の道が縦横に走り、各所の小穴からこちらを窺う眼が見えた。

 海底都市。町の名は当然知らん。何処かの国の雑居マンション。集合住宅の様相。

 不思議なのは、カジキの身体で止まっていても意気が詰まらない事。安定して酸素濃度が濃いのか、海底民たちの独自の魔力か何か。意識して取り込まなくても死なないみたいだ。

 今すぐに理解は出来ないし、これを説明してくれる者はどうやら居ない。

 「そこの者ども!名を名乗れ。あちら側の手の者か」

 立派な石槍を構えた半漁人が数体現れた。

 数はこちらが上だが、戦闘能力に差がありすぎる。

 「おれたちはたまたま周囲を回遊していただけだ。あちらでもこちらの者でもない」

 「ならば早々に立ち去るが良い。ここは海王様の領域。どうしてお前たちが入れたのかは解らないが不要な戦は避けたい」

 どうやら逃してくれるらしい。こちらとしても有り難い。

 目の端で人魚っぽい姿を探してみたが、隠れているのか姿は見えない。

 人魚さんなら人間とも会話出来るかも知れない。と考えたが甘くはなかった。

 半漁の皆さんでもいいけど、無駄にプライド高そうだし。クジラさんと同じく話が拗れたら厄介だしな。

 死にかけた人の身体貰えませんか?などと。どんな材料を持とうと、交渉ですらないのに。

 「そう言えば、ここへ来る途中で瀕死の大きなクジラさんをお見掛けしましたよ」

 「な、なんと!防壁の一角が破られただと。御方はどちらで見たのか」

 「あっちの、ちょい上で」

 前歯をクジラが居た方角に差し向けた。後続の同居人たちも同じ姿勢を取った。

 「急げ!仲間を掻集めて御方を回収するのだ。あちらに奪われては大変な事になる」

 あちらとは抗争状態に在るのか。ますます刺激するのは良くないな。

 海王神様との存在は気になるものの、ゆっくりと滞在させてくれるとも思えない。

 「途中まで案内しますよ。急ぐ旅でもないでっし」

 めっちゃ急いでるけどね!兎に角カレンダーカモン!!切に願います。

 来た道を辿り、ちらりと振り返ると。アンコウライダーが5組見えた。格好良い・・・ことはないがカジキの本気に着いて来られるのには驚いた。

 魚類のパワーバランスが理解出来ない。

 「良かったのか?」同居人のリーダーが隣から話し掛けて来た。

 「彼らの身体を乗っ取るかって話か?おれは気が進まないな。お咎め無しで見逃してくれた位に良い人たちっぽいし。奪うなら、あちら側でいいんじゃね?勧善懲悪とは行かないまでも、あちらが悪そうな奴らだったら、仮に倒しちゃってもカルマに影響し辛い。なんて考えるけど?」

 「もう転生後の心配か?存外余裕なようだ。だからこそ、我らはお前に付いて行くのだが」

 カルマを稼いで転生を優遇して貰おうだなんて、邪な考えだが悪い方向ではないと思う。

 転生後の人生まで選べるとかまでは、付いて来た彼らも考えてはいないだろう。優遇されないまでも、あの女神様なら善処はしてくれそう。飽くまで希望的な観測だけどさ。

 クジラさんと遭遇した付近まで戻って来たが、姿は見えず。時すでに遅し?

 「助かったが、どうやら御方は連れ去られてしまった様子。下方に気配を感じる。すぐ行けば間に合うかも知れん。足は君たちのほうが断然速いし身軽だ。あちら側ではないのなら」

 「足止めはしてみます。でもおれらも死にたくないので、危険を感じたら逃げますよ」

 「それで良い。すぐに追い付く。我らも海底域までは侵入したくはないしな」

 情報が偏り過ぎて判別も出来ないまま、見つけ次第戦闘に入ってしまう模様。

 更に戦闘手段が串刺しと噛み付きしかない今の状態では、誘拐を阻止ではなく阻害まで出来れば御の字。後はライダー部隊が間に合えば終了と。

 全速で下降すると。大暴れするクジラと、それに群がる蜥蜴のような1群をすぐに発見した。

 総当たりで同数程度。依然として戦闘力に開きがある。奴らは全員鉈形状の武装をしているので、突きが躱されて斬られたらこちらは絶命or重傷を負う。

 「さっきは悪かった。助けるから許してくれ。後ろから守備隊の一部が来ている。安心しろ」

 「勝手な事ばかり言いおって」声色は、ちょっと嬉しそう?

