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第84話 影、二つ

 後ろ髪を引かれる。決して後悔ではない。これは私たち皆で決めた結果。

 覚悟はしていたのだから。単に、魔を討てば良いと。魔王や恐ろしき魔神も、ツヨシと勇者たちなら倒せるはずと信じて。

 間違いではなかった。この結末を見出せなかったのは私の愚かさ。

 「どうすれば良かったのじゃろうな。エルドよ」

 「コレばかりは。誰にも予想出来なかったのよ。例え、神であっても」

 目の前で弓を番えるエルフの長の后。彼女は涙ながらに弦を引き絞る。

 燃え盛る森の火の海を背に。

 感謝しかない。感謝以外にない。ここまで夢を見れたなら。あるはずのない夢を見られたのだから。なれば4番。其れこそが私に相応しい。

 静かに、目を閉じた。私は、心に思う。

 「ツヨシ。ありがとう」続ける言葉はもうない。どうか、悲しまないでくれと。

 風の助力を受けた弓矢が、私の額を貫いた。と覚悟したのに。小さな覚悟は、最愛の人間に踏み躙られた。

 「ゴラちゃん。おれは直接じゃないけど言ったぞ」

 「なんと?」

 「おれは、誰も死なせないってな。少しは、おれを信じろよ」

 「そう、じゃな。信じなくてすまぬ」

 「いいっていいって。御母様。ゆっくりしている暇はない。説明云々は全部後だ。一人娘の旦那の戯れを。どうか笑って許して欲しい。キュアレスト・ブルーム・ロンド!」

 火の海は消え去り、荒れ果てた森に柔い光が降り注いだ。全ての傷を癒やす、光。

 「シャンとなさい!クレネの旦那を語るなら。全部。全部片づけてから来なさい!待っていますよ。ずっと、何時までも」

 「待たせます。どれ位かは解りません。必ず来ます。どうか、それまでお元気で」


 俺たちに追加されたスキルを並べてみる。これらはグリエールちゃんたちにも公開した。

 不公平だろ?相手のスキルだけ知れるなんてさ。

 俺には。治癒師。何だかなぁ。ユードっちではないけど、似合わねぇ。

 クレネさんには。看破に加えて、残破。兎に角もう嘘付けないってこと?

 ウィートには。勤勉や栄華に加えて、寡欲。欲が無いのは良いのか悪いのか。

 茜には。鵬翼。翼を望むか望まざるかは置いといて。

 ゴラちゃんには。慈愛。母性の基本。父性だって負けないぞ。実践出来てはないけど。すぐに子供を渡されても、育てられる自信はない。世のシングルの皆さん御免なさい。

 ダリエには、略奪に加えて。静粛。も付いてた。意味解る?俺にも解りませんな。

 港町を放り投げ、強そうな兵団も放り投げ。俺たちはペテルへと辿り着いた・・・。

 端折るな!叱咤激励痛み入る。ウィートの影響かな。

 グリエールちゃんに見えないバトンを渡そう。


 何故か状況を説明する使命(指名)に駆られた俺が居る。

 どんな状況かって?笑わせるなよ。俺にもさっぱり解らねぇ。嬢ちゃんは頑張っている。

 旦那のガレーも後を惜しまず大奮発だ。見た事ない魔術と嬢ちゃんの秘技の応酬。俺たちだって命惜しんでやってねぇ。手出し無用と言われたスケカン殿たちも参戦してる。

 で、この様だ。

 「なんだこれ!」叫んだって変わりゃしない。

 「こっちが聞きたいぜ」スケカン殿が答えてくれた。

 「だから言ったじゃん。簡単には魔王も倒せないってさ」アカネさんが怒ってる。

 「エンドも掻き消されてる。どうしようツヨシ」クレネさんも綺麗だ。関係ないな。

 「聞かないで。おれもこれは計算外だ」

 「戦うしかないんだろ。単純でいいじゃねぇか」メデスは通常営業。

 「落ち着け。方法はあるはずだ」アーレンもな!落ち着けるかよ。

 町を離れて8人でこれだから、残した2人が心配・・・してるような暇は微塵もねぇ。

 「オカシイです。レクイエムも効いていません」

 「不自然ですね。ここは一旦退きますか?」盛大にガレーに賛成だ。


 えーっと。説明と言われても。僕にもどうしていいやら。

 「悩んでいる暇はありません!兎に角、球を上げなさい、ダリエ君!」

 「はい!喜んで」

 一心不乱にあらゆる岩や石や固形物を投げ上げた。ウィーネストさんの眼前に。それを白剣の峰で打ち放つ。低い弾道弾は、町の外の丘に立ち並んだ魔族の一団を襲った。

 通常なら討てそうな魔物たちも、討ち果たせずに何度でも立ち上がる。

 知らないもん。あいつらが西の魔城に居た奴らだなんてさ。

 「ブシファー様!近付けません。如何様に?」

 「ええい、怯むな。猪突猛進あるのみだ!」

 遙か先の丘の麓で、豚のような魔物と腹心らしい魔族が言い合いをしていた。もっとやれと願いながら今も球になりそうな物体を上げ捲る。

 僕、戦ってませんけど?

