第55話
私たちは今、中央大陸のムルハマバードの西。大陸最東の未踏破ダンジョンに来ています。
修練、資金と便利な宝物集め、踏破。他にも大切な目的があります。
ヌメヌメ、ジメジメとした自然なダンジョン。しっかりしたブーツを用意しないと滑ります。
状況は芳しくありません。何がと言いますと、私が前衛に立っているからです。私の型は確かに斥候に近いので、文句はありません。決してありませんけどね。
「お姉様、具合が悪いのでしたら宿でお待ちになればいいのに」
「いいの。この先にぜ、絶対に何かあるから」盛大に震えている。もうガクガク震えています。ツヨシ様の背中をホールドしながら。羨ましい・・・ではなくて、今日の朝からずっとこの様な感じで、ダンジョンに入る前からツヨシ様の背中から離れようとしない始末です。
「なぁクレネ。どうしたんだよ。本当に大丈夫なのか?確かに嫌いな巨大虫は居るけど、それはちゃんとキッチリ倒してるから」
「うん。自分でもよく解らないの。朝起きたら、胸の奥から何やら囁くような声がずっとしてて。身体の震えが止まらないの。ここに入ってからはもっと酷い」
「お風邪ですかね。賢人種は元々病気に強いのでは?」お姉様の額に手を当ててみても、特に熱はない。普段から触れている熱量と然程変わらない。顔色も悪くなく、咳も出ていない。本当に困りました。昨晩もいつもと変わらず、アクロバティックに元気いっぱいだったのに。
この地方の気候は年中温暖で夜も冷え込むことはありません。毎晩の営みにより多少の汗をかいて眠ったとしても問題ない位に。昨晩は薄手の毛布をしっかり被って固まっていたので返って暑い程でした。風邪ではないとすると。
「やはり精神的な物でしょうか?・・・あ」
「ウィートまでどうしたんだよ」
私は失念しておりました。とある可能性についてです。
「お姉様。もしかしたら、御出来になったのでは?」
「お!」
「ほえ?」私がお姉様の下腹に手を当てると、小首を傾げていた。可愛い!ではなくて。
「念願の赤ちゃんですよ。神官職ではないので詳しく解りませんけど。可能性としては大いに」
「なるほど!全然あるな。いよいよパパかぁ。ファイアーボール」お話しながらも、ツヨシ様が前方の巨大昆虫を焼いていた。
「・・・」お姉様は自分で下腹部に手を置いて深く目を閉じた。「・・・違うと思う」
「違うのですか?残念です。火遁・冥冥」遠方に何かの触手が見えたので、通路を丸ごと燃やした。非常に大事な話をしているのに。邪魔をしないで!
「えー、違うの?」
「妊娠したことはないので断言は出来ないけど。魂の流れは変化してないし、今回は腹の底からと言うよりも、この胸の奥辺りがチクチクするんだ」
「それが不安を感じる原因でしょうか」
「不安とも違うかな。痛みでもないし。とても不思議な感覚。それとこのダンジョンの奥からも同じ感じを受けるんだ」
「兎に角先へ進みましょう」またお姉様はツヨシ様の後ろに回った。普段なら前に後に魔物を倒し捲るお姉様が今日は大人しい。私が前ですよね。はい、存じておりますとも。
「おりますともーーー」襲い来る魔物を手当たり次第に斬り刻んだ。宝剣は切れ味自体はあの時のまま。でも魔王を倒してからは輝きを失っています。私は何時から剣士になったのでしょう。
ツヨシ様も派手には動けない。多様な魔術で援護はしてくれるものの、何時もの理不尽な蹂躙劇は見られない。私だって。
「守って貰いたいのにーーー」昔から侍女をやっている性か、人に尽くす事に幸せを感じてしまう。敬愛する2人の前に立つのに不満は無い。無いのですが。
「うぉりゃぁぁぁ」八つ当たりではありませんよ。ええ、決して八つ当たりなどでは。
グール、グレイトウルフ、テレストオーガ、リッチ、ミノタウロス、ビッグキャンサー、ジャイアントスパイダー、イビルアイ、メタルゴーレム、メタルスコーピオン、フレイムボム、アイスバット。etc
何ですか!この統一性の欠片も無い魔物たちは!!この様なダンジョンは見た事も聞いた事もありません!
