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第80話 仲間、家族、恋人。愛するが故に

 見えてしまったものは仕様がない。私たちもマップが使えるようになった。

 大陸東側でスケカン殿たちが戦っていた。苦戦しているように見えた。確認した時点で数万程度の敵影がスケカン殿を囲んでいたから。

 私とガレースが冷静さを取り戻した後、合流していた仲間たちと共に王都に攻め入るか、東の救援に向かうかで話し合ったが、加勢した4人の女性たちの事を考えると不要な心配に思えてこちらは王都へ向かおうとなった。駄洒落ではなく。

 ガレースが突如発動したマップをみなで共有し、試行錯誤しながら操作してみた。

 これは素晴らしい力。いつもスケカン殿たちが見ていた物はこれだったのだと感動もした。

 しかしここで問題が起きた。私が最初に降りた町。南の港町で。

 脱出する前には敵は一掃していたので赤色は居なかった。だけど代わりに緑色が現れ始め、急遽偵察に向かったユードが持ち帰った情報により、緑色は一般民だと判明。

 南の大陸の人民が全滅していなかった事に喜び、王都に向かう前に町と周辺に居る生存者たちの安全確保を優先した。とは言え敵は東を除いて、西部中央のペルディア王都と繋がる街道沿いに固まっていたので確保は難しくはない。

 問題は町の代表者との話し合いを経て、町を去ろうとした後。

 「行かないで勇者様」

 「あんたたちが居なくなったら、誰が町を守ってくれるんだよ」

 「私たちは身を守る術をもちません。お願いしますお助けください」

 「子供が生まれたばかりで、この先どうすれば良いのですか」

 などなど激しい足止めを余儀なくされた。このまま捨て置けは出来ないし。

 「どうしましょう。皆さん」

 「助けたのはただの偶然だ。ここで切り捨てたって恨まれる筋合いはねぇぜ。嬢ちゃん」

 ユードの言うことも解る。戦場の只中に引き連れては行けないのだから、心を鬼にして立ち去る選択もある。でもやはり私は。

 「捨てては行けません」

 「そう言うと思いましたよ。グリエ」

 ガレースがニッコリと笑って撫でてくれる。大切な人に触れられているだけで心が和む。

 「イチャ付くのは後にしろ。どの道今日は遅い。出るにしろ留まるにしろ明日の朝だな」

 メデスの言う通り、私たちも消耗激しく。色々な意味で。近場の敵が動かないのであれば、今夜は休息を得るべきだと思う。

 「東側の動きも朝には結果も出ていよう。安心は出来んが、交代でマップで監視しておれば問題はないと思うぞ。正直わしは疲れた」

 「ですね。宿で仮眠を取りましょう。東で大きな動きがあっても連絡するようにして」

 皆で頷き合って今夜の方針が決まった。東で戦っている人たちには申し訳ない。多少なりとも罪悪感を持ちつつも、休息は大切だと割り切って。

 最初は私からとなり、ガレースが隣で見守る中、お休みのキスをして目を閉じた。


 「嬢ちゃんは眠ったか?色男」

 「ちゃんと眠らせましたよ。色男は止めてください。純粋な愛ですから」

 「言うねぇ。昨日までキスしか出来なかった男が」

 「山を越えると大きくなるのが男ってものだろう。式の神官役はわしがやろう」

 「兄貴、それだと酒飲めねぇぞ」

 「それを言うでないわ。後会で飲み倒す」

 「とても僧侶の台詞とは思えねえな」

 「何もかも今夜を無事に乗り切ってから、ですね」

 町の外には数千規模の魔物の軍勢が犇めいている。彼女のマップには隠蔽を施して詳細は見られないようにした。見せてしまったら、真っ先に飛び込んでしまうから。

 聖都の時のように、私たちを置いてでも。

 「おれらが死んでも、嬢ちゃんは泣くだけ済むだろうが。ガレー、お前だけは死ぬなよ」

 「変な冗談は止めてくださいよ。私たちは家族です」

 「危うくなったら、グリエールを連れて東へ飛ぶんだぞ」

 「後は老兵に任せて。良いな?」

 「お断りします。私が駄目なら全滅でしょう。東もかなり危険な気がします。残りの盡力を少しだけあちらへ送ります。試してみたい事もあるので」

 「スケカン殿がヤバいとなると、こっちはどんな奴なんだろな」

 現状で盡力を多く残しているのは自分だけ。謎の男から与えられた分の盡力も余計に持って。

 グリエは私を助けに来てくれた時点で空に近かった。他の3人も、私とグリエを守る為に大半を失っていた。実際あの場に竜姫様が居なければ、魔物の群れに飲まれていたらしい。

