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第68話

 空を飛ぶ翼があれば。あの人の元へ迷わず行けるのに。

 目の前に立ち塞がる敵が居なければ、迷わず走って行けるのに。

 離れてしまった。私が一番遠い場所に。出会いの日から傍に居た。いつもどんな時も。

 寂しい。心が引き剥がされるとはこの事だろうか。

 何匹か。雑魚と思われた死霊を倒してみたものの。率直に強い。アンデッドのくせに硬く、倒し辛い。火を使えば一網打尽には出来るが、それでは消耗が激しくあの人の元へ行けない。

 私の先を越すのはウィートかゴライアイスならまだ良い。でもアカネだけは駄目。嫌な予感に背筋が寒い。なおに一番近くに居るのがアカネである。

 焦りと苛立ちの中で、元兵士の屍を蹴り飛ばした。一体に掛ける時間が長い。忌々しい。

 翼が欲しい。あの人の元へと飛べるだけでいいのに。

 どんなに望んでも、背中に翼は生えなかった。

 消耗を無視して薬を飲んで走り抜ける手もあるが、最近それは使っていない。何度も試す内に、薬の効果が薄くなって行くのが解ったから。きっと身体が順応している性で。

 翼は無く、薬も使わないほうが良い。普通に走っていてはアカネに先を越されてしまう。何よりも大切なツヨシが、元の世界に連れ戻される。それだけは絶対に嫌。ではどうする。私は腰袋に入れた薬に手を掛けた。

 「焦るな、クレネ」懐かしい声が聞こえた。

 「ブライン、おじさん?」目の前に、見紛う事なきブラインが立っていた。

 「神も人使いが荒いものだな。クレネに色欲を宛がうと聞かされては、私が出るしかなかろう。それを見越した言だろうが」

 「色欲?何の話?助けに来てくれたの?」

 「こちらの話だから気にするな。それよりも、私は試練であって助けではない。さぁ来い」

 懐かしき、剣を構えた姿。前からなら二百年振りだろうか。おじさんの言う試練の意味は解らないが、これ以上の問答は無用だと言っているように見えた。

 私の剣の師匠は目の前に立つおじさんその人。それをこの場で越えなければならないとは。

 ブラインはいつぞやの剣を構えていた。遠い昔に友に貰った物だという話だったか。おじさんはその友から二振り貰い、内一本は白き魔王に折り砕かれたと言っていたのに。

 あとの一振りは、この私が持っている。勿論おじさんから受け取った物。

 「おじさん私に嘘を?」

 「いや、今回限定らしい。剣で私を越えろとの命だと思うぞ」

 懐かしそうに細身の長剣を振り回して、近寄って来ていたアンデットを細切れにしていた。長く手放していたのにも関わらず、腕は寸手も鈍った様子はない。

 私におじさんを越えられるのだろうか。ツヨシでも臨界で拳が当たっただけなのに。あの修行の最中も私もただ黙って見ていた訳ではなかった。

 気絶中の彼に更に追い打ちをしようとしたおじさんを全力で止めた事が何度もあった。そのどれもで適わず弾かれていた。彼が本当に気絶しているかを確かめる為だったとか。

 召喚術の中から、一振りの剣を取り出して構えた。私がこれを使うのも久しい。

 どうして今まで使わなかったか?解は簡単。その性能が良すぎたから。剣としてなら聖剣や魔剣を凌駕する程に。耐久性、切れ味、即座にこの身に追従する重量。聖なる力も禍々しい力も持たない純粋無垢な剣。ただの武具として、ただの斬る物として。

 それでもただ一つ。使えるようになる技が一つ。

 「おじさん。いえ、ブライン。再び会えて嬉しいです。ですが、私は今ツヨシを失いたくない。だから全力で行きます。彼の為なら例え死んでも構わない」

 「何か勘違いしているようだが。いいだろう、来いティアレスとしてクレネとして。成長をこの身に刻んでくれ」

 「深淵の果て、後光の影の中、ワールド・エンド」

 私は待てない。全てを凌駕する技。全てを終わらせる力。これを使えば、全てが終わる。

 自分以外の時を止めてしまう。単なる剣になぜこのような力が備わっているのかは解らない。私が剣を使おうとして来なかった理由がこれ。この技は強大過ぎた。

 神速など。ツヨシの持つスピードスターでさえ。眉唾だと笑い捨てる程。強大な、時を止めてしまう力に私は恐れ戦いた。だが今は何よりも捨てがたい時が、一秒でも欲しい。

 「これか?拒み続けていた技は」止められた時の中。ブラインが自らの身体の動きを確認しながら聞いて来た。それでも通常よりは遅い。

 私は驚きはしない。おじさんなら当然だと考える。だから躊躇わない。

 自分とブライン以外の動きは無い。異常な時の流れの中で。

 薄い雲が風に流されるように。抗う事を止めてしまった時の中で。

 二人だけの間で交わされる刃は。音を立てず、火花だけを散らし。

 合間の鍔迫り合いの間だけ、動き。円を描き、剣を返し、刺突を突き晴らす。迷い無きこの剣はブラインを削り、また彼の刃も私を削り出す。崩し切れない。

 「流石です」

 「使いこなせている時点で、お前もな」

 瞬きよりも短い時間の中。幾重にも連なった打ち合い。文字通りに果てが無い。

 「私にも。お前には見せてはいない技がある。同族以外で友と呼べたのは、彼以外には居ない。残念ながらな」

 「教えて頂けますか?その彼とは」

 「語らずとも。何れに解る事よ。後悔だけはするなよ」

 「しませんとも」

 「永劫の檻、結実の遠吠え、レギオンズ・ゲート」ブラインが唱えた技で、止めた時が動き出した。共に現れた大門より出でしは。音よりも光りよりも、時よりも早く動く、騎兵隊。

 周囲のアンデットたちなど比ではなく。統率されながらも洗練された自立した動き。

 断言しよう。その技が使えるブラインは、どの魔王よりも強い存在だと。

 だからこそ。今ここで彼を私が越えなければならい。証明しなければならない。

 「証明する、生きとし生ける者の果て。エンド・オブ・ザ・ワールド!」

 後悔などしない。後の事など考えない。どうなったって知らない。無責任だと、笑いたければ笑うがいい。

 再び流れるのを止めた時の中。私は、全てを叩き斬る。

 斬撃ならば、何度斬ったのかは解らない。一心に、ただ周りの全てを斬り捨てた。

 「美しい。だが、少し危ういな」

 崩れ落ちたブラインの身体を抱き止めた。

 「おじさん。私は」

 「悔いるな、クレネ。これでいい。それでこそだ」

 「私は・・・、私は」

 「いいんだ。ただ、一つ加えるならば。ツヨシを信じろ。二度とお前を泣かせないと誓った彼を、最後まで、信じろ。いいな」

 「はい。ブライン。今度こそ安らかに」

 呼び出された騎兵隊たちと共に。ブラインの身体が霧の中に消えて行く。

 私は呆然とおじさんを抱き締めながら、ツヨシに祈った。

 どうか、私を、捨てないでと。

久々更新です。


お待たせしていた方には申し訳ないです。

プライベートな諸事情が・・・。


第2のコース。

エルフのお姉さん。


待たせた割に短いです。

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