飛翔する魔物は全てツヨシ様の担当。地を這い来る魔物だけを斬って斬って斬り続けた。
「ウィート、大丈夫か?そろそろ交代しようか?てか怒ってる?」
「はぁ、はぁ・・・お、怒っては、おりません。まだ、大丈夫です」
襲い来る群衆が一段落した所で、一息の休憩。怪我は一切負ってはいませんが、水筒を回し飲んでから特性ポーションを一瓶飲み干した。体力回復と共に気分も落ち着くので丁度良し。
「にしても、ここ深いよなぁ」ツヨシ様がマップを確認している。腕を絡めて覗き込むと、現在位置は中層辺りを示していた。私とツヨシ様の目には最下層にも何も見えない。
「本当に2人には見えてないの?一番下の水色」お姉様だけに見える新色が、最下層に佇んでいるそうで。お姉様の強い希望により、このダンジョンへと乗り込みましたが未だに何も見えません。その意を伝えるととても残念そうなお顔をしていたので、頭を撫でるとニッコニコになった。可愛い!ではなくて、やはり何時もの調子ではない。お姉様が急に妹になったようで。あ、悪くないかも。今なら久し振りに、口吻を・・・お顔が反対側に向いてしまった。
「あの時は強引に奪ったくせに。嫌なのですか」
「嫌ではないけど。あの時はあの時、今は今。ツヨシの前ではしたくない」ツヨシ様の頭を盾に逃げられた。つまり次の機会は永遠に無いと・・・。
「なぁ、時々あの時とか言ってるけど、何があったんだよ」
「ひ、み、つ、です」私は諦める代わりに、ツヨシ様の唇を奪った。贅沢な話ですけど。
短い休息を終えて、最下層を目指した。
相変わらずバリエーション豊かな魔物たち。段々と敵のレベルも上がって行く。遭遇頻度は途切れがないので常時。普通の人間に倒し切れるのでしょうか。だから未踏なのでしょうけど。あれれ?私は普通の人間では・・・。
2人に合流してからというもの、自分のレベルが爆発的に急上昇している。並の冒険者や宮廷騎士すら辿り着けない領域に達している。まさか自分が200を越える日が来るなんて。
能力値上昇と共に、時々息が切れる事はあっても、疲労が溜まる程度にはない。
「おれたちは、強すぎる」あの日のツヨシ様の言葉。強き者の前には同様に強い者が割り当てられる。敵は総じて強さを増して行く。ツヨシ様が危惧しているブラインさんにはお会いした事がないので解らないけれど、それで勇者様一行と合わせても勝てないなんて。本当に有り得るのだろうか。未だに信じられません。
最下層に近付く度に階層面積が広く、天井が高くなり。敵も巨大化していった。
ツヨシ様が不意に舌打ちをした。
「どうされました?」
「いや流石は中央大陸のダンジョンだなと思ってな。嫌な流れだなってさ」
最下層手前。ここまで苦戦はしていない。多少手こずった程度のもの。何を指しているか解らなかったが。
グレイテスト・キメラ。混合合体生物、魔物でありながら既に原型を留めていない。様々な頭部が入り乱れ、赤茶色に蠢く物体の先に、最下層への通路が見えた。倒さなければ進めない。
「ツヨシ様。引き続き後方支援を。本体の炙り出しは私が」
「左を頼んだ。右側を削る」しがみついて離れないお姉様を置いては前に出られないので、魔術一辺倒になるのは仕方がない。担当のこちら側をどれ程削れるのかが肝心。
「はい!表裏一体、我が剣に宿るは皆の意思、ジャスティス・デーモナイズ」この宝剣には正義も悪も無い。だからもう聖剣としては輝かない。されども積み重ねられた人々の想いが、神に届かぬ道理も無し!