 「さぁてな。出会ってからのお楽しみってことで」

 「死者が生き返るか。僧としては心苦しいな」

 「送り返してやりゃいいんだろ?何度でもよ」

 4人で町の外へ出ると、待ち構える魔物たち。火山の洞窟で倒した魔物たち。

 あの時から更に強くなって。私たちも強くなった。けれど今回は防護服も無く、勇者も居ない。

 「これで死んだら、グリエに顔向け出来ませんね。向ける顔さえ無くなるでしょうが」

 これまでは彼女が常に前に立ち、導かれ、強き魔王を倒してきた。私たちが前に出たことは一度も無い。露払いで出ようとしても、グリエはとても嫌がった。

 思うように剣が振れないからと、嘯きながら。本当に真っ直ぐで優しくて、誰よりも頑張る人だ。大切な人たちをあの細い身体で、折れんばかりの腕で守ってきた。

 旅をしていて心休まる日があったとすれば、ブラインさんの家での日々だけだと思える。

 強がりな彼女は素直には認めないだろうけど。

 「もういいでしょう!充分に頑張りました!今回だけは、いいえ。これからこの先は、グリエが前に立たなくてもいいように。やってやりましょう」

 「アーレン。おれとメデスだけシールドを。ガレーには邪魔になる」

 「解っておるわ。だが持って数発。セイベリウム・ハイシールズ」

 「楽しくなってきたなぁぁぁ!ドルウォーガ・アクス」メデスが闘気を爆発させた。斧を振るい先陣を切った。

 先端を開いただけに終わるメデスの猛攻。焙れた側面をユードが削る。アーレンは隣で回復に専念。敵の強さも去ることながら、自分らだけでも戦えることの証明は難しく感じる。

 弱い。一言で片付ければ。彼女の導きが無ければ、こんな物なのかと。口惜しい。

 「この程度では、グリエを守るなどとは夢物語です!ウォーラルズ・クライ」

 一時的に身体能力を急上昇させる補助魔術。前衛の動きが軽くなる。

 「いいねぇ。出来れば継続してくれ」

 「漲ってきたぞぉぉぉ」

 「言われなくとも」

 激しく増加する敵の攻撃。だけれども見えている。敵の動きが濁流のように。氾濫し溢れ出る動線の先が見える。

 何時からか空から分厚い雲が消え去り、満天の星明かりが注いでいた。敵影の全体像が露わとなり源流を辿れた。星明かりに加えて、東の空から目映い光が差し込み、戦場を照らした。

 有り難い。きっとスケカン殿に違いない。この機を逃す手はない。元より出し惜しみなど。

 「消え行く闇夜、氷零の豪雨、ゲレナイトメア・ゼロイブレイン!」考え得るだけの極大氷雨。

 敵影遙か後方の源流へと叩き込む。ぐら付く身体をアーレンが支えてくれた。

 「愛する者を守りたい。その意気込みは買うが、しっかり計らねば彼女を悲しませるだけだぞ」

 「らしくないのは承知です。ですが男がこれと決めた事を。遂げられぬなら、端から好きだなどと告げてはいませんよ。未だ!結婚すら申し込んではいないのに」

 「死ぬ気でないのはよく解ったが、どうする?敵の溢れは止まったが・・・」

 数こそ減らした。流れを断ち阻害もした。しかし、敵の個体の動きが逆に活発化している。

 押し戻される前衛の2人。

 「クソが。何だってんだ。さっきより動きが段違いだ」

 「泣き言をほざくな!敵が上手なのは承知の上ぞ」

 「わぁってるよ!命を惜しむなってんだろ。泣けてくるぜ。アタッチメント・アンチシェード」

 ユードの影が2つに割れて分身を造り上げた。計3体で敵の波に抗い飛び込んだ。あんな技は今までに見ていない。言の通り命を削っているに違いない。

 「そこまでは言ってない。死なば諸共にだとな!ドルウォーガ・アクシーズ」

 具現化されたもう一振りの斧。通常では両手持ちの斧を片手持ち。メデスは自らを鼓舞して叫び、肩から指先まで血飛沫を噴き出しながらユードに続いた。

 「揃いも揃って。我らは大馬鹿ぞ。彷徨える魂、天の御許へ。アブソール・ホーリーレーン」

 東の光源を失った戦場に、再度の光が注ぎ、2人の先を照らした。

 それぞれに皆が己の限界を越えている。この上で自分だけ帰ろうとは思わない。

 「不甲斐ない仲間で、夫で、御免なさい。グリエ、愛しています!後は彼らと共に、魔神を」

 スケカンさんたちと共に行けば、きっと願いは果たされる。自分たちが居なくとも。彼なら悲しみさえも受け止めてくれると願いたい。

 グリエを頼みます。私はこの手に馴染み過ぎた杖を、頭上へと掲げた。命を投げ打つだけの魔術を放つ為に。リラから譲り受けたこの杖は、多くの旅路と戦い潜り抜けた友。今日まで折れずに頑張ってくれた事に感謝して。

