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第90話 真なる勇者が、誰だとしても

 衝撃的な言葉を聞いてしまっては、今後の方針を修正せねばならない。

 少なくとも最前線には立たせられないし。

 「ツヨシ。出来た、と思う」

 照れ臭そうに下腹部を撫でる彼女は、一層に輝いて見えて。

 「何が?お腹・・・」

 なのに鈍感な俺は、抜けた答えしか返せず。

 「だから、出来たのよ。やっと」

 「出来たの?・・・でき・・・できたの!!!」

 「うん」

 何時だ?先週か?いや昨日か?いや、そんな1日で解るものなの?誰に聞けば・・・。

 「ゴラちゃん。出来たってさ」

 魔剣を握り締め、喜び勇んで報告してしまった。

 「良かったのぉ。私はこんなんだと言うのに・・・」

 魔剣に封じ込めたのが、とても不服なようで。

 「さて行こうよ。さっさと魔神を倒して、準備しないと」

 変わらず元気ハツラツなクレネさん。王都に向かって走り出す。ちょっと待ってくれ。

 「ちょ、ちょっと待ってくれ。行くって何処へ?」

 「決まってるでしょ。魔王を狩りに行くんでしょ?」

 「いやいやいや。クレネは里にでも行って貰って、ゆっくりと」

 右の頬を平手で打ち抜かれた。痛い!夢じゃない!そっと左も差し出したが、追加の平手は飛んで来なかった。

 「これ以上、言わなきゃダメなの?」

 「いや、ごめん。ちょっと嬉しすぎて取り乱した。今ので目が覚めた」

 「私の時は、そこまで心配されなんだが・・・。今はこんなじゃし・・・」

 不服なゴラちゃんはまだまだゴネている。

 「全部片付いたら出すってば。おれを信じろよ。あとクレネ、無茶だけはするな。ウィートもグリエールちゃんも、おれが何とかする。序でに魔神もな」

 魔王祖父さんはすでに眼中に無く。

 「うん。それでこそ私の旦那様」

 「私たちの、じゃぞ」

 「ちょっとくらいいいじゃない。じゃ、行きましょ」

 「行くぞー、王都へ」

 「どうして歩いてるの?」

 「最初は肩慣らしじゃない?ちょっと歩いて、早歩きして。大丈夫そうだったら軽く走って」

 「賢人種を馬鹿にしてるの?」

 お身体と子供の心配してるだけなのに・・・。怒られてもた。男って駄目だねぇホント。

 「ちょっと!剛。聞こえてる?」

 茜からの念話だ。あっちの状況も知りたかったので丁度いい。

 「あ、ごめん。茜からだ。ちょっと待ってて」

 フムフム、成る程成る程。まーた俺の性なのね。前まで無かった迫撃砲が飛んで来ると。

 だったら原始的に岩振らせたるわ、ボケが!

 「メテオ・フォールン!デリバー」まだ1月なので、お年玉です。

 「ツヨシ。ちゃんと確認してる?」

 「心配いらねぇぜ。生存者の皆様は、全員地下の墓地区画に集められてた。全域地下5百Mまで確認したし。地上の居住区も避けて、お城の外周だけ吹っ飛ばしたから」

 「ごめんなさい、ごめんなさいと泣いておった男とは思えぬのぉ」

 「それを言うなって・・・。行こうか。無理させてグリエールちゃんまで寝込まれちゃったら色々困るしな」

 待ち受ける結末は、出来ればウィートが眠ってしまっている間に済ませたい。今は逆に眠ってくれて助かっている。あちらももうすぐ小屋に辿り着く。やってくれるぜ、救済者。

 ユード・ビクトル。初めて彼を見た時は、貧相で頼りなく、絶対にすぐ死ぬ奴だと思ってたのに今では真逆。助けられてばかりだ。彼にも感謝が絶えない。

 特に指輪の件とか・・・。嫁たちに恥を欠かせなくて済んだのは彼のお陰。前日のあの夜、結局ご近所の鍛冶屋さんでは間に合わず、地金だけ買って嫁たちが寝静まってからコッソリ自作してたとかあったなぁ。丹精込めて、盡力込めて・・・。

 おやぁ?そういやあん時の盡力って・・・。考えないようにしよう。

 「うん。行こう」

 笑っているクレネの顔を見ながら、ぜーんぶ綺麗に忘れよう。計算ミスってたなんて今更言えるかよ!