旋風連撃。宙には飛ばずに斬撃だけを飛ばし続けた。案の定無数の触手が迫り来る。あれに捕まれたら終わり。力量差は明らかにあちらが上。速い。けれど捉えられない程ではない。
斬撃の幾本かは弾かれた。構わず飛び退き、懐からツヨシ様特性爆薬を取り、適当な口に投げ入れた。
「お食べなさい!火遁・華烈」爆薬が入った口を重点的に火柱を押し込んだ。
「アクア・ウォール!ちゃんと距離計って」爆風が届く前に、ツヨシ様の水壁が立ち塞がった。
「当てにしてましたから。2撃目行きまーす」懐の在庫は潤沢。ツヨシ様のBOXにだってあるのだし。2撃目を終えても本体らしき物は見えない。
「ウォーター・カッター」ツヨシ様の声と共に水の細いラインが描かれて、魔物の右側を削り取った。水という物は万能だ。年月を掛ければ岩をも形を変える。凝縮すればどんなに硬い鉱物でも打ち砕く。私も負けては居られない。
「3撃目、入りまーす」3撃目が終わり、素早い触手攻撃が止んだ。どうやら表層は突破したようだ。縮小はしたものの、感じる脅威に変化は無い。中央付近に何か居る。魔王と並び立つ程の何かが。
「店長!在庫ありませーん」
「て、店長!?お、おう、特大でも食わせとけ。ノークレームで」
特大の一玉爆薬を受け取ると、敵の中央目掛けて蹴り込んだ。ちょっと足が痛い。どんな物体で包んだのか気になる所。特大の火遁も追従させてから、お姉様の後に滑り込む。
「アクアグレア・パーフェクトウォール」全てを弾き返す水性の傘が現れ、3人を包んだ。
強烈な光と爆風が辺りを包む。離れた壁や天井まで盛大に軋んで一部崩れていた。
やがて光が晴れる。と、そこには。
「流石だねぇ。やる事がえげつない。まぁおれが言えた義理じゃないが」
誰も会った事のない中年男性が、黒い長剣を携えて中央に立っていた。
「誰?」私たちは、3人とも首を傾げた。
「えー、もしかして記憶消したのかよ。まぁいいや。おれはアダント・カルレ。死霊化したから元冒険者だな。詳しい説明はするなって言われてるから・・・、そうだな。おれが女神様から受け取ったのは、スピードスターのみだ。こう言えば大体解るか?剛、ウィートにクレネか・・・、本当に懐かしい」
「お前、何・・・言って」ツヨシ様が驚いて震えている。名前を呼ばれて私たちも驚きましたけど。
「聞きたい顔だよな。答える事は出来ないが、おれの質問には答えてくれ」
「・・・なんだよ」
「ウィート、クレネ、そして、勇者さんは、幸せかい?」
「勿論です。皆さんお元気で、私たちは夫婦です。私は第2ですけどね!それが第4まで居るんですよ。信じられないですよね?でも勇者様は仲間の魔術師の方と結ばれました」
最初に名前を呼ばれた私が全部答えた。なぜか答えなくてはと使命感に駆られて。
「そ、そうか・・・良かったな。お前は、間違えなかったんだな」
「間違い?」
「時間はあまり無いようだ。後ろの2人はこの先に行け。危険は絶対に無い。クレネの連れが待っている。お前は残っておれを倒せ。お前が持つ魔剣だけでな。おれに勝てないようなら、お前らがどんなに強かろうと、ここの魔王に全滅するぞ」
「ツヨシ。何故だかあの男に命令されても腹が立たない。行かなくてはいけない気がする」
「言われた通りにしよう。先に行ってくれ。ウィート、クレネを頼んだぞ」
「はい!」ツヨシ様がBOXから封印された魔剣を取り出していた。
「なぁ。おれが勝ったら、おれの質問に答えてくれるんだろうな」
「勝手にそうなるよ。おれが渡せるのは、スキルとおれまでの記憶だけだがな」
お姉様を背負いながら、階を降りる前に一度だけ振り返った。どうかご無事でと願い。剣を構えて向い合う2人から目を離して、私たちはゆっくりと降りた。
