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第47話

 「お、お姉様。何だかツヨシ様が怖いです。どうして蹴られて笑っているのですか?」

 「私たちものんびりしていると、直ぐにああなるぞ。それが負のカルマと言う物だ」

 「早く戻したいです」

 「大丈夫。ツヨシならやってくれる。さて、こちらも多少は忙しくなりそうね」

 「みたいですね。これまでとは桁が違います」

 謁見の間の4柱から、4体の魔物が捻り出て来た。

 左手に青き竜。右手に白き虎。前方に紅の雀。後方に亀。それぞれが中央で殴り合うツヨシとランバル目掛けて押し進んだ。

 こちらは2手、相手は4手。形勢は明らか。例え中央に辿り着けたとしても、弾き返されるのが落ちのような気がしてしまうが、魔王が吸収してしまう危険性は拭えない。今の所、中央は拮抗して見える。

 「ウィートは左と前をよろしく。私は残り。硬そうな亀は最後ね」

 「了解です!」ウィートは聖剣を背にしたまま、使い慣れた小太刀を抜き去り、一気に駆けた。

 それぞれ体躯が3倍以上、目測で6m程。力量は当たってみないと解らない。

 クレネは右手に飛び上がると、構えていた弓を解き放った。

 「暗転。乱の陣」発射と同時に三叉に別れた矢が二段になって虎へと飛んだ。しかし虎は身を翻して揚々に避けきった。着地と共に咆哮が響く。「所詮は猫。甘いわ!追の陣」

 虎が着地した場所に向かっての追撃。同様に避けたが、今度の矢は通り過ぎた後にも追撃の手を止めなかった。折り返した矢が後ろ脚に突き刺さった。再度の咆哮には叫びが混じる。

 ウィートは竜の爪を避けつつ、腕の甲部に小太刀を押し当てた。案の定刃毀れする小太刀。

 「チッ、時間は掛けたくないのに」懐から紙製の筒を取り出して、竜の足元に転がした。

 「火遁・絶苦!」小太刀を投げ捨てた左手から放たれる炎柱が、転がした筒を捉え、急激な爆炎となって竜を包んだ。

 苦しみ藻掻く竜が、水のブレスを吐き出しその身に纏う炎を消し去ろうとした。こちらへの注意が逸れるのを見届け、背にする白き聖剣を首後ろから引き抜いて抜刀。

 竜の背後に回り込み、尾根から背中を駆け上り聖剣で後頭部を貫いた。切れ味は予想外に鋭く、鍔までめり込み右の眼球まで押し出した。垂れ流す水ブレスに竜血が混じった。

 「うぉぉぉりゃぁぁぁ」力任せに聖剣の柄を逆手に握り倒して、竜の首を左に向かせてブレスの端を流し当てた。「水遁・苛烈!」

 竜のブレスに自分の水術を加え、紅に染まる鳳凰の衣を削ぎ落とす。序での弱体化には成功したが手前の竜が未だ滅していない。返り血を浴びた衣服と顔が酸で焼かれた。籠手諸共焼かれても剣から手を離さず、更に操縦を加える。進路を変更した鳳凰が目前まで来ていた。

 両後脚を封じられ、怒りに狂う虎がクレネに牙を剥いた。その目は真っ赤に染まっている。

 「あら、三下崩れが魔王の真似事?低レベルで操れる訳ないのに」低級の傀儡により肩に違和感を覚えたが、そこまでの苦痛ではなく肩凝り程度。「弓がお嫌い?」

 距離を取り、後方へ飛び退きながら三撃。直線に飛んだ矢は正確無比に、虎の両目と狭い眉間を深く捉えた。短い咆哮と共に塵と消えた虎の右手に、鈍間な亀が現れた。

 「さてと、どうしたものかしら」魔術は極力控えたほうがいい。しかし矢では通りそうにない。歩行の遅さは巨体でカバー。足止めする手段が真っ先には浮かんで来ない。

 風水土の耐性を持つのは亀。火が有効だが敵鳳凰はウィートが無効化に成功している。召喚で呼び出せる武具には剣も常備させてはあるが。

 「上がダメなら、下からってね」亀の側部に回り、硬い甲羅の端を両手で掴んだ。膝を軽く畳んで腰を入れて、全力で持ち上げひっくり返した。反転した亀。その腹に現れたのは。

 「あら、貴方雌だったの?興味ないけど」腹に飛び乗り、掌手で突貫を開始した。スッポンの生き血は滋養強壮に効くと聞くが、魔物で亀ってどうなのだろう。少しだけ疑問が湧いたが、返り血は気にせず素手で解体していった。何しろ巨体。臓物取りも一苦労。亀の心臓など解らず、手当たり次第に毟り取った。手足や首が暴れ狂ってみても、所詮は裏返った亀。

 多大な返り血で全身を赤く染めたクレネを残して、亀は何も出来ずに消え去った。間を置かずに激化の一途を辿る中央を迂回して、鳳凰の背後に迫った。

 最後の抵抗を見せる青竜が、後部に乗るウィートを振り落とさんと首を左右に振り乱していた。

 身軽な体重が仇となって、容赦なく振り回される。

 剣が芯を捉えるのが早いか、振り落とされるのが早いか、鳳凰の攻撃が早いか。はたまた竜が落とした目玉が虫に成るのが早いのか。

 「私だけ、足を、引っ張る、訳には。火遁・伝堆」堆積する火柱が、手を伝い剣を伝い、竜の脳みそを焼き貫いた。途端、制止する竜は目玉と共に爆散した。飛び散った返り血も綺麗に蒸発して消えた。

 鳳凰を振り返ると、なぜか吐こうとしていた火を喉に溜めたまま仰け反って苦しんでいた。その背中には無数の矢が刺さっている。

 「私たちの世界では、空飛ぶ鳥は唯の的。竜種でもないなら怖くもないわ」

 「流石、お姉様!」キラキラと輝く熱い瞳で、後方のクレネを見詰めた。

 「あ、ウィート。後で水芸お願いね。亀の血が気持ち悪くて」

 「お姉様。芸ではなく、方術でございます・・・」

 消え行く鳳凰を間に挟みながら、ウィートは少しだけ泣いた。

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