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第82話 結ばれる想い

 朝日が目映く。目が眩む。白だとか黄色がとか。何でもいい。何だっていい。

 動き出した風鈴は、規則正しく響く鈴の音は。美しく、儚く、さり気なく。私たちの式を彩る。

 間に合ってくれた人たち。これだけでいい。これだけの人が集まってくれた。

 激戦続きの只中で、魔王を待たせているとも知らずに。私たちは構わず、式を挙げた。

 「関係ないさ。知ったこっちゃない。人の事なんて考えなくていい」

 窮地を救ってくれた恩人に言われ、胸を張る。

 「幸せを噛み締めるのに、一々理由を求めるのなら。神様なんて、要らないわ」

 恩人が一番に愛する人であろう人に言われ。

 「グリエール様が幸せなら。共に歩むべき人が幸せならば。それが全てだと思います」

 数度しか会っていない人にさえ祝福されて。

 「考え過ぎよ。後のことは誰かに任せちゃえばいいのよ」

 種族など関係ないと言わんばかりに。

 「言うべきことはない。言われる筋合いもないのじゃろ?」

 助けてくれた人も喜び。

 「おれも、嫁さん探すかなぁ」

 本来なら私よりも余程男前の人も笑って。

 「人の幸せを妬むなら。自分の不出来を顧みれない愚か者だ」

 屈強な戦士が鼻で笑う。

 「誓ったな。誓ったのだな。私の前で。後悔してももう遅いぞ」

 酔っ払いの僧侶が笑いながら。

 「幸せになりましょう。ずっと2人で。この先も」

 愛する人は、少しだけ笑い。北西の方角を憂う。それ向く顔を強引に戻し、何度目かのキスをした。誓い、誓い合うキスは。とても甘く切なく。胸を締め付けた。

 教会の鐘の音が鳴り響く。私たちの門出を祝い、束の間の休息を称えて。

 誰に許可が要るものか。誰に請う必要があろうか。

 十六夜散り行く華があるとして。煌めきながら、零れて。私たちは何度も誓う。幸せになろうと。幸せであらんと。可憐で華奢な身体を抱きながら、2人して涙を流した。

 今だけは。今こそだけは。どうか邪魔立てしないで欲しいと願う。

 「ちょ、ちょっと待ったーーー」不意に現れた少年は。参列から外れた場所から挙手をした。

 片腕を失いながら、残る腕で手を挙げる。健気であり、憂いを覚えてしまう。

 「黙りなさい。私たちの幸せを祝えないなら、この場から去りなさい」

 「僕も、後2年生まれるのが早ければ。貴女の隣に入れたのに・・・」

 悔しそうに俯く少年に、彼女の檄が飛ぶ。何もそこまでと思わなくもない。

 何者かの呪縛を解かれた少年は、青色となって現れた。彼は死んではいなかった。それは彼女のレクイエムの直撃を受けても生きているのが確たる証拠。勢いで右腕は落とされてしまったのは諦めて貰おう。スケカンさんに頼めば治して貰えそうでもあるし。

 町に現れ、強引に挙式にまで参列した少年。敵意無しとの総意を受けて晴れて参加した。

 異を唱える少年に、皆が注目した。

 「何を言われようと遅いのです。不服なら、私の夫であるガレースを自力で倒しなさい」

 「え?えぇぇぇ?グリエ?負けちゃったらどうするの?」

 「負けるのですか!?私の夫と名乗る人が?万が一負けたとしても、私を倒さなければ誰にも認めさせません。致命傷を与えても認めませんよ」

 言い切る彼女は胸を張った。まだ根に持っているのか。男だけで先陣を切った事に。逆に言えば信頼されているとも言える。かも知れない。

 「そ、そんなぁ。グリエール様」

 跳んだ挙式になったものだと、私は呆れて慣れた杖を手に取り眺めた。

 

 謎の男との戦いで、一度は消失したかと思っていた杖は、昨夜の戦いで平然と舞い戻った。

 手放してはいけないと言われているようで。

 用意していなかった指輪とドレスをスケカンさんに作成して貰っている間に、快く杖も鑑定して頂いた。本当に、恩を売っておいて良かった・・・。

 「リバース・・・。ガレース君。これの作成者は?」

 「元は遙か昔に教皇家に寄贈された物で、リラ様の家で保管していたらしいのですが。詳しい出所は聞いていませんね。聞いても知らないと言われそうです。名のある名工の作だとは思います。何でしたら今からでも聞いてみますが」

 「ふむふむ。いや、今は準備で忙しい。聖都に寄った時にでも聞いてみるさ。ジジイと念話するのも気分が悪いし、ガレース君もこの機能については他言しないほうがいいと思うぜ」

 何か気掛かりがあるのか、少年が持っていた剣(没収品)と私の杖を見比べては首を捻っていた。

 「はい。念話自体もまだ明かしたくないですしね。何か解ったらお伝えします」

 「本筋じゃないんだ。ものの序ででいいよ。ほら、出来たぞドレス。グリエールちゃんの着付けはウィートに任せようか?」

 「是非ともお願いします。男手では勝手が解らないので」

 「だよなぁ。おれん時も任せっきりだったしな」

 最後に私の左手の薬指を改めながら指輪を仕上げてくれた。何から何まで。

 「こんなにまでして貰って。感無量です」

 「気を遣わなくていいさ。昨日のあの瞬間に、もしも援助が無かったら。マジで危なかった。これ位で返せるもんじゃない。感謝してもし足りないぜ」

 真顔で言っているので本気なのだと安堵した。私にも出来る事がまだあるのだと。


 「きつくはないですか?グリエール様」

 「大丈夫です。それよりも、様は止めてください。ウィートネスさん」

 背紐を腰から順番に締め上げて貰いながら、高揚する心を落ち着かせる意味でもウィートさんと話をした。元侍女であり、滅びたペルディア国王家の末裔。血筋だけなら高貴なお姫様。そんな人から様付けで呼ばれるのは気が引けてしまう。

