第91話 還るべき場所
渇望か。望みを望むままに求める者。祖父さんが望んだ物ってさ。
「本当に、こんな物なのか?」
「さぁ。もう解らぬよ。我が孫は、ウィーネストは元気か?」
「ああ。誰かさんが惑わせない限りはな」
求める物が解らない。既に復活する魔神からの影響なのか。捻くれてやがるぜ。求める者に死霊操作を与えるなんて。
それは俺に発現した強欲に似ている。発現したと言う表現じゃ無理があるか。たぶんずっと前から持っていたスキルだろうから。
何百手にも及んだ打ち合いは、時間にして10秒足らず。
祖父さんは上限を取っ払ったスピードスターに付いてきた。然程のダメージは与えられていない。ほんの掠めただけで、マップ上の赤色が増えて行く。
どうと言う事はない。ダメージを与えれば与える程に、大陸の何処かで何かの死霊が増え、仲間の誰かがそれを討てば、この魔王様に力が還る。還れば力が増す最悪の循環。
東の小屋方面にも、南の町にも、ガレー君の所にも、ペテルの町にも。それぞれに赤色が向かっている。元人間の死霊ならまだいい。魔物や魔族の死霊が問題で、ペテルの生き残りたちには防衛手段も無いときた。取り敢えず地下シェルターに避難させて置いたが、どれだけ時間を稼げるのか不透明。
さくっと祖父さんを倒せたら良かったけど。そうは問屋も降ろしてくれない。
「お祖父さん。早速で悪いが、あんたの邪魔するぜ」
さぁて、どうなるのかは解らないが、時間もないし。全開で行きましょうー。
距離を取り、エリクサーを一口飲み唱える魔術は、初歩の初歩からの。
「キュアレスト・ブルーム・ターンアンデッド・フルレンジ!」
掲げた左手から白い光が迸り、溢れ返って分厚い天井を突き破る。暮れ始めた空を突き破るが如く。再び太陽が昇ったのかと思える程。輝き天を焦がした。
クレネと共に数千の魂を送った時でさえ、立ち眩みしてすぐには動けなかった。果たして大陸全体ならどうだ。俺のほうがぽっくり逝ったりして。あぁ・・・クレネの子供見たかったなぁ・・・。
頼むぜ+α加算値様よ。
「のぉ、ツヨシよ」
「何?今超忙しんだけど?」
「お主、私のほうの力も使っとらんかえ?」
「あ、バレた?」
存分に振るえって言ってたから、許可無くてもいいかなってさ。
目には目を、刃には刃を。魔王には魔王級をってな!
静かな寝息を立てるウィートの頬を撫でながら、まだ起きないでと願う。
報告したい事も有るけれど、それは明日でも遅くはない。
大陸東の端の小屋。何処となくおじさんが過ごしていた小屋にも似ていた。形も内装も全然違うけれど。受ける雰囲気が。
昨夜の熱い夜はここで過ごしたものだ。私とゴラは外でも良いと言ったのに、ウィートとアカネが断固として嫌がったので、仕方なくここへ来た。
何故か玄関リビングの一角が大破していたのだが、ツヨシが元に戻していた。1日も経たずに戻って来るとは夢にも思ってなかったけど。
外では男2人が暴れ回っている。窓から見える端に、見えたり見えなかったり。
小屋の中はとても静か。ダリエの静寂が利いている。寝室だけでも良かったのに。念には念をと小屋の外側にも張って出て行った。
群がる敵の声は全く聞こえないが、男共の声は少し聞こえる。
「ユードさん!数、多くないですか!どんどん増えてる気がします」
「気がするんじゃなくて増えてる!あーもー、倒したくないのによぉ。なんで止まらねぇかな。結界何枚貼ってもキリがねぇ」
幾層にも巡らせた結界が、半分程度まで壊されているのが見える。仕方ない、私も出るか。
「騒音は、叩き潰すに限るから。行って来るね、ウィート」
深く眠る彼女に軽くキスをしてから、外へと飛び出し屋根へと上がった。
見渡す限りの敵の山。マップを見るまでもなく、一面の赤色。魔物たちと、それらを率いる上位魔族たち。ここは一つ、やってみよう。私にも手はあるが、全力では打てない。