 左手にゴラちゃんを持ち、右手でクレネと手を繋ぎながら移動を開始した。

 仕方ないじゃん。ゴラちゃん、BOXに入れた傍から退屈じゃー退屈じゃーごねるし。

 守りたい人。守るべき人がまた増えた。どっかのダリエ少年ではないけど。冗談抜いて、責任ばかりが増えるのに嫌気が差していたが。こればっかりは、とても晴れやかな気分だ。

 戦場の最中。一時の心にだけは休息を。

 一息入れてから。歩いて行くのもいいんだけど。ここまで来て邪魔されるとも思えない。やっぱ試してみないとねぇ。

 「ゴラちゃん、ちょーっとだけ入ってて」

 「仕方ないのぉ。やるのかえ?」

 「今度は大丈夫?」

 ゴラちゃんをBOXに納めて力強く頷き返し、唱える魔術は。

 「ガーディス・フルテレポート!」守られた瞬間移動。今回は3人になるのかな。

 大事なお腹だし、念には念をってね。


 互角です。重ねられた経験値から来る剣技は、あちらが上。こちらはやや力任せだが、肉薄は出来ている。消費の激しいレクイエムを、何時放つべきか。

 メーデンを打てる程の余力は無し。薬を手に取る余裕も無し。何をしてくるかも解らないので時間も無し。大凡の見当は付いてはいますが。

 問題なのは、レクイエムが弾かれた場合。次の手が無くなるのが困る。

 魔王は禍々しい瘴気を放つ魔剣を持ち、佇んでいる。何事かを考えているのか。

 スケカン殿の魔剣とは受ける印象が違う。魔に純粋であり、欲望に従順なのは同じでも、居るはずの中身を全く感じない。微塵も恐怖を感じない。

 「起きよ!我が求めに答えよ!ウィーネスト・・・」

 あぁ、やっぱりか。スケカン殿とユードから予告されていなかったら、動揺した所でした。

 「どうした・・・、答えよ!」

 「無駄なこと。すでに対策済です」

 ウィートの傍には彼が居るから。だからとは安心出来ない。魔王には時間を与えません!

 「失った時間、失った絆、失った魂。救われずとも眠りなさい!ファルナイト・レクイエム!」

 迷いは捨てた。仲間の為、親友の為、皆の為。道化だなどと小馬鹿にされようとも。聖剣は変わらず輝き、私に力を貸してくれる。

 勇者?それがいったい何だと言うの。肩書きなどに意味は無く。魔が滅びれば意義すら無くしてしまう。最初からそう。私は、勇者という響きが嫌いでした。大嫌いでした。

 迫り行く光の刃は、魔剣を持つ右腕の薄皮を削っただけで消されてしまった。

 硬直を打ち消せるまでの盡力が無い。狙い済ましたように、上段に振られる魔剣。

 「邪魔するわよっ」

 四方の壁から銀色の鋭い羽根が無数に飛び交い、魔王との隙間を稼いでくれた。

 「助かります。アカネさん」

 「流石に強いわねぇ。でも、選手交代みたいよ」

 「ですね」

 硬直から解放された瞬間に、後方へと飛び退いた。

 「悪い。待たせたな」

 玉座の間の中央に現れたのは、裸ん坊の、スケカン殿でした。なにゆえ!

 「あんたって・・・、その気があったの?」アカネさんが呆れている。私も。

 「ちょっとだけさぁ。じゃなくて!ウィートの様子を見に行ったら、小屋に大軍押し寄せて来てるじゃんよ。クレネさんだけ置いて来る積もりが服まで置いて来ちゃってさ」

 慌ててBOXから衣類を取り出して着込んでいる。

 「慌てて飛んで。フル付けないテレポートってどうなるかと思えば、やっぱフル○ンだったって訳だ。あー怖い怖い。大事だね、フル」

 身なりを整え、魔剣を引き出し向い合うスケカン殿。出来るなら、初めからやって頂きたい。

 「茜。もういいぜ」

 羽毛の猛威から解放された魔王ガルトロフも、冷めた笑顔を引き攣らせながら向き直った。

 「お初にお目に掛かります。ウィーネストの旦那やらせて貰ってます、スケカンなる者です。ゆっくりとご挨拶したい所でしたが時間がありません。今すぐに死んでください!」

 無茶苦茶です。横暴なスケカン殿は、誰が見ても魔王にしか見えません。

 「我はガルトロフ。この国の王だったも・・・」

 「本気で行くぞ!ゴラちゃん」

 「うむ。存分に振るうが良いぞよ」

 責めて最後まで聞いてあげて下さい。ゴラ様?声はすれども姿は・・・、魔剣の中ですか!

 「展開早すぎでしょ!ここの外も凄い事になってるわ。早めに片して!」

 「・・・スピードスター・リミットフルブレイク!」

 見えません。残像すら全く見えません。でも魔王は的確に打ち返しています!剣が重なる瞬間だけは姿が見える。さっきまでは本気では無かったのでしょうか・・・。

 「もう壁要らないわね。グリエールも手を貸して」

 「はい!只今」

 急ぎポーションを数滴だけ飲んでテラスまで走った。

 「何ですか、これは!」

 日が陰り始めた頃。荒れた海の高い波のような魔物の群れが、城の手前まで押し寄せて来ていた。荒波の真ん中に取り残されてしまった、お城が一つ。

 「ね、私も聞きたいわ。推測だけどさ。これって過去に討伐された分も出て来てるんじゃないかなぁ」

 「過去、ですか?」

 「昔の勇者さんとか?戦争とか?潰したダンジョンとか?諸々?」

 「なるほど・・・」

 悪い夢なら、今すぐ冷めて欲しいです。

増える援軍と書いて増援。

際限なく増えちゃったら、怖いっすね

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