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第5話

 デラウェア火山。5大大陸の内、西端のカゼカミグエ大陸の中央に座する活火山。正確な記録は残ってはいないが、人類の最古を辿っても常時活動状態であったことから、人類の起源と同じ頃ではないかと推測されている。

 故に大陸の人間の営みと密接に在る。中央から離れた麓の町は、年中火山灰が漂い、地には山積し、雨も無く、日照も僅か。町に住み、拠点とする冒険家は多い。彼らの多くは火山灰や噴石に含まれる貴金属や、稀少石の原石体を求めて常留しているのが大半。単純に一攫千金を狙う者と、火炎に耐性を持つ魔物の固有種を狩ろうと奮戦を繰り返す者に分かれる。

 魔物に倒れる者、落石や滑落などの事故に遭う者、滞在中に大きな噴石が運悪く飛んで来て建物丸ごと潰れて死ぬ者、灰の吸引で気管支肺病で亡くなる者。理由は様々なれど命懸けでも挑戦し続けるのは、全ては金の為。要するに儲かるから、そこに人が集まる。

 常に死と隣り合わせ、平地より遙かに強力な魔物に対応をし続けている為、町に集まる住人は総じて戦闘力が高い。連帯や連携を度々行う為、意外に仲間意識が強く、他人の成果を妬む者は少ない。希に盗賊紛いの者も現れるが、翌日には洩れなく胴体を巨石に潰された死体と成り果てる。気性は割に穏やかだが、決して優しくはない。

 デラウェイ本山最近の町、プールドランス。一見乱雑に建つ建物の全てが噴石に耐えうる石と格子鉄鋼の組み合わせで建てられている。当然建物内でも完全に安全ではないので、町を行き交う人は極僅か。平時よりも灰が降り付ける今日に限って、町の門番を任されていたノルドメスは、門前で盛大に溜息を吐いた。とは言えゴーグルと厚手の濾過用マスクに阻害されて外にまで出ない。

 「こんな留(灰)が多い日に新規さんなんて来るわけないのに・・・」代わり映えのしない門の外を眺めて呟いた。昼間のように、ではなく夜中でも夕暮れ時のように煌々と照らされているので照明などは必要はない。火などの番でも役目があればいいのだが、門番として変わらぬ景色を眺めるだけでは、暇を持て余すという話。通常であればもう一人門番が居るのだが、喉の調子を崩したらしく現在は自宅で休養中。なので明日の朝の交代要員が来るまで駐在所と門まで行ったり来たり。いつもの話し相手も居ない。

食事やら用を足す以外は、出来るだけ駐在所内には留まらないようにしている。衣服に付いた灰を屋内に堆積させない為に。

 宙に漂う灰を気怠そうに眺め、飽きた頃に門外に視線を移した。

 「な・・・」ノルドメスは絶句し、ゴーグルが汚れているのかとごりごりと擦って門外を見直した。居る。紫の肌をした魔族が防具も無しに、腕を組んで門前に仁王(そんな文化は皆無だが)立ち。意不動堂と頑丈な門を見つめて。

 「おぉ、そこの者。門を開けよ。さもなくば」魔族がいきなり抜刀した。

 「開ける。すぐに開けるから」マスクを外して大声で応えた。答えの通りにすぐに門を解錠した。

 「ま、魔族の人方がこんな夜分に何用か?」様子を伺いながら、言葉を選んで質問してみた。

 「強引に通り過ぎても良いのだが、少々ここらは息が詰まってな。人が見えたので一応聞いてみた訳だ」息が詰まるだけで済むんかい。そりゃそうだろうよ。

 「な、なるほど」ここは辺境中の辺境である。普段なら耐性の無い魔物や人型の魔族すら寄り付かない辺境。

 「町を通過しても構わないか?素通りさせてくれるなら危害は加える積もりはない」

 「人間の言葉がお上手で。人間に対しては許可証の提示がないと通せませんが。あなたは魔族のように見えるんで・・・」

 「何処からどうみても魔族だろうな。我は魔王ブシファー。お前は運がいい。今日を生かされる幸運を泣いて喜べよ」

 「ぶ・・・」あの悪名高き!ばっちり目が合っているがゴーグルのお陰か、自分の身体に異常は感じない。人間を家畜同然と言い放つ、このカゼカミグエ大陸唯一の魔王。そんな化け物と対峙して、生きて居られるとは確かに幸運。

 例え偽物だとしても、この町の屈強な冒険家が束に成っても勝てはしないだろう。魔王に連なる魔族は、三下でも一騎当千。文字通りに王国の正規兵団千人で当たっても勝てるかどうか疑わしい。

 「では遠慮無く通るぞ」

 「ど、どうぞ。でもこの町の先はいくつかの洞窟と本山の火口があ・・・」

 「おれは火口に用事があるだけだ。採掘に興味はない」よ、良かったー。内心の冷やさせを押し殺した。

 「要らぬ心配でしょうが、お、お気を付けて」

 「フンッ。お前はなかなか話せるな。ついでと言ってはなんだが、数日の内におれを追いかけて来る勇者の一団が現れる。おれが通り過ぎたことを漏らすなよ。共に滅ぼされたくなくなば」勇者だと!追われていると言っても一見にして無傷。要はそういった存在なのだ。偽りなき魔王なのかもしれない。

 「りょ、了解です!」なぜだか無意味に敬礼してしまった。去り行く魔王を見送りながら、ノルドメスは町長への言い訳を考えていた。そうだ居眠りしていて気付かなかったことにしよう。

 そもそも魔王に殺されず普通に話をしたなどと話しても誰も信じまい。

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