エンド・オブ・ザ・ワールド。時を止める魔術。言葉を4つ繋いだだけで馬鹿みたいに盡力を消費してしまった。初期のワールド・エンドは連発出来るが、止められる時はほんの一瞬。
エンド・オブ・ワールドでも、今は厳しい。お腹の子に悪い。うん。まだ安定してないのに、急に成長を止められたら、誰でも嫌だろう。幾ら強き賢人の子であっても。
詠唱出来る魔術も限られる。ツヨシ程ではないにしろ、出来る術はある。
「我は問う、汝らの在るべき場所を。賢人の理を以て。リザレシオ・シルフル」
丁寧に時間を掛けて祈った。消費を抑えても効果は絶大。時を同じくして天から降り注いだ光と相まって、周囲の悉くが礫となりて消えて行く。
この光は間違いなく彼の物だから。
「凄い!流石です!僕は殆どが初めてです!初体験です!」
「・・・若いって、いいよな」
防衛線。何をどう転べば私たちはロメイルを護っているのでしょう。意味不明も良い所。
「彼らの狙いは、ロメイルです!」
「そりゃ見りゃ解るわな」
「忌々しい死霊共めが!ノコノコと沸いてきおってからに」
「兄貴。とても僧侶の言葉とは思えねぇぜ」
取り囲む魔物の死霊たちは、私たちのほうではなく朱ら様に堂々とロメイルに向かって突進していた。振り撒いた炎の壁も、聖なる盾も、築いた土穴も。仲間の屍を踏み台にして乗り越えようとしていた。塵と消え行くその前に。前に前へと。
狙いは魔王級の力を魔王へと送る事。
試してはいない手は未だある。勇気を持ってロメイルと魔物の間に踏み入った。
「神威!如き為れど、これは神の意志である!」
杖を地面に突き立てて、力の出うる限りに叫んだ。
更にひび割れる地の底から、金色の波が沸き出た。乗り越えようとする魔物たちの足を掠う水面。彼らを黄泉へと還さんが為に。
「き、利いてる・・・すげぇぞ、ガレー」
援護の動きをメデスは止めてしまった。それ程までに美しく。
「これはいかん!」
「何故だ兄貴」
「聖都の遠見で覗かれたら、本当にスケカン殿の言う通りになってしまうぞ」
「おぉそうだったな。情報屋は兎も角、リラは不味い」
後方の2人が騒いでいる。リラ様、お世話には成りましたが。今では一介の冒険者風情。よもや神官への道すら捨てました。我が身の勝手をお許し下さい。
遠見の水晶が直っていたなら、有り得る話。
「ガレー。気にするな。奴はこっちで何とかする」
「念には念をとな。忌むべき者、阻害する橋立。アブショナル・ホーリーロード」
「おー、やっぱりか。トマホーク・スライ」
アーレンが示した道の先に、メデスが何かを見つけたらしい。こちらからでは見えないので、気にせず続行しよう。見られたら見られたでも構わない。最悪スケカンさんにお願いしよう。
メデスが投げ放った偽りの斧が虚空に飲み込まれて消え去った。
続いて聞こえた誰かの悲鳴は、気のせいにして。
その時、天から目映い光が降り注いだ。この様な芸当が出来るのは、彼しか居ない。
「神威!これが偽りであるならば。何ぞが真であるものか!リバース・アンデッド」
ふとロメイルを見ると、どうしてか大粒の涙を流して唸っていた。
声にはならないその声は。「か・・・み・・・さ・・・ま・・・」と。そう言っているようで。
「ロメイル。貴方も、お返り下さい。冥府では、きっと必ず」
淡い白雪のように。ロメイルと魔物たちの死霊が飲まれて消え行く。目が合い笑う彼の望みは本当は何なのだろう。黄泉がえりはもう充分です。この世界にも転生があるのなら、どうか彼には自由な人生をと願う。
短いですが、キリがいいので。
遅くなりましたが、ブクマして頂き感謝です。
お好きな方だけに読んで貰えれば感無量。
年内・・・微妙な見通しです。
うっかり教皇の反応を忘れてましたので
付け足します。