 ここまで来て助けない選択肢は無い。乱戦に乱入して掻き乱してやる。混乱してきた。

 「まずは引き剥がしで」

 同居人たちが思い思いに散り、クジラの側面を滑る。不意を突かれた蜥蜴たちは、避ける間もなく鋭い牙に貫かれたり、身を削られたり。

 なかなかやるじゃない。俺は1群から離れた場所で踏ん反り返っていた一際デカい蜥蜴に照準を合わせて、突撃した。

 戦場で踏ん反る奴に碌な奴は居ない。抹殺で良いだろう。

 気付かれてはいない。避けられるかと思いきや、まーあっさりと脳天に牙が突き刺さった。

 刺した俺が言ってはいけないが、間抜けな奴だ。

 リーダー格の蜥蜴は絶叫することもなく、戦場で気を抜いて散った。

 体感でしかないが、こいつらは「まだ」集団戦闘には慣れてないようだ。真面な連携が取れているのは俺たちだけで。

 リーダーを失った蜥蜴たちが飛散し、クジラと瀕死の仲間を放置して逃げ出して行った。

 「どうする?追うか?」

 「これ以上は、藪蛇だな。蜥蜴だけに。今のままの戦闘能力での突貫はやりたくない」

 「成る程。しかし・・・意外に我らは強いのだろうか」

 「今は、まだ、だと思う。おれらの機動性に追従出来ず、不意を突けた。それだけだ。慢心してこんな深海で死にたい人は、お好きにどうぞー」

 俺は彼らのリーダーでも隊長でもない。出せるのは意見だけ。考えるのも自分、決めるのも自分で。

 「本当に助けられてしまったな。身体中が痛むが、まだ数刻は持ちそうだ」

 「さっきは数分って言ってなかったか?」

 「お主が私の近くに放置して行った、抜け殻を捕食して幾分回復しているからな。さて帰ろうとした矢先に、先の蜥蜴共に絡まれた」

 捕食と還元が早くないっすか。人で言うポーションじゃないんだから。

 クジラの周辺を回りながら歓談していると、ライダー隊がやって来た。

 「撃退までしてくれるとは有り難い。チャボン様も・・・お元気そうで」

 名前在ったんだ。そして可愛らしいお名前で呼ばれていた。言葉を選んではいたが、きっと間違ってる気がする。

 「うむ。そこの者たちに救われた。先刻に死ぬなら身体を寄越せと言われた事は海に流してやろう。ライダーたちよ、私を海王様の所へ引いてくれぬか?」

 しっかり根に持っとるやないの!

 「ハハッ!元よりそれで参りました」

 彼らも流してくれたらしい。人善すぎなのもねぇ。こちらとしては助かるけど。

 「死にかけの蜥蜴たちはどうする?」

 周辺に漂う、死亡&重傷で動けない蜥蜴が数体。

 「好きにされよ。しばし置けば、嗅ぎ付けた海底側の仲間が取りに来る。我らの目的はチャボン様の救護のみ。直ぐにでも離脱するが、お前たちはどうする?」

 選べる選択肢は3つ。敵対、共闘、中立。戦況も局も見えない状態での本格参戦は避けるべきだ。戦力になれるかも微妙だしな。

 「暫く考えるよ。おれたちは上を目指してるんで」

 「上か。目指すのは構わないが、中域に居る大烏賊には注意されよ。あれらは話が全く通じない故。戦わずに逃げる事を勧める」

 貴重な情報ゲット。大王イカは知能が低いと。楽勝で乗っ取れるかも。イカになれても状況は好転しそうにないがな!

