表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/130

第50話

 ユード・ビクトル。それが俺に与えられた名だ。本来孤児に家名などは存在しない。

 俺の師たる人物がくれた物。否応なしに拝命に預かった。

 現在は勇者と仲間と共に中央大陸に戻って来ていた。アーレスの回復でも追い着かない、全員が満身創痍の状態で、このまま次の魔王に挑むのは自殺以外の何ものでもない。それぞれに家族の元へ。教皇を締め上げるのは、5体目を倒した後にしようと話しは着いた。

 俺には帰るべき場所はない。昔に巣立った孤児院も既に姿は無く。家族の元へと向かう仲間たちを見送りながら、心の底では羨んでいた。

 無いなら新たに作れば良いと誰かが言った。本当にそうだと今なら思える。恋人となった勇者様と魔術師は、正にお似合いで。俺も家族が欲しいと思うようになった。吐き出しようのない憂鬱を抱えながら、今夜は飲み歩き、冴えない娼婦を買うのだろう。

 性病で俺だけが死んだらいい笑い者であるし、勇者様の仲間としても汚点を残す。やっぱり娼婦は止めておこう。

 ここは聖都の街中。厳粛な主元区域と違い、外郭には歴とした公認の娼館も営まれている。何処の世界にも捌け口という物は必要悪らしい。飲み屋もあれば隠れ闇市もある。何もかも足りているようで何かが足りない。聖都とはそういった場所だった。

 誰も説明していないとの天の声が聞こえた気がしたので、ざっと世界地図を広げてみよう。


カゼカミグエ 俺が生まれた大陸。デラウェア火山が中央を占める西の大陸。計6つの王国から成っていたが、魔王ブシファーにより現在は3国を残すのみとなる。魔王亡き今は、3国間での協議の末に安定を計っている。火山帯は特別自治が認められている為、実際としては膠着せざるを得ない形。

 俺たちが風穴を開けた洞窟が今どうなっているのか。少しだけ気にはなる所だが、あそこへ戻ろうとは思わない。想定以上の経験と金を与えてくれたのは間違いないが。仲間たちは全員、下流貴族並の資産を持っている。そこだけは勇者様に感謝。


マスフランゼル 北に位置する大陸。ブライン夫妻の終の大地。魔王カリシウムは異質な魔王として有名。ブラインによって抑えられていたのは、大陸に住まう者の中では周知の事実。我らが勇者様グリエールにより討伐される。国としては全て海岸線に依存。小さな国々が集まり、大陸で一つの共和国連合を名乗る。人が住むには余りにも過酷であり、国家間での争いも皆無。魔王討伐後も変わらず平穏。下手に争っている場合じゃないよな。皆今日を生きるのに必死。その気持ちは解る。


ムールトランド 南の大陸。長らく大陸毎魔王に支配されていた大陸。半月の島と呼ばれ、表面上は共存共栄を保ってはいた。南の人間種側の自滅により、大陸内の国家は消滅。魔王も滅んでしまったが為に、激しい内乱状態に陥っている。和平の道は遙か先だろう。

 魔王の討伐自体、俺たちではないのだから手出ししようもない。国が滅んだ政に手を出す程の暇は俺たちには無い。


レミアンドリベラ 東に位置する大陸。中央の大森林に賢人の隠れ里。南東部の絶壁上部には竜族が住まう聖域が確認されている。その2つを避ける形で南方と北方に小国が形成されている。対外的には両国家共に貴族院を持たない独裁系国家の位置づけ。自給自足を主とした運営が成され、国としての体裁を保つに至った。国位としては底辺の扱い。自然を好む人が挙って集まる辺境地帯。賢人エルフをレミと総称し、竜族をリベラと総じた。総称2つがそのまま大陸の名として人類はそう呼んだ。

 一般人にはどちらも出逢う事さえ難しい。そのどちらにも出逢ってしまった俺たちは人類史上初、ではないな。俺にだけ厳しいスケカン殿が居たわ。隣の美人さんに会いたいなぁと思っていたら、先日向こうから勇者に会いに来た。もう一人のスレンダー美女を追加して。

 クソッ。俺には彼女すら居ないのに。畜生、今夜は余計に酒が進みやがるぜ。

 グリエールと何事かを話し込んでいたので後から聞いてみると。

 「私の故郷のお米処を聞かれたの」何の事かと思ったら。飯の話だったらしい。

 「他にも好きな物を聞かれたので、お母さんの玄米おにぎりが好きだと答えたら、なぜかがっかりしてました」何でがっかりしていたのかがさっぱり解らねぇ。勇者様と同意見。


アイアンキャッスル 鋼鉄の魔城を冠する中央大陸の名。人類史の起源より存在が確認されている魔城。周辺に未踏破のダンジョンが4つ以上確認されていて、魔神はそのどれかに居るとされている。魔王の存在と共に、人々に確認の術は無い。長き聖都の歴史の中でも、何百と言う高名な冒険者が挑んだが、帰って来た者は居ない。過去に一度だけ、ダンジョンの一つが大氾濫を起こして魔王らしき姿が確認されたのみで、それ以上の情報は皆無。