 「おーい、ガレー君。取り込み中すまん。さっきのお返しするけどさ。こっちも立て込んでて割り振る余裕ないから。取り敢えず、グリエールちゃんとガレー君だけに飛ばしといたよ。彼女超絶怒ってたけど・・・。まぁ頑張れよな」

 「え・・・」今のはスケカンさんの声。お返し?盡力の?怒ってた?彼女が?起こしちゃったの?折角眠らせたのに?その点は、想定外です!

 遙か後方から感じる。否、猛烈な足音。地面が割れてそうです。近付いて来ると共に。

 「この、大馬鹿者ぉぉぉーーー。ファルナイト・レクイエム・メーデン!!!」

 怒れる彼女が放った太い光は、前衛2人と魔物たちを飲み込んで濁流の源流を丸ごと消し飛ばした。ユードとメデスは・・・、気絶している。源流の先で待ち構えていたはずの、何者かも消えていた。敵の大将も哀れなり。

 戦いの後、深夜の港町の入口で。正座させられる男4人の前を肩を奮わせ行ったり来たり。彼女の怒りは、静まってくれるのか。

 「何故ですか!どうしてですか!どうして私を置いて行くのですか!」

 「すんません」ユードが素直に謝ったが、怒りを煽っただけに見える。

 「謝って欲しいのではないのです!どうしてこの様な事をしたのかを聞いているのです!」

 「この老兵が、ここを死地と決めた故に」

 「アーレンさん。何が老兵ですか!足腰ピンピンしているじゃないですか!いつも若いもんには負けないと言っているではないですか!」

 「グリエールの足枷になっているのではないかとな」

 「メデスさん。戦いの経験は私の何十倍も上です!私や皆が危ない事をしようとしていたら止めるのが先輩の仕事ではないですか!今回の事を言い出したのは誰ですか」

 恐る恐る手を挙げた。彼女が私の前に立った。泣いている。出来ればでいい、殴らないで欲しい。君の打撃に首が堪えられるとは思えないから!

 「どうせ、そんな事だろうとは思ってました。そんなに私に前に立たれるのが嫌ですか?私が女だから?」

 「違う。君を後ろから支えるのが私たちの役目。解っているけど。解ってはいるけど、時には愛する君を守りたい。そう思ったっていいじゃないか。大切な人が、率先して危険に飛び込んで行く姿を後ろからただ眺めているだけ何て、堪えられないよ」

 「狡いです。言い返せないじゃないですか。そう思っていてくれるだけで充分なのに。そう感じているからこそ、私は、頑張れたのに」

 縋るように、グリエは座る私に抱き着いて来た。

 「ほら。言ってやれよ、色男」ユードが茶化して来た。大きなお世話だと言うのに。

 想い浮かべる言葉は、今言うべきことなのだろうか。本当は、果ての魔神を倒した後に。平和な世で、彼女が戦わなくていい世界が訪れたなら。伝えようと決めていた言葉。

 「結婚してください。グリエ。永久に誓います。生涯幸せにすると。この命、続く限り」

 抱き締め合う腕の力が強くなった。く、苦しい。でも言えない。

 「はい、勿論です。お受けします。頑固なじゃじゃ馬ですがよろしくお願いします。ですが、約束してください。もう無茶はしないと。絶対に死なないと」

 「それは、魔神の討伐よりも難しいかも、しれま・・・」そこで私は気を失った。酸欠で。

 「あ、あぁぁ!ち、力を入れすぎました。ど、どどどどうしましょう」

 「大丈夫。気を失っただけだ」

 「運びたいのは山々だが、残念ながらおれたちは満身創痍。薬も切らしてしまった」

 「わ、私が、運びます・・・」

 「嫁さんにお姫様抱っこされる旦那か。こりゃ傑作だ」

 ユードの腹を抱えた笑い声が、遠くの意識の中で木霊していた。

恋愛パートを無断で投棄。

段階なんて知りませんけど?


出番無く塵と消えたのは、

悲運なあの豚さんです。キッパリ


2人の愛の前に消えてもらいました。

後述の予定はありません。


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