 本能だけで脳みそを待たない魚類を狙う・・・。人間とのコミュが遠い。

 極太昆布で簀巻きにされるチャボン。懐かしい、簀巻きになった美少女は見た事あったな。

 ライダー隊とチャボンさんが去った後、捕虜状態の蜥蜴たちを取り囲んでの相談タイム。のんびりやってると、彼らのお仲間がやって来るので急ぎめに。

 「負傷者の身体に乗り移りたい人。鰭で挙手」

 誰も居ない。負傷していると解っていて乗り移りたくはないわな。デザイン蜥蜴だし。

 「食うか。少し硬そうだけど」

 「食らうか。それは面白い。リーダーを仕留めたのはお前だ。手本を見せてくれ」

 ぐ、グロい。毒味は俺からかよ。仕方ない。味覚が無い事を祈りつつ、穴の空いた頭部からガリガリした。1停止では噛み切れないので何往復もして。

 味は感じないので助かった。少々硬い鱗ごとバリバリ頬張った。頬と呼べる物ない?無くても丈夫な下顎でカバー。結果は食せる。

 捕食から数秒後。身体に現れた劇的な変化。両鰭が3つに別れ、先が硬くなった。自分では見られないので体感だけだが、多少は自分の意志で動かせる。見える位置の尾ひれ周辺の鱗が分厚くなり、淡く発光を始めた。