 その氾濫を収めた者が原祖の勇者となり、その勇者が興した国が聖教国となる。首都イスカマルダールだけが聖都と呼ばれる由縁。大陸西方を占める。宗教国家として神教を名乗ってはいるが、神の姿を知るのは歴代の教皇と直結の高位神官のみとされる。

 聖教国以外にも5つ、大小様々な国が興され、信ずる神の形もそれぞれに持つ。聖都は唯一神を掲げていない為、他国には無関心と不干渉を貫いている。どうやら原祖の勇者の教えを忠実に守っているらしい。聖都は干渉もしないが、同時に救済もしない。文句が在るなら我らの神を信じよ。それが教えと謳われている。

 何れ近い内に、この魔城とダンジョンに挑まなければならないとは。今更ながら勇者のパーティに志願してしまったのを後悔しているよ。盛大にな。だからと言って辞める積もりもないが。俺が夢見た物語は、まだ道半ばなのだから。


 夜深くになっても開いている店を探してはハシゴして回った。馴染みの店にも幾つか。酒が強くなければ情報屋は務まらない。塵のような溢れ話を拾い集め、隠れた真実を紡いで行く作業。しかし飲めば飲むほど出る物は出るので、用を足そうと路地裏に入った。

 「小便中の人の背後に立つなんて、余り良い趣味じゃありませんねぇ。ザッハム師」

 「久しいなユード。何時から気付いた?」襲い掛かって来る気配は感じない。

 「お久しですがね。宿を出た瞬間からあんな殺気向けられたんじゃ、気付かないほうがどうかしてますよ」面識が有るから気付けた部分もあるのだが。

 「そうか。抑えていた積もりだったが、残念だ」

 「そりゃこっちの台詞ですぜ。師にしてはらしくない。どうしちまったんですか?」

 「あのスケカンを殺せとの命を受けてな。少々冷静では居られなかったのだ」思わず噴いて笑ってしまった。

 「そりゃ正気じゃねぇわ。師も、命を下したお人も」

 「何でもいい。情報を寄越せ。奴が生きている限り、勇者には手出しはしない」

 「見知った仲なんで、情報交換は構いませんがね。後ろの言は捨て置けないですぜ。ちょっとばっかしおれらを舐め過ぎでしょ。それをおれらが許すとでも?」昔は掠りもしなかった師の手首を簡単に掴み取った。小水が付いたほうの手で。

 「クッ。腕を上げたな。許せ。我らの一族は命には逆らえん」許せ?信じられない言葉だった。あの冷酷無比の極致な人の言葉とは到底思えない。

 「しゃーないっすねぇ。昔の誼っすよ。あの人はお米が大好きみたいです。それと、どっかのダンジョン一つ、お試しで抜きに行くって言ってたよ」

 「なん・・・だと」

 「頑張って探してみてよ。無駄だろうけど。それと、勇者様に手出してみろ。おれが真っ先にあんたらを殺すぞ。大昔の義理や恩なんぞ関係ねぇ」

 「お前のカルマを犠牲にしてもか?」

 「誰かを守って飛ぶようなもんなら、端から願い下げだね。そもそもそれを決めるのも、あんたらの大好きな神様、だろ?」力の抜けた腕を放してやった。

 「色欲が負けたのだ。我らに最早打つ手は無い。それでも殺せと主は言う。これはもう自殺でしかない」

 「はぁ?あんな美女を2人も侍らす御仁に?色物をぶつけたんですかい」愚の骨頂とはこの事を指すのだろう。なぜそんな稚拙な策しか仕掛けないのか、甚だ疑問だった。

 「武も通じず、毒も通じず、策を弄しても直ぐさま覆される。避けられる。潰される。色以外他に何が出来ると言うのだ」師は半分涙目だった。手札はそれしか残されていなかったのだ。

 「まぁまぁ、何となく解りましたから。今日だけは飲みましょうや。ついうっかり話しちゃう事もあるかもしれやせんぜ」とは言え、絶対に言えない事もある。例えば東の魔王についてとか。

 あの後に起こった怒濤の展開については、墓場まで持って行こう。寧ろ忘れてしまおうと皆で誓い合った。あれだけは酩酊しても言えない秘密。

 結論だけ述べるなら、スケカン殿に相談するまでも無かった。

 「いや止めておこう。おれのほうが色々と漏らしてしまいそうだ」

 「こっちとしちゃ、それが狙いでしがね」

 ザッハムは少しだけ笑って見せると、深い闇夜に溶けて消えた。

説明回にて。


切りがいいのと、誰に説明させるかを悩んでおりましたが

丁度良い人物が見つかりました。


全ストック吐き出したので

以降は週1話更新程度になるかと。


大した文章量でもないのに甘えるな!

との声も有るかも知れませんが、

どうかご容赦を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