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第72話 勇者とは

 運命なんて信じてはいなかった。普通の寂れた寒村に生まれた私が、勇者だなんて。

 何か悪い冗談だと思っていた。1つ目の魔王を討つまでは。

 あれからも、それまでも沢山の人たちと出会い。多くを学び、多くの命を奪い、多くの後悔もして、大切な家族とも呼べる仲間を得て。私はここまで辿り着いた。

 7つ目の魔王はウィートさんのお兄さんらしい。私の意気込みは関係ない。それでも彼女は辛くはないだろうか。自らの手で愛する人を斬らねばならぬとは。

 彼女の隣で様子を見ながら、助太刀してもしもに備えよう。そう思っていたのに。

 スケカン殿の転移魔術が失敗した。スケカン殿たちとも仲間たちとも離ればなれになった。

 私にはマップと呼ばれる術は使えない。たぶんあれはスケカン殿と心身を通わせた者のみが使える秘術に違いない。

 でも私たちには私たちの絆がある。感覚的な物で不確かで幻のような暖かみを感じる。

 一番近くにガレースが居る。早く会いたい。私の焦りに呼応したように、アンデッドの軍勢が立ち塞がった。

 数はざっと見積もって3千程度か。不安は無い。手にする聖剣は淡く輝いて、弱い私の心に勇気をくれるから。

 敵兵の姿からすると、元はペルディアの正規兵。規律良く立ち並び、朽ちかけた国旗を高らかに掲げていた。それが誇りであるように。王の帰還を誇示しているかのように。

 喜び、勇み、大地を踏みならし、国旗を突き上げて。

 どうしてだろう。私は、この光景を覚えている。南の大陸へ足を踏み入れるのも、生まれて初めてのはずなのに。彼らの勇姿を何処で見たのだろう。こちらの地方の伝記すら読んだ記憶も無いと言うのに。

 ガレースを感じる方角に連なる敵影。山となり、うねりとなって尚、何重にも隊列を整えて。己を鼓舞しながら、抑圧されていた魂だと叫んでいた。

 「我らが王は、帰還せり。我らは王と共にあり、王と共に歩む」懐かしい。率直にそう思える響きが連なり木霊した。私の頬には勝手な涙が伝い、落ちて足元の地を小さく染めた。

 応えなくては。他でもない私が、彼らに応えなくては。言いようのない使命感。

 運命が在るとして、今ここに立つ意義を。彼らに示す。それが勇者としての使命。

 最早、魔王など魔神などは関係ない。私は聖剣を構えて走り出していた。

 槍が降り、戦斧が飛び、矢が風に舞い散る。悉くを避け、悉くを弾き、暴風を薙いだ。

 大盾を蹴り上げ、足場にして宙を舞う。巨大な戦斧に阻まれて、元の位置より後方まで押し返された。私をあの先へとは行かせない。その大きな意志の力を感じる。

 「彷徨える魂、辿り着いた使命、それでも私は救いたい。エスパライゼ・カリファルア」

 天に向かって大きく十字を描いた。剣の師から学んだ技。今の場合レクイエムのほうが正解なのだろう。しかしあれは消耗の割に範囲が狭い。それでは救い切れない。

 目映い十字星は、分厚い灰色の雲を割り地上へ光を導いた。直後ドスンと光を受けた地面が裂ける。地上の兵士たちを飲み込んで。

 4つに分断されてもまだ、兵団は生きていた。前2つがそれぞれ凸型を取り、後ろ2つは集約する為に更に後方へと退避する。

 優秀な将よりも、優秀な軍師が居ると見るべきか。展開が異常に早い。

 前2つで挟撃して削る。削った後は、整えた後衛で討ち果たす。そうはさせじと右手の隊列の側面を掠めて駆け抜けた。

 所々岩場が見える平原地帯に出た。人が居なくなった港町から脱出し、街道まで出たので東方面に抜けたのか。私を西に向かわせたくなのなら、王都と集合場所のペテルは同じく西方に位置しているに違いない。

 向かうべき場所は解っているのに、抜け切った右手にもアンデッドの大群が群がっていた。

 「臆したか、勇者よ」

 「貴様はたしか・・・、あの時の魔族」

 目深く黒革のフードを纏った男が一人、大挙する群れの前に出てきた。聖都の闘技場で少年兵を魔法で殺した男。その男の声は忘れようもない。

 「魔族ではありませんよ。私は歴とした人間でした。魔には堕ちましたがね」

 男がフードを外して顔を見せた。両目が潰れている?それに加えて首に痣が巻き付いて、カルマが振り切っているのが解る。それ程の大罪を犯したのだ。

 「貴様は、いったい何者ですか!」

 「色欲のアスモーデ。であった者と言えば解りますか?最も今は特殊なスキルは奪われて、代わりに求めていた魔術が使えるようになった単なる魔術師ですが」

 アスモーデは卑下た笑みを浮かべていた。両目が潰れて陥没しているのに、周りの景色が見えているかのように振る舞う。

 「マップを使っているの?スケカン殿みたいに」

 「ああ・・・、言われてみれば。これがマップですか。こんな便利な物を奴は独り占めか。魔術もエルフも全部全部全部。だから、私が邪魔してやったのさ。盡力を使い果たした彼なら、単独で勝てると踏んで」

 「スケカン殿が単に失敗したのではないとは思ってたけど。貴様が邪魔立てをね。それで?」

 「それで?」

 「一番近くに居た私をここで殺そうと?」

 「いえいえ、冗談を。聖剣を持つ君を倒そうだなんて自殺行為。だけど、君の大切な人ならどうでしょう」

 西方の方角を見て笑った。奴には彼の居場所が解っている。いや見えている。

 「待って!貴様は行かせない!ここで討ち果たします」

 「そう来ると思ってねぇ。君には特別なプレゼントを用意してあるよ」

 「プレ・・・?」

 翻したローブの袂から、一人の少年兵が現れた。

 「驚くことはない。私が放ったのはプリズン。牢獄なんですから。少年にはありったけの強化魔術を施してあります。多少の時間は稼げるでしょう。君の大切な人が、苦しみ藻掻いて死ねる程度には!」アスモーデは言い放って宙を舞い、西へと飛んで行った。

 「待て!くっ」

 進路に少年が割り込んできた。見事な白銀の剣を携えて。奴の言っていたのは偽りなく。剣を合わせただけで解る。

 「勇者様!僕はお慕いしておりました。貴女が旅に出られる、ずっと前から」

 「だったら!その気持ちがあるなら、私の邪魔をしないで!」どうかそこをどいて。

 「貴女が全てを失っても、この僕が居ます」

 この子の言っていることが解らない。仲間が死ぬのを待っているの?

 足止めを余儀なくされた。鍔迫り合いであっても互角。

 無情にも時間だけが過ぎて行く。周囲に集まった敵兵や魔物も邪魔をして。

 「邪魔をするな!」少年は加勢しに来ていた魔物を刻みながら叫んだ。

 僅かに離れた隙。私はもう後のことは考えない。

 「聖剣よ、今こそ私に力を貸して!ファルナイト・レクイエム・メーデン!」

 紡ぎ出した光の渦の中。少年、兵団、魔物たち。塞がる敵を薙ぎ倒して進む。その光が進み届かぬ先の空を焦がす、暁の爆炎が地上から巻き上がった。

 「ガレーーース」

 「ゆ、勇者さま・・・」

 何かに足首を捕まれたが、私は無意識にその腕を斬り捨てて走り出した。

第6のコース。勇者様。


たぶん魔術師君のほうが長めになります。

なので短めです。


おまとめコース行きは・・・おっさん2人?

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