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第45話

 硬い硬い鱗に覆われた紅竜。元の少女の姿からは想像も出来ない、大きな体躯。

 強固な爪、頑丈な尾、全ての理不尽を形にした者。それが竜族。古き伝承の中で存在自体が幻となって数百の時を数える。元々個体数が少ない上に、上位ともなれば人の姿にもなれる。詰り発見が非常に難しかった。狙われると解っていて、自ら名乗る馬鹿も居ないだろう。

 か弱い人間が徒党を組んだ所で、本気の竜を討伐出来る訳もないのに。命知らずな冒険者たちは伝説の竜族を倒そうと躍起になった。狙っていたのは、何時の世もまだ幼い子供たち。幼き無垢に剣を向け、魔術をぶつけ、冴えない勝利に沸き、酔いしれた。

 私たちは勇者のパーティー。そんな愚劣な手は取らない。乳飲み子の何人かを人質に取るなど、野蛮な悪党に成り下がる積もりは毛頭無い。

 目の前にするは紅竜。竜族最上位にして、魔王としての力が加わり、最早人類では届かないのではないかとさえ思える。

 「生温い攻撃じゃの。空を飛ばんでやっているのに、我の鱗に傷一つ付けられぬとは」

 そう彼女は空を飛んでいない。飛翔可能な両翼が健在だと言うのに。戦力差は明白だった。こちらは全力で向かい、皆の盡力は残り少ない。そこまでして尚、彼女の鱗一枚剥げないとは。

 「何を言っても、言い訳にしか、なりませんね」肩で息をして、無理矢理返答を返した。

 「ここは一旦退こう」後ろからアーレンの声がした。彼らも限界を訴えている。

 「劣は私たちですが、ここは、一時休戦としたい、のですが」

 「我は構わんぞ。また来ると良い。子らの世話もしたいしの」

 「話が通じる相手で、有り難い」私は剣を納めた。彼女もまた人の姿になっている。今夜はここまでと考えて相違ない。

 「あの男。スケカンはどうした?」彼女は遙か彼方の夜空を眺めて呟いた。

 「彼なら、南の魔王の所へ、向かいましたが」切れた息が整わないので少し気恥ずかしい。回って来た水筒に口を付ける。必要な水も残り少ない。

 「そうか。あやつの所へ。強過ぎるのも、難儀なものじゃの」

 「どういう、事でしょう」

 「何かを、踏み誤って泣いておる。後悔や懺悔の声が聞こえて来る」彼女は現在の彼の状況が解るらしい。そこにどんな繋がりが在るのかまでは計れないが。

 「貴方は、スケカン殿と戦ったのですか?」

 「聞いておらんのか?初見で我の肢体を簡単に斬り捨てた、と言えば解るか?あれは戦いですらなかったよ。20の仲間も瞬殺であった。魔王の力が無かったら、復活も難しい程にな」

 仲間たちと共に、絶句するしかなかった。戦力にそれ程の開きが在ったと言う事実に。

 「そ、そんな彼が、何を?」

 「ここからでは解らぬよ。ただ何となくじゃが、どうやら意図せず大量の無垢を殺めてしまったようじゃな。過大な物を放ってしまったのじゃろう」

 「過大な、物?」

 「どうやら得意な魔術でもないらしい。数十万の軍を一発で消し飛ばした代わりに、巻き添えになった無垢が居たといった処じゃな」彼女は虚空を指でなぞって何かを書いていた。

 「何をしているんですか?」

 「まぁ気にするでない。ちょっとした呪いのような物だ。心を通わせた者同士が、互いの位置を知るような、そんな呪いじゃ」

 解らない。理解に苦しむ事ばかりだ。スケカン殿と心を通わせたとか。だから彼も手を貸せないと言っていたのか。それよりも南の魔王は軍勢を持ち、彼は一発で消し飛ばしたと言う。自分であったらどうしていただろうか。数十万の軍勢に対し、たったの5人で。

 彼女は、虚を書くのを止めた。

 「全てを知っても理解はし難い。私自身もこんな気持ちになるなどと。魔王に堕ちた時に捨てたはずの心であったと思っていたのにな」

 「色々とご助言感謝します。ですが、自分の能力を敵である私たちに教えて宜しいのですか?」

 「全く負ける気がしないし、お前の剣には迷いを感じたからの。因みに私の能力は、超再生と超回復である。ちょっと斬ったくらいでは、私には届かぬぞ」魔王に関して、ある程度の情報は出発前に与えられている。しかし超再生とまでは聞いていない。どうやって倒せと言うのか。教皇様よ。これでは私たちに死ねと・・・、死ねと言っているのだ。

 「迷い、ですか・・・」

 「ヒントはスケカンも幾つか与えていると思うぞ。それが出来るかどうかは、お前の覚悟次第じゃ」

 覚悟はしていた。積もりになっていた。

 「彼からの、ヒント?」正直思い当たらない。また私は重要な話を聞き逃したのだろうか。

 「幾つか思う所もあります。思い詰めないで、グリエ」

 「ここはお言葉に甘えて、さっさと離脱しよう」メデスが後ろに向けて指を立てた。

 「有り難う御座います。行きましょう。そして、また来ます」魔王に一礼して背を向ける勇者。この滑稽さは日誌には記せない。省みた彼女の表情が、何処か寂しそうであったのも記してはいけない。恐らく、並び歩く私とガレストイを見ていたのだと思う。

 神は何時も残酷で、無慈悲である。勇者とは何なのか。魔王とは何なのか。答えは導けない。それが私の迷いに繋がっている。それだけは唯一解った。

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