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第51話

 色欲。大罪の一つ。この世界にも適用されるのか心配していたが、それは杞憂に終わった。

 イケメンで生まれ変わらせてくれなかった女神様を恨んだりもしたが、特に不自由する事なく女には不自由しなかった。重要なので2度言ってしまったが、不自由はないのだ。

 狙った女は口説かなくとも直ぐに落とせる。目を合せるだけでいいのだから非常に簡単。

 転移してからの約10年。心の底からの満足は得られないでいる。

 一晩寝ればどんな女でも、俺の虜となってまとわりついて来て厄介な物となる。

 一度寝た女の能力値を受け取って簡単に強くなった。簡単過ぎた。

 俺のレベルは上がらない。99で止まったまま。しかしステだけはALL999。異常なスキルの縛りなのは解っている。俺に魔術は使えない。これまで剣と体術のみで伸し上がって来た。

 転移直後に冒険者となり、適当に強うそうな女たちと寝まくり、幾つかの適当なダンジョンを踏破して。繰り返す度にランクは上がり、約1ヶ月で最高ランクのプラチナ++まで駆け上がり、見事宮廷騎士となった。どれも簡単過ぎた。どれも、どんな冒険も、どんな美女も。

 「詰まらない」この頃の口癖となっている言葉。それで俺の全てを語れてしまう。

 一時期だけ貴族の娘を抱いてみたが、その後の面倒事は非常に煩わしかった。

 一時期だけ他の転移者を探してみたものの、遂に出会えなかった。

 一時期だけ美の象徴とされるエルフ女を探してみたものの、やはり見つからず。

 俺は何事も成してはいないし、成すべき目標すら忘れてしまった。いっそ死に戻ってやり直そうかとも考えたが、転移前の誓約時に次は無いと書かれていたのが忘れられない。記憶に深く焼き付けられたのだろう。

 これで最後だと言われても、馬鹿な俺はこの異常スキルに飛び付いた。今更後悔したって全部が遅い。折角なので人生を楽しもうと思い直してみても、肝心な楽しみ自体が見つからないのだから、人生終了と言っても過言ではない。

 こっそりと噂の魔神を探して潜ってみても、こちらも見つからなかった。どうやら7つの魔王を倒さなければ現れないと言うのは本当らしい。

 もう身投げくらいしか手は無いのか。痛いのや苦しいのは嫌だな。

 チープで曖昧な理由だけで生きている。

 一度だけ魔城に潜入し、魔王との対戦を望んだが、あのスキルはヤバい。鑑定は持っていないので見えはしなかったが、あれは恐らく・・・。

 レベル自体が低い俺は、体感と直感だけで判断した。自分より高レベル者からのスキルは受け易いのだと。死は望むけど、折角育てたこの身体とスキルを良いように使われるのだけはご免被る。聳え立つ魔城からむざむざ逃げ帰り、面白くない人生に戻った。

 スキルの反動で子供が作れないのは、これまでの実績で解る。既に上げるステも無くなり、いよいよやる事が無くなってしまった。もう女を抱く意味もない。だから今はもう何もしていない。

 中央大陸、南方のキーサル王国。首都ピールデン。聖教国の聖都に比べればどれも目劣りはするが、人口密度の濃い立派な都市だった。

 その王国の宮廷の環境は悪くない。中央大陸に在るだけあって兵士単体も一様に強い。そこそこの食事も勝手に出て来る。日々の訓練は形だけの物。

 近年は魔王も大人しくしており、戦争も起きてはいない。最近は専ら宰相辺りとのチェスに似たボードゲームで、持て余す時間を食い潰している。

 「アスモーデ様」誰も居ないはずの自室で、懐かしい者が待っていた。幻のような男だ。気配探知もないので、直近でないと認識出来ないのが難点だ。

 「ザッハム、だったか?」男の名前程無意味な物はないが、そいつの印象だけは強く残っていた。目は合せない。俺に男色の趣味はないから。何時ものように、薄いスリット入りの眼帯を着け直してから対面した。

 周囲には目がとても悪いで通しているので、着用に無理はない。うっかり子供の男の子を落とし掛けた時は、正直焦った。それから人前に出る時は必ず着けている。

 「はい。配慮感謝します。貴方様に折り入って依頼がありまして、参じました」

 「コソコソと改まって何だよ、おれに依頼だと?」

 「はい。魔剣を扱える男が南に居ます」

 「・・・」転移者!俺の直感がそう告げた。近年鳴る事が無かった胸が一つ高鳴った。

 あれ程探した者の情報が、忍者のような男に依ってもたらされた。探し方が悪かったのかも知れないが。それは置こう。

 「その者を、殺して頂きたい」

 「敵対すべき者なのか?」

 「我が主に仇成す者です。貴方には、これまでの借りを返して頂きたいのと、そやつの傍らにはエルフの女が居ります。ご興味がおありでしょう?」

 「!!!」自分の耳を疑った。借りとは過去に面倒になった女たちを、後処理して貰った経緯が何度もある。それよりも、念願のエルフ女だと!それはぜひにも落としてみたい。

 「その魔剣の男は、強いのか?」

 「それはもう、存分に。大神官リラ様が返り討ちに遭う程に」

 転移者が強いのは頷ける。しかし大神官が打ち負ける高魔術と魔剣。相性は最悪だ。

 転移者同士仲良くなる手もあるが、今の立場上、恩義ある者に対して不義理は許されない。何よりもエルフが恋仲だった場合、引き剥がしによる弊害は否めない。心が壊れてしまっては面白くないからだ。上手くやらないと。

 「お悪い顔を浮かべておりますな」ザッハムが薄く笑っていた。

 俺が、笑っている。その事実に驚愕した。待ち望んでいた物が2つも同時に現れ、零れる笑いが抑えられないでいた。久しく忘れていた昂ぶる気持ち。

 「対策はあるのだろうな?」

 「こちらに」背にしていた長箱をテーブルに置いて、開いて見せた。

 「これは・・・」美しく鍛え上げられた、白銀の剣。

 「聖都の鍛冶師が命を注いだ一品です。性能は聖剣に次ぐ物となっております」

 笑いが止まらなかった。俺に勇者の真似事をしろと言う。何たる皮肉だろうか。

 それを受け取り、身支度をし、短い書き置きを残した。それが自分の遺書に成ろうとは。その時の俺は何も考えられなくなっていた。

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