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第88話 息吹

 善戦している。クーデターの時は表に出ていたアーレンとメデスが重傷を負って退場した。

 2人をユードに運んで貰い、スケカンさんたちが到着したのはその後の事。

 元であろうが魔王は魔王。秘める力は予想の遙か先を行く。

 止めると豪語しながら下手は踏めない。止めるだけならとグリエも王都へと向かった。

 ロメイルだけならまだ良かった。加えてクーデター時の犠牲者たちが来なければ、多少なり楽に止められていたのに。

 敵のステータスの上昇は否めないが、取り巻きは倒すしかない。ロメイルが後方でスケカンさんが切断した足を掴んで接合しようとしていた。執念か、執着か。はたまた嫉妬に依る物か。本能のままに動く巨人は異様だった。

 竜姫様のような再生能力は持ってはいない。あれは恐らく、普通の治癒能力を高めた力。

 肢体を全て奪わないと、教皇は止められない。ユードが居ないのが痛い。

 居ない者を悔やんでいても状況は悪くなる一方。

 「寄る調べ、四柱の業火。ボルケーノ・レングス」先ずは周囲の排除が優先。3人の周りに大きな火柱を4本打ち立てて壁とした。

 「入って来た奴を各個撃破か。切ないねぇ」

 「贅沢を言うでないわ。あやつらの能力値も五分かやや下。殲滅よりも確実性だ」

 「そんな事は解ってるっての」

 強化系の魔術を使用しても良いですが、展開が読めず大術分の盡力は温存したい。どう転ぶにしろ、中途半端な小技ではロメイルを封じることは難しい。叩く時は全力で行く。

 唯一幸いであったのは、聖都での犠牲者が極少数であること。グリエは誰一人殺してはいない。失敗して犠牲を出してしまったのは私たち4人。後はロメイルに踏まれたか、倒された瓦礫の下敷きになってしまった一般人が数名。

 私たちが殺めてしまった者たちに責められるのは解る。一般人のほうまで襲い掛かって来るのが解せない。報復ですか。魔王討伐の為とは言え、クーデターを起こした者たちに対する。

 「納得しました。恨みに思うのも仕方なし」

 「後片付けも」

 「わしらの仕事かね」

 「時はありません。一気に行きましょう。裂ける闇夜。刻際の外れ。ブレナイトメア・ロスタイム」

 延長された時間の中で、2人だけは理から外した。

 「これどっちかで言うと、反則だよな。ドルウォーガ・アクシア!」

 只でさえ大きな戦斧が更に巨大化した。構えを終えると巨人目掛けて走り寄る。反則なのはどちらでしょう。

 「反則とな。誰が決めたのか!聖なる大盾。宿る裁きの鉄槌。ホーリーシールズ・クラウンドメイス」

 得意のシールドを握り掴む鉄球に宿らせて、目の前の地面を叩いた。バキンと音を立てて周囲の空気が踊る。地面も裂けて、亀裂はメデスの通り道だけを残して街道が崩れた。地割れに飲み込まれたのは教皇派の正規兵だった者と一般人だった者。

 何人もの恨みを募らせた汚い罵声が聞こえた。

 「その想いは私たちが受け止めます!狂えば嵐、清えば空洞。グレイテストストリーム・レアピンホール」

 メデスの斧に風を与えて後押しをした。背中を押されて飛び上がる。

 「こいつはいいぜ。今なら何でも斬れそうだ。何でもな!」

 身体の回転と捻りで繋がり掛けた左足も残りの右足も、腕の肘から先も完全に切り落とした。

 「甘いぞ。正義は我に無し。許は問わず。ジャッジメント・アーメン」

 止めにとアーレンは地に伏した巨人の下顎を側面から粉砕した。

 もう叫ぶ事も出来ないが、それでも生きている。大きな瞳だけが、こちらを恨めしそうに見ている。その生命力には脱帽するしかない。生きていて貰わなければいけないのですが。