 昨夜に周辺の魔物はグリエール様に一掃されたと聞いていたのに。豚が数十の手下を引き連れて攻めて来た。昼過ぎに移動を開始した所を見ると、再構成に手間取った模様。

 隊長の挙式が邪魔されなくて本当に良かった。横に立っていたのがガレストイさんではなく、自分でなかったのが無念で仕方がない。

 町を守るだけの捨て駒にされると疑ってしまったが、ウィーネストさんも残ると聞いた時には安心し、矮小な疑心を抱いた自分はまだ子供なのだと自覚した。

 「後2体。強いですね。火球では倒せません。直接攻撃に切り替えます。私は醜い豚を。ダリエ君は片割れを」

 「了解です」

 出番が来た。グリエール様に見て貰えないのが残念ではあるが、立派に倒して町を守り切ってみせましょう。

 先行で走り出したウィーネストさんの後ろに続いた。動きは速く、太刀筋に迷いがない。どことなくグリエール様に似ている。後で聞いてみよう。

 腹心が横に弾き飛ばされた。直ぐに体勢を立て直し彼女の背を追う。

 相手にされていない。見えている背中は刺してくれと言わんばかり。

 「雷伝。槍術・烈波!」電撃を纏った突撃で、魔物の背中の芯を貫いた

 僕は一度見た技は忘れない。勇者様に比べれば劣化版。それがどうした!流石のレクイエムまでは複写出来ないけどさ。槍術ならば得意な得物。

 貫かれた魔物は驚きの表情で振り返った。弱いと踏んで見くびり背を向けたお前が悪い。

 往生際が悪く、魔物が分身して計5体になった。でも遅い。だって僕のメインスキルは略奪だから。突いた瞬間にお前のスキルは根刮ぎ奪ってやった。

 想定よりも分身が作成出来ず、再び驚いている。雑魚に構うことはない。

 「分身!」同じ数だけ分身して見せた。三度の驚き。本当はもっと作れそう。奪いたてでは修練が足りず、制御が難しい。初回にして上出来だろう。

 「槍術・破。伍式連撃」次の手を打たれる前に、全霊の刺突で魔物を突き崩した。

 「くっ・・・ここまでか。主よ、先に行きます」消えて行く向こう側で、豚とウィーネストさんがぶつかり合っていた。

 「我が魔剣は、何処だ・・・。あれは、あれだけはこの私の物」

 「知りません!消えなさい、魔の者よ。セイグリッド・ブレイバー・デルト!」

 似ているのではない。同じだ。魔を絶つ光の渦が豚を包んで締め上げた。彼女も勇者と同じなら、その手に持つ剣も聖剣。違和感を覚える。

 どうして聖剣が2本も存在するのか。スケカンさんの力は異常。だから奥方様たちも?

 「ごあぁぁぁ」苦しむ豚が絶叫する。必殺技が、決定打になってない!

 大技の後の僅かな硬直時間。僕の直感が叫ぶ。豚の足が動くのを見極めて、彼女の前に盾を構えて割り込んだ。

 何かの攻撃を受けて、背にしたウィーネストさんと共に飛ばされて地面を転がった。

 「助かりました。ありがとう」

 「いえいえ。あれで滅しないとは、頑丈ですねあの豚は」

 「元魔王ですからね。あれは、ブシファー。接近してやっと見えました」

 「あれで?最弱と言われた、魔王」信じ難い話だけど、怯んでる暇もなさそうで。

 猪の如く猛進して向かって来た。傷だらけの風貌からするとダメージが通っていない訳ではないらしい。

 「ダリエ君。時を稼いでください。策を練ります」

 「了解です!ウィー姉さん」

 認められたいだとか、妙な使命感だとかはどうだっていい。止めは僕では打てない。出来るのは足止め。ここを任せられたのは捨て石ではなく、ここが一番安全だと判断したからに違いないのだから。グリエール様やスケカンさんたちの見立てが崩された。いったい誰に?

 背にするのは第2の勇者様。2本の聖剣。

 盾を構え直して猪と真っ正面からカチ当たった。本来なら自殺行為もいいとこ。いなしも躱しもしない!限界を突破したステータスと余剰。今も残るアスモーデの強化魔術。略奪による上昇を合算して尚、互角だと踏み込んだ。

 壊れぬ盾は、激しい衝突音を奏でて猪の突進を食い止めた。多少の押し戻しは及第点。

 「魔剣は王城の奴が持ってるらしいぞ」

 「あんな紛い物は私の物ではない!本当の魔剣は、魔神様が私に遣わした物だけ!」

 ウィー姉さんから7つ目の魔王や魔剣については聞いている。主に会議中に抜けて聞いていなかった部分を。

 聖剣が2本。魔剣も2本。この大陸に再臨した元魔王たち。

 ウィー姉さんのお兄さんも含めるならば、魔王の数も2巡している・・・。嘘だ・・・。

 だったら、魔神も、2体居る!!

 ああ、神様よ。貴方はこの世界をどうしたいのですか。

 考えを抱きながら後ろの彼女に目を送る。何かの術を練る彼女に今は話し掛けられない。

 「おい豚!お前らの野望なんてクソ喰らえだ!この僕が、全部ぶっ壊してやる」

 尚更彼女を。2人目の勇者様を。殺させる訳には行かない。焦がれたグリエール様に2度も刃を向けてしまった罪滅ぼしになれと願い。僕はブシファーからの略奪を開始した。

 身体がどうなろうと構わない。壊れるなら壊れてしまえ。その時こそは、魔神の野望も道連れにしてやるからな!

狂い始めた歯車は、必ず悪い方向だけに進むとは限りませんよ。

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