 思えばちゃんとお話をするのも初めてかも知れないな。

 「正真正銘の勇者様。だから、ではありませんよ」

 「え?」

 「これは私の癖のような物ですから。気になさらないでください。少しお胸触りますね」

 「ど、どうぞ」

 同年代の同性とは言え、自信のない胸を整えられるのは恥ずかしい。ドレスなどは初めて着るのだし、今は任せるしかない。背中からショルダーレスの胸当てで整えられるままに、身を任せた。

 何時もはサラシを巻いて固定しているのもあって、タイトなドレスで着付けられても開放感のほうが勝る。胸元まで締めが終わり、次は肩までの黒髪をテール状に整えて貰った。

 「上手ですね。侍女さんって何でも出来るのですか?」

 「色々な事を叩き込まれましたから。素直な直毛で羨ましいです。トップアップは終わりです。お化粧は自然体が良いですか?」

 「お化粧なんてした事がないので。お任せでも?」

 「賜りました」

 向い合うようにして椅子に座り、目を閉じて任せた。後で鏡を見るのがとても楽しみだ。

 心待ちにしていた式が近付くのを感じて胸が高まる。ここが戦地でなければどんなに良かっただろう。未だ見えぬ平和を掴み取り、故郷に帰って改めてもう一度挙げたい。両家の家族や仲間の家族を呼び寄せて。出来れば目の前のウィーネストさんやスケカン殿たちにも来て欲しい。

 柔らかい毛筆が頬や首筋を撫でかなりくすぐったい。

 「リップは何色にしましょうか。ご希望があれば」

 「そうですねぇ。それ位は自分で決めないと・・・」

 目を開き、姿見で自分の顔を確認した。「だ、誰?」これが、私か!女性は化粧で変わるとよく言うけれど。お任せして良かった。

 「こ、濃いめのピンクで。お願いします」

 「ツヨシ様。濃いめのピンク顔料の発注です」覚えたての念話でスケカン殿と話をしていた。口にも出してしまっているのはご愛敬。昨夜は私も飛び起きて叫んでいたし・・・。

 「直ぐに持って来るそうです。楽しみですね」

 「スケカン殿は何でも作れちゃうんですねぇ」

 「凄いのですよ。内の旦那様は」微笑む顔が眩しくて、思わず手を取った。

 「ねぇ、ウィーネストさん。私とお友達になりませんか?もっともっと色々教えて欲しいな。お化粧とか所作とか、お料理とか。いっぱいお話したい」

 友達か。思えば同性の友達はとても少ない。聖都の街に数人と故郷の村に数人。両手で数えられる程度。だけれど皆、私の嫌いな言葉を頭に付ける。「勇者様」と。

 「それはぜひ。私からもお願いします。ではまずは、私のことはウィートと呼んで」

 「じゃあ、私のことはグリーと呼んで。呼び捨てで。いいでしょ、ウィート」

 「はい、グリー。よろしくお願いします」普通に名を呼んでくれる友達。嬉しくなって思わず抱き着いてしまった。

 「あらあら、折角のお化粧が」少しだけ手直しが必要となった。ごめんなさい。

 差し紅が届くまでの間。他愛もないお話をした。楽しい一時は過ぎて。スケカン殿の紅が届けられた。

 「濃さがよく解らなかったから、3種用意しといた。違ったらまた言ってくれ」

 廊下のほうから彼の声が聞こえた。ウィートが受け取って戻って来た。

 彼女は自分の手の甲に少量塗っては、私の口元に照らして見て思案していた。結局一番濃い色で決まり、差して貰って完成した。本当に別人が鏡の中に居る。

 純白のドレス。聖都に上がって聖剣を手にしてから、見られぬ夢と諦めていたのに。

 涙は流せない。またお化粧が崩れてしまう。

 「スケカン殿を選んだ理由。聞いてもいい?」

 「難しい質問ですね。強いて言えば、愛する人が一番に愛する人、だったから。グリーは?どうしてガレストイ様だったのですか?」

 「愛する人が?うーん。私は。ガレースは私の事を、普通の女の子だって言い切ってくれたから。かな」勿論それだけではないけれど。

 人それぞれだ。こればかりは。

 暫くすると式場の小さな教会の準備が整い。私とガレースの略式的な挙式を挙げた。

 ガレース当人も筆頭に、仲間や少年やスケカン殿までも皆口をぽっかり開けて私を見ていた。自分でも驚いたくらいなので素直に喜ぼう。飾り手のウィートのお陰だと。

 やっぱりクレネさんの隣には立てないけれど。あんな異次元は置いておいて。

 終わらぬ戦場の片隅の港町で。仲間内だけの挙式を挙げた。私は勇者である前に、一人の普通の女なのだと噛み締めながら。愛する者と誓いのキスをした。

どこで挙げとんねーん。のお話です。


構想段階の新章への布石を投入します。


魔神を倒して終わり?

誰もそんな事は・・・


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