 「こちらガレストイ。ロメイルの無力化に成功しました。私たちは監視のために動けません。以上です」

 返事はないが届いていれば問題ない。スケカンさんに念話を送り、私たちは自分たちの役目に就いた。


 想定通りに私たちはペテルの町に到着した。アカネと勇者は既に王都へと飛んで行った。

 ツヨシにガレストイからの念話が入ったようだ。無言の様子から察するにあちらは上手くやったらしい。こちらはと言うと。

 「久しいのぉ。ツヨシ」

 町の広場に佇む竜が一人。ゴライアイスの片割れと向い合っていた。完全な竜として立つ彼女は、翼だけを失っている。

 「久し振り。冥府には行かなかったのか?行けなかったのか?」

 「行くは地獄と信じたかったのじゃがな。どうやら私は、魂までも魔神の駒となってしまっているようじゃ。悲しくもあり、こうして再会出来るのは嬉しくも思う。私をたお・・・」

 「出来ない!おれは、もう誰も失いたくない。例え魔王の成れの果てでも。おれの嫁の一人には変わりがないからな」

 「卑怯者め。女として生まれてしまったのが運の尽きじゃの」

 「ああ、卑怯者だな。卑怯なおれは。この場からも逃げ出す。クレネ、数秒だけ抑えてくれ」

 「了解。あっちの状況は解らないけど、頼むわね」

 「任せてくれ。なーに、ちょっとした消火活動があるだけさ。フルテレポート」

 消火活動・・・。後でゴラはお仕置きが必要なようだ。いっそこっちのゴラに購わせようか。

 単独での移動なら誰に阻害されるものではない。里のほうはツヨシに任せよう。

 召喚術から剣を取り出した。昼の峠で初めてこれを見せた時、ツヨシが少し驚いていた。

 「フリーズ・・・。何かのシリーズなのか、それって」

 「さぁ。私はおじさんから譲り受けただけだし。出所は聞いてないの。知ってるのはおじさんのお友達の人が造った物って事くらい」

 「そっか。扱うのがクレネで良かったよ」

 言葉の意はそのまま。これの能力は凶悪であり、ある意味で最強だと言える。並の人間には扱えない。盡力の消費も去ることながら、生命力も奪い取る。寿命の話。私たち賢人や竜や魔族などの長寿命の者であれば問題はない。一度人間が握り振るい、技を発動させてしまったら。

 すぐに天寿が目の前までやって来る。これまで使用を控えていた理由の一つだ。

 昨日今日で使用頻度が上がっているので、私とて無害では済まない。ツヨシのエリクサーが無ければ、大切な寿命が縮んでいた所だ。

 しかしここで一つ考える。エンドが掻き消された件について。

 「エンド・オブ・ワールド」

 「ほほう。これは中々にして面白い技じゃの」

 まただ。ブラインおじさんに破られるのは解る。人間の城砦や、今のゴラに相殺されるのは理解に苦しむ。単に力量差やレベル差では腑に落ちない。あるとすれば想いの強さか。

 今回は消された訳ではなく、停止した時間の中に私とゴラだけが居るといった具合。

 「思えば。私たちって、本気で遣り合ったことないわね」

 「そうじゃの。ここなら誰の邪魔もなさそうじゃ。今の私から虫が沸くこともない。存分にやろうぞよ」

 「それ聞いて安心したわ」

 引き延ばした時間の間だけ。私たちは剣と爪を競り合わせた。

 私は踊るように舞うように。彼女は猛る情熱をぶつけるように。互いの想いを重ねた。

 吹かれた火が最近の家屋に燃え広がっている。ツヨシが戻ったらこっちも消して貰おう。

 剣は刃毀れもなく健常だが、硬い鱗までは刃が通せない。何処か一枚でも剥がせたら、弓で射ろうとも考えていたのに。少々甘い考えだった。

 得意な風では相性が悪く、周辺の被害も拡大して逆効果。竜も風や火には強い。特殊な青竜やウィートの水遁、ツヨシのスラッシュのような水刃なら私にも出せるかも知れないが、遣り過ぎて殺してしまってはいけない。少し切ったくらいでは簡単に倒れる彼女ではないけど。

