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第9話

 赤く染まった団体を木々に隠れて何度かやり過ごし。夕暮れ間近の空を見上げる。高い建物が1つだけの田舎町に到着した。アッテネートの看板。今度はちゃんと読めた。

 町としての規模は大きく感じる。時間帯的にか出る者は少なく、町へと入る行商の列に紛れて並んだ。行商の脇には立派な鉄鎧を着込んだ兵隊が数人ずつ立っていた。護衛か何かだろう。

 往来者と度々目が合う。中には睨む者も居たが、すぐに興味を失ったのか、一様に見返すことなく自分たちの職務や目的に戻った。

 「なぁ、あんた。このご時世に1人旅かい?」一番近くに居た商隊の護衛の一人が話し掛けて来た。

 「あぁ、そんなとこかな」

 「見た感じ強そうには見えないが、運がいいのか?」軽く笑って返した。

 「目だけはいいんでね。逃げ回って、やっと町に着いたのさ。疲れたよ。早く宿屋に入りたい」

 「?ここ、宿屋なんて無いぞ」「へっ?」無いのかよ!!!行商が行き交う宿場町なら、一般人も泊まれる宿の1軒や2軒あるだろ普通。

 「おれの知り得る限り、ここはほとんど一見お断りだぜ」「マジか・・・」入る前に教えて貰えて有り難いやら悲しいやら。町の外で野営、出来るかなぁ。完全インドア派なのでアウトドアの知識皆無ですけど?スキルだけはあるんですけど?成せば成る!

 「まぁ、話し掛けちまったのも何かの縁だ。内の団長に話通してやってもいいぞ」そう言って彼は掌を差し向けた。あー手間賃ね。欧米だったらチップだね。だがしかし!相場がさっぱり解らない。取り敢えず革袋から銀貨を3枚取り出して手渡した。「よろしく」

 「うぉ。こんなにいいのかよ」どうやら多すぎたらしい。彼はへらへらと笑いながら、護衛仲間を掻き分けて荷馬車の天幕に入って行った。「うわぁ、おれが話し掛ければ良かったぜ」数人が呟いたり、軽く舌打ちしたりと感情を隠すのが下手なのか。聞こえてない振りをした。商隊が2個程進んだ頃にチップ男が帰って来た。

 「自己紹介がまだだったな。おれはゲップス」ちょっと嫌な響きだ。失礼なので口にはしないが。

 「おれはスケカン。ご主人とは話付いたのか?」思えば俺の名前も大概だな!

 「天幕に来いってさ。シュレネーさんは結構顔が広いから、仲良くなっておいて損はないぜ」商団長さん何気に格好いいな。名前は。促されるまま、天幕内を覗いた。「お邪魔しまーす」

 「ようこそ旅の方。中へどうぞ」「ではお言葉に甘えて。私はスケカンと申します」入るなり挨拶と紹介は欠かせない。ビジネスマンとしては失格だろうが、就職前に召されたので無実だ。

 外はすでに薄暗くなっているが、天幕内はランタンのような照明器具があり明るい。薄いガラス瓶の中で石が光り輝いていた。かなり幻想的だ。

 「私はシュレネー。本当はもっと長いのですがね。面倒なのでシュレネーで構いませんよ、スケカンさん」恰幅の良い、いかにも商人が似合うシュレネーは終始笑顔だが、時々覗く目の奥が笑っていない。そりゃ出会って行き成り信頼信用は無いわな。まず疑うのは商売の基本。

 「ではシュレネーさん。私はこの町は始めてなのですが、ゲップスさんに聞いた所、宿さえ誰かの紹介が無いと泊まれないとか」

 「それはそれは、さぞお困りでしょうなぁ」同情的共感していながら、こちらを値踏みしている。交渉という名のお願いをするにしても、手持ちは奪った路銀が少々とポーションくらいしか持ち合わせが無くシュレネー側のメリットが何も・・・。いっそ魔剣を渡して・・・あかんな。

 「赤の他人で信用もクソもありませんが、どうかこれで1つ紹介状なりを書いては貰えませんか?」

 伝家の宝刀、中級ポーション。はい、これしか無いですから!

 「おぉ!おぉ?おぉぉぉ」大変に驚いておりますが。シュレネーが恐る恐るといった感じで手を伸ばして来た。触れる寸前で瓶を退く。上乗せされる驚愕の表情。ちょっと面白い。

 「紹介状、貰えます?」「も、勿論ですとも。紹介どころか、どうぞ私共の駐留邸へご招待しますよ。いや是非とも!」目の輝きが¥マークだ。ポーションはやはり高級品に違いない。酔い止め何かに使うんじゃなかった・・・。あの1本は、仕方ない。

 「聞かれる前に正直に答えますが。私もこれを友人から譲り受けたのですが、デラウェア方面の街道で盗賊に襲われまして。運良く逃げ切れたはまではいいが、大事な荷と証明書の類いを全て失いまして。正真正銘、それが最後の1本です」嘘ですけどね。

 「そ、それは何ともお気の毒で。してそのご友人は・・・」

 「賊の手により・・・」返り討ちにしたけどね。思い出さないように首を振った。ちらりとマップを確認してみた。緑の中に黄色が2つ。良かった。きっとシュレネーとゲップスで確定。

 念押しに自分の道具袋の中を開いて見せた。シュレネーがウンウンと頷いた。革袋が数個と空の水筒。護身用の短剣。空けたポーションの小瓶が1つだけ。我ながら少ない。女神様の厳しい愛情が見え隠れ。無いか。

 「どうやら嘘ではないようですし、あなたを信用しましょう」シュレネーはポンと手を打った。

 「そんな簡単に私を信用しても大丈夫なのですか?」

 「商売人の目と勘ですよ。それに」「それに?」

 「あなたの首は綺麗ですから」「はい?」俺の首に何か?

 「ここでの買い取りは止めましょう。外では危険です。詳しくは邸内でゆっくりと」

 「もしも、私が拒んだら?」

 「それはそれで残念至極ですが、そのような代物を手に入れられるような方を無碍に出来る程に私は愚かではありませんとも。あなたと出会っただけでも僥倖。私は運がいい。ゲップスにも手当を出さないと」とっても上機嫌になったシュレネーに連れられて、スムーズに町内に入った。

 シュレネー邸に向かって荷馬車は足取りも軽く闊歩していた。

 再びマップを確認した。そう言えば気になる事が1つだけ。周囲の黄色の数は変わっていないが、昼間に盗賊を撃退した辺りから、桃色が1つだけ出現していた。ピンクって何?

 敵ではなさそうだが自分から一定の距離を取りつつ、付かず離れず。こちらの様子を伺っているのかも。もし邸内に入ってからこれが赤に染まっても、折角知り合ったシュレネーさんたちに迷惑は掛けられない。極力注意しておこう。場合によっては引き付けてから逃げないと。


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