何故だろう。この奧から何故か懐かしい感覚がする。
ウィートに背負われ、彼女の優しい匂いに包まれながら。昔、幼少の頃の母の背中を思い出していた。私は子供の頃、今よりも性格がねじ曲がっていたらしい。じゃじゃ馬を通り越して、暴れ馬だったらしい。
親しい者の傍を離れると、途端に暴れ出す手の付けられない子供だった。多少成長しても心の成長は見られず、発作のように起きる暴走は、度々近隣の民たちに暴力となって降り注いだ。
時折聞こえて来る言葉。「お姉さんは、あんなに優しかったのに」
私はずっと疑問だった。この言い様のない喪失感はなんだろうかと。
成長期に入っても何も変わらなかった。自立心を促す為に、何年かの間ブラインおじさんの家に預けられた。両親から離れるのはとても嫌だったが、不思議とおじさんの隣では症状は落ち着いた。それでも時々暴れては、おじさんに矯正して貰っていた。
里の外にも外出し、旅先で人間の町まで出掛けた事もある。理由は解らない。解らないが人間種を見る度に怒り、怯え、喪失感が増した。魔物を見掛ければ、人間に対する以上の怒りが湧いた。そんな醜い魔物たちを軽々と屠るおじさんに憧れたのは言うまでもない。
「どうして人間は殺してはいけないの?」そんな質問をぶつけてみた事がある。
「人間にも悪い人は居る。でも良い人も沢山いるんだよ。でもそれは自分の目で見定めないといけない。いつかクレネも独り立ちをする時が来るから」おじさんの目が、とても悲しそうだったのを覚えている。
「私、おじさんと一緒に居る。ずっとずっと。おじさんのお嫁さんになるの」
「嬉しい言葉だけど。それは私の役目じゃないんだ。きっとクレネには大切に思える人が現れるから。それまで楽しみに取って置きなさい」
それから数年後、私の暴走が自分で押さえ込めるようになったのを見届けて、おじさんは捜し物があると言って旅立ってしまった。
成人し心にも多少の余裕が出来て、感情を自制出来る自信が付き、私も里を旅立った。
あんなに卑下していた人間の中からツヨシを見つけ、真っ先におじさんに報告しに行ったのはそういった理由だからだった。「私も見つけたよ。大切な人を」同じ人間種を選んだ者同士。
ウィートの背中は里の母様のようだった。
「母様・・・」
「お姉様。妹を通り越して子供になっちゃいました?」少しイラッとしたので、後から耳たぶを舐めてやった。不意を突かれ、膝を折りそうになっていたが踏ん張っていた。
「い、今は危ないのでお止めください」
「なら、黙って歩きなさい」
「はい・・・」
このダンジョンに入ってから全身に力が入らなかった。賢人種だけが受ける制限でもあるのだろうか。2人の戦いに参加したくても、武具も召喚出来ず、普通に歩く事もままならない。本当に病気にでも掛かった感じさえする。でも体調自体は悪くない。嫌な感じもしない。ただ力が抜けただけ。
ここまで来る途中で妊娠を疑われたが、魂の新たな流れを腹から全く感じなかったので違うと思った。母様曰く、赤ちゃんが実ると魂の流れが変わるらしい。母親だけにしか解らないそうだ。
最下層に到着した。ここまでの広い空間ではなく、とても小陣まりしていて天井も高くない。
敵の姿は見えない。中央の台座の上に大きな姿見が置かれているだけ。
ウィートが私を連れて鏡の前に立った。
「ようやく来てくれましたね。待っていましたよ」
「え!?」鏡の中の自分が勝手に喋っていた。
「貴方はウィーネストさんですね?貴方にも渡したい物があります。どうか、鏡の私に触れてみてください」
「え?あ、はい。こうですか?」ウィートが触れた側の頬が、私も同様に凹んだ。
「か、顔を選ぶとは。なかなか面白い人ですね。どうですか?何か変わりました?」