 考えを巡らせていた隙を突かれ、彼女の拳に頬を捉えられて吹き飛びエンドも解かれた。

 「何故じゃ?どうして加減をする?」

 「ツヨシが戻るまでの繋ぎだからよ」

 「私を殺さぬのか?死さえ全う出来ぬとはな・・・」

 悲しそうに肩を落とすゴラの姿に、多少胸が痛んだが旦那様に任せるとしよう。

 「ただいまー。お?こっちも燃えてるのかよ!キュアレスト・ブルーム」

 消火はどうやら間に合ったようだ。小脇に人間のゴラを抱えてツヨシが戻って来た。

 「た、ただいま・・・」

 気まずそうにしているなら、本当に森に火を着けたらしい。軽く怒りの沸点が飛びそうになったが何とか抑えて自粛した。

 「提案がある。ゴラちゃん、合体しろ」

 「融合のことかえ?良いのか?また魔王に戻ってしまうぞ。折角分離して貰ったのに」

 「おれに考えがある。任せなさい。ちょっと痛いかもだけど」

 「何やら不穏な言も聞こえたが。どうする?片割れよ」

 「もう一度生者に戻れるのか?それなら願ってもないことじゃが」

 生きて子供たちを抱きたい。母としての想いが伝わって来た。

 竜族の成長速度は恐ろしく早い。成人成熟するまでは、人間や賢人の凡そ10倍近い。新年会で見た時には何人かは立ち歩きを始めていた程。人間寄りだからか、飛びまではしていなかったがその背にはしっかりとした翼の芽もあった。

 「よし、戻ろう。頼んだぞ、ツヨシ」

 竜と少女が融合する。元に戻るだけとは言え、片方の失われた時間は戻らない。

 目映い光に包まれた後、2人はまた1人となっていた。上手く行ったみたいで良かった。

 「魔剣・エクスキューショナー!発動、暴食!!」

 「えーーー」嫌っていた暴食を、今回は拾っていたのにも驚いたが。そんな事よりも。

 「あ~れ~」

 魔剣から出た瘴気が増大し、捕食者よろしく大きなゴラの身体を丸飲みしてしまった。

 瞬時にゴラは消え去り、静かな町の広場の景色だけが残った。

 「のぉ、ツヨシや」彼女の悲鳴に近い念話が飛んでいる。

 「なんだい?ゴラちゃん改め、ドラゴニック・エクスキューショナー(仮)ちゃん」

 「長いわ!ゴラで良い。して、これはどうしてくれるのじゃ?元に戻れるのじゃろな?」

 「戻れる!・・・たぶん」

 魔剣ゴラが震えて赤黒い瘴気を垂れ流していた。

 「絶対にって言ってあげたら?ツヨシは女を泣かせる人なの?」

 「戻れる!絶対に!魔神を倒した後で、必ず絶対戻します!戻してみせる!だから、それまではBOXの中で寛いでいてくれ」

 成る程。確かにあの中なら、外からの影響は受けない。内側から出入りする事は出来るらしいが。アカネや豚魔王のように特殊な例もあるのだし。

 「話は出来るようじゃな。腹も減らぬようじゃし、のんびりと待たせて貰うとするかの」

 彼女はBOXの中を堪能している様子・・・。あ、私のお仕置きがまだ。

 「これがお仕置きってことで。一つ、穏便に」

 「・・・もう。仕方ないわね」

 私にツヨシの考えが解るように、彼にも私の考えが解るのか。夫婦って悪くない。独り占め出来ないのが難点ではあるけれど。私にも早く赤ちゃん出来ないかな・・・。

 下腹部を撫でると、妙な違和感を感じた。それは、温かくて幸せな小さな息吹。

 「あ!もしかして、エンドの効果が消されてたのって・・・」

魔剣の真名が明らかに。

ソールイーターのほうを打ったのは誰でしょう。

きっとシリーズの作者とおな・・・


賢人の姐さんを産休させるか否か。

うーむ

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