 「進化、出来るぞ」

 一斉に始まる同居人たちとの乱食パーティー。俺と同じ感じに皆が進化した。

 ただ、出来上がった手は。

 「短い・・・」人の腕にはほど遠い。強いて例えるなら、お玉杓子。カジキからカエルに成長するとは思えない。足が生えた者は居ないので、そこは安心していいだろう。

 蜥蜴は跡形も無くなり、数本の鉈が残った。まだ生きていた蜥蜴も居たのだが、弱肉強食の世界では諦めて貰うしかない。彼らを糧に進化した。

 鉈は掴めても、振りは出来ない。次の進化で振れるのに期待しよう。

 「次はどうする?海底側でも覗くのか?」

 「捕食で進化出来るのは解った。ここで敵を増やすのは得策とは思えない。さっさと上に浮上する。ヒントは貰ったしな」

 「ヒントとは?」

 「大王イカの躍り食い?」

 「ククク。ますます面白い。私も乗ろう。私の名は、名乗らなくても解るかね?スケカン」

 「ああ、改めて宜しくな。シーパス。他の人はどうする」

 私も俺もと、一同に賛成が募った。

 「同意見で結構。てっきり恨まれているのかと思ってたけど」

 「当然だ。恨みもしたし憎みもした。滅び行く魔族として、生者全てを憎んだぞ。地中の底でお前に出会した時は、どんな皮肉かと驚いたものだ。お前も死んだのか?」

 「いやおれの場合は、仮死状態だな。終着が何処だか解んないけど、地上に戻らないとならない理由もあるし」

 「戻れる場所があるのだな。羨む気もすれど、新たに生まれ直せる機会があると信じよう。仮に私たちが、3度敵に回ったら。お前は」

 「倒すよ、何度でも。次が在るなら、今度は確実に天国方面に強制送還してやるよ」

 「迷いも容赦も無いな。地の底でもそうだったが、何度やろうとも永劫に勝てそうにない」

 お話しながら、回遊して身体を上昇に適応させる。

 深度、3000m。まだ地上の光は届かない。

 暫く水圧と含有酸素を身体に馴染ませるのに停滞した。

 自己発光しているので、巨大生物の恰好の餌なはず。でも何も襲って来ない。こちらが集団で居る性なのか。

 と余裕を咬ましていたのは、さっきまでの俺たちだ。

 突然の急襲は、遙か上方から飛来した。

 「敵襲!散開!」気配感知能力も進化で上昇していて救われた。

 後、コンマ1秒でも逃げるのが遅れていたら何名かが犠牲となっていただろう。

 体躯差10倍強。流石は深海の王者。マッコウさんが居なければの話。

 見回してチャボンさんのお仲間を探したが、都合良く居る訳がない。

 「解ると思うが、触手で掴まれたら終わりだ。多少弱らせても気を抜くなよ」

 吸盤で固定化されて手足でこちらの全身を分解される。凶悪だな海の中って。

 通過後に、器用に身体を捻りの高速反転。からの急上昇。

 「弱点は目玉だが、手足が邪魔でまだ突けない。鉈部隊で足の先端から斬り崩すぞ」

 足の根元は太くて、とても一太刀では落とせない。薙ぎとムチ打ち攻撃も警戒しなければ。

 足の太さに比べれば、2本の手はやや細い。

 狙い処は解った。イカの上昇に合わせ、牙の先端を下方に向けて出迎える。

 鉈を外側へ向けて固定した。更に旋回を加えてイカの表面を全身を使って撫でた。

 掴まんとする触手に鉈を打ち当てた。

 「見事だ」

 「感心してる場合じゃない!自信がないなら下がれ。おれが落とした手足を細切れにしてくれ。どうも嫌な予感がする」

 「嫌な予感・・・。再生か?」

 鉈班以外が落とした肉片に噛み付いて、分解と即時の捕食を開始する。

 どんな進化が来るのか楽しみだ。

 イカ様は完全に俺をロックオン。削ったほうの腕が、完全ではないが再生している。予感は的中した。

 再生で耐久度まで上げられてしまっては、こちらの勝機が潰える。

 進行軌道が変則になった。何だよ、頭良いじゃんイカって。だがしかし残念だ。

 突攻撃は強力であり、直線でこそ真価を発揮する。変則に切り替えた時点で威力は半減。

 勝つのは俺たちだ。

 激突寸前で側面よりの侵入角を取り、まだ柔らかい甲膜を破ってイカ様の内部にまんまと侵入を果たした。

 胴の真ん中で旋回捻り。比較的単純構造な内蔵全てを、斬って斬って斬り刻んだ。

 イカワタとイカスミが入り交じる。あーパスタ食べたい。

 散々斬り倒した後で、下のお口から外海へと飛び出た。

 「まだ死んでないぞ!両目の裏にも心臓部がある。硬直してる間に突いて突いて突き捲れ」

 「博学だな」

 「特にイカが好きなだけだよ」

 「好きな者でも躊躇わない。恐ろしき男よ」

 始まる一斉放火ならぬ、一斉衝突。遠巻きに見守りながら、己の進化を待った。

 視界がより鮮明になって、光が無くても広範囲で障害物を認識出来るようになった。

 マップではないが、これが千里眼に近いのかも。

 軟骨。硬骨の関節形状が変化して、より複雑な動作が可能。加えて全長と腕も幾らか伸び、手鰭に軟骨が入った。

 魚類から、徐々に動物に近付いている。

 陸上に上がるまでには、まだまだ足りない。

 大王イカの絶命を確認した後、本格的な解体作業を開始した。

 「レッツ、パーリー。イヤァホーーー」

 「よく楽しめるな。お前の思考が理解出来ない」

 「人間だろうが魔族だろうが、こんな経験出来るか?出来ないなら、絶対楽しむべきだ」

 「な・・・なるほ・・・いや理解に苦しむ」

 「面倒くさいねぇ。シーパスさんよぉ。兎に角食いまくって進化しようぜ」

 「あ、あぁ・・・そうだな」

 

 「た、たの・・・たの!たの!?」

 「落ち着きなさい。彼らしいじゃないか」

 「た、たの・・・楽しませる為ではありません!絶対に、これは」

 「そうだね。君のせいではないのは明白だ」

 さっぱり理解が出来ない。彼はこの状況を楽しんでいる。

 「あぁ、日本人怖い・・・。もう2度と招くものですか!」

 「是非そうしなさい。君の精神衛生的にもね」

どうして場外を放ったのか?

答えはここで立ち寄るからですよ。


結果先に出したら面白くないだろ?

でしょうね。でも私は誰もやってないような構成を

目指しておりますので

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