「特に、何も・・・あれ?何ですか、このスキル」
「真面目な貴方にピッタリだと思いません?それはこの大陸の魔王に対抗出来る、唯一の能力です」
「魔王に対抗する力?」
「ええ。この大陸の魔王の特殊能力は怠惰。出会ってしまってからでは全てが遅い。周りの者が持つ全ての力を低下させます。私たちは戦いました。上に居たアダントと同郷のブラインと共に。けれど魔王の急襲に敗北し、結果私とアダントは消滅。生き残ったのはブラインだけ。ここまで言えば解りますね?」
「貴方がティアレス姉さん。そして、もう1人の過去の私」
「お姉様の、お姉様で、自分?」理解出来ないウィートが頭を抱えていた。他の種族には解らないだろう。
「私は魔王に深手を負わされた部分。貴方の本来の魂の形から離れた部分。あのまま転生すれば、魂の消滅の危険もあったのでやむなくここへ逃げ込みました。これらの手段とその能力を探して来てくれたのはブラインです。上のアダントだけは私の話し相手として、女神様に送り返されてきたらしいですが。そこまで出来るなら助けてくれてもいいのにと思うのは、私たちの勝手な我が儘でしょうかね」そう言って鏡の私は微笑んでいた。
「私が姉さんを、吸収すればいいんですね?」
「そうです。ですが、私が持つここまでの記憶も流れ込むことでしょう。貴方は大丈夫だとは思いますが、大切な彼のほうは解りません」
「アダントは、彼自身なのね」
「はい。彼は2人分の記憶を背負う事になります。さぁ、私の手を取り彼を救って。そちら側の私とウィートさんなら出来るはずです」
迷わず鏡越しに手を重ねた。鏡の向こうの表情が私の物だけになった。それから彼女の予告通りに、魂の結合と記憶が流れ込んで来た。
過去の私、別世界の私、魔王との戦いの記憶。愛する者たちとの別れ、アダントから聞いた別の未来の悪行の数々。それでも私の気持ちに変化は無い。変わらぬ彼に対する愛。前にも増して膨らみ燃える愛おしさ。高齢であるにも関わらず、私を産み直してくれた両親への感謝。
全てを理解出来る。私には魂が欠けていたのだと。
完全に結合する直前に、最後の姉の声が聞こえた。「そして、勇者さんを助けてあげて。不遇の勇者をどうか」そちらはツヨシを救い、腐った魔王を殺した後になるだろう。
ウィートの手を取り走り出そうとしたが、足に力が入らないままだった。私の弱体化は片割れが受けた傷に依る物。今なら解除方法がある。
「ウィート。あれ、お願い」
「え?はい」ウィートの唇が重ねられる。舌まで絡ませて。キスじゃなくてもいいのに・・・。身体に力が戻るのを感じる。走り出す前に、彼女に伝えなければならない。あの秘密を。
離れる唇に銀色の糸が引いた。
「ウィート、聞いて。賢人の唾液には寿命を引き延ばす効果があるの。能力の受け渡しだけじゃなく。一度や二度では殆ど変わりない。でも重ねる程に伸びて行く。少しずつ、人間から離れて行くの。それでも貴方はいいの?彼の子が出来なくなるかも知れないのよ」
少し驚いた顔の後、再び重ねられた。
「これが私の答えです。可能性は零ではないのですから」
「そうだけど。きっと後悔するわよ」
「したらしたで、お2人で受け止めてくださいね」
「我が儘ね。まぁ、好きだから受けるけど」
「お姉様の雰囲気が、何だか丸くなりましたね」
「落とした物を拾い直したから?かしら。嫌い?何なら戻すけど」
「いえいえ。前にも増して大好きです」
彼女の答えを受け、再び手を取った。
「遊んでいる暇はないわ。神速同士での決着は早いわよ。急がないと」
走り出す2人の後で、役目を終えた鏡は静かに砕け散った。消え行く塵が、2人を見送るように煌めいて。
誤字脱字が目立ちますが、
スピード命なのでお許しを。
文章力なくてごめんなさい。