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第42話

 思わぬ邪魔は入ったが、恐らくあれが教皇に違いない。

 「飛んだ邪魔入ったが、まぁ問題なしだ」

 「・・・貴様、いったい何をした」それでもゲップスの身体は動かない。口だけが歪に動き、浮かべる表情にも余裕が無くなっている。

 「何を?今の事か?それとも、外の事か?お前の援軍は、残念だったな。精々嫁さんの逆鱗には触れるなよ。これは単なる忠告だが。こっちから出向いてやるから、汚い首でも綺麗に洗っておけ」

 「抜かせ人間風情めが!!」

 言動程に俺にも余裕は余り無い。時間を掛ければ体力も回復はするが、失われた血は直ぐには戻らない。損失の足しにしようとBOXの中を覗いた・・・。

 「あぁん?てめぇ、飲みやがったな!」右手の魔剣が震えている。犯人はこいつと堕天使しか居ない。貯蓄分の上級ポーションが、根刮ぎ消えていた。

 「私は何も飲んではいないぞ」

 「お前じゃない。この豚野郎だよ!取り込み中だ。気安く話掛けるな!」魔剣を頭上に振り上げ、硬い床に打ち付けた。何度も、何度も、何度でも。数十回繰り返すと、刃先の一部に刃毀れと亀裂が入った。更に何度も何度も何度でも。手癖の悪い悪党に、容赦などは必要ないぜ。

 周囲の床が穴だらけになり、下の階層が顔を覗かせた。まだ無事な箇所を見付けて、勇者に斬って貰った魔石の片割れを・・・、繋がっている!犯人確定。魔石を取り出して床に転がした。

 数回足蹴にして、床にめり込ませてその上に魔剣をぶち当てる。何度も何度も何度でも。

 俺は餅でもついているんだろうか。あぁ、お餅もいいなぁ。こいつら潰してさっさと中央行こう。

 「あっ・・・」魔石に皹が入ったと同時に、魔剣の刀身の先端部が折れた。気に病む事はない。汚物は排除に限る。ご主人様の言う事を聞かない豚野郎にこそお似合いの姿だ。いい加減に、本物の豚さんに謝れや。顔だけ似ていて済みませんと!

 骸が外れて平坦になった柄の先で、追加の折檻を開始した。ゴミはゴミらしくゴミ同士仲良く・・・。そのゴミを無理矢理預けられた俺って・・・。久し振りに女神に対して怒りが沸いてきた。

 打つ、打つ、打つ。ただ我武者羅に、遮二無二、一心不乱に。俺は今ラッコになった。

 「許して・・・剛・・・お願い、私の話を聞いて・・・」懐かしい声が頭の中に響いた。

 「駄目だ!茜、お前は帰れ。元の世界に」原型を留めない魔石が僅かに輝いた。

 「私、ずっと待ってたんだよ。剛が目を覚ますのを」思わず打つ手を止めてしまった。

 「もう諦めろ。おれはもうこっちで生きると決めた。おれには不相応な嫁さんまで貰った。元の世界に未練は無い!」本当に未練はないのだろうか。あの先に在ったはずの幸せは・・・。

 「私は、諦めたくない。剛を救わないと、私ももう戻れない。それが、女神様との約束だから」

 クソったれ女神。どれだけ俺を弄ぶ気だ。関係の無い茜まで巻き添えにしてまで。転移前に交わした約束は、無効だとでも言いたげに。嘲笑っているかのように。

 いいだろう。面白いじゃないか女神様。そっちが約束を守らない気なら、こっちにも考えがある。

 「茜。この魔剣の鞘になれ。出来るんだろ?」

 「うん。出来る。それが私の使命だから。そして、これからも剛の傍に置いて」これ程までに愛されていた。そうとも知らずに、元の世界との繋がりを断とうとしていた自分。俺には彼女の気持ちに応えられるだけの価値はもう無いのだとしても。彼女だけは帰してやろうと、そっと心に決意した。

 魔神を倒す。その理由がまた重なった。

 完全に魔石が崩れ去り、本来の魔剣の丈に合った大きさの茜色の鞘が現れた。ボロボロの魔剣をその鞘に収めて、腰のベルトに巻き付けた。

 「また待たせたな。今度は止めててくれて感謝するぜ。ゲルトロフ」

 「・・・スケカン。俺ごとその魔剣で、魔王を討て・・・」ゲップスの意思が表に現れた。

 「それは出来ない相談だ」

 「なぜ・・・。魔王と繋がっている今なら、奴にもダメージが入る、のに」

 「だからこそだよ。これ以上、この豚野郎に魔王の力は吸わせない。それは今さっき決定した」

 ゲップスは身体の硬直を解き、膝を崩して床に転がった。

 「勝手な事ばかり言いおって。ここは大人しく引いてやろう。だがこのままで終わるとは思うなよ」

 「小物感満載だな、それ」

 「・・・」最後は無言の返答だった。

 魔王の呪縛を解かれたゲップスが、大量の汗を吹き出し、呼吸を荒くしていた。手持ちのポーションも無いので、どうするでもなく隣に座った。仮に薬があったとして、削られ過ぎた魂にまで癒やせるかは疑問だった。そこまで都合の良い魔術も無い。

 魂や生命自体に干渉可能な魔術。蘇生関連。或いは魔法ならば在るのかも知れない。その他の攻撃系の魔術と違い、魂などのイメージが湧かない。出来ない物は詰りは出せない。俺は生命の死に対しては無力だった。それは神のみぞ知る術であるかの如く。

 「女神よ!これ以上の干渉は許さない!約束は果たす!だが全部終わったら絶対に、追加注文するからな!」天に向かって叫ぶ。届かなければ、大きな独り言。

 「・・・女神か。まるで会って来たかのような口振りだな」

 「あんたも、きっともう直ぐに会えるさ。それくらいの些細な責任は果たすだろう。だって本物の神様なんだからさ」

 「そいつは、楽しみだな・・・」ゲップスの力なく伸ばされる手を取った。「最期に妹の顔が見れただけでも、良しとするか」

 「やっぱり意識はあったんだな」

 「あぁ、自覚はあった。意識は、見果てぬ夢に駆られて馬に飛び乗った所まで、だったかな。済まないが、ウィートの事を頼めるか?それと、伝言を」

 「いや、それは自分の口から伝えろよ」

 振り返ると、離脱していた2人の姿がそこに在った。直ぐさまウィートが反対側に駆け寄った。

 「兄様・・・。遅くなりました。これを、上級ポーションです。甘くて美味しいのですよ・・・」

 俺は瓶の蓋を開けようとした彼女を止めた。

 「もう薬は手遅れだ。これ以上は苦しめるだけだぞ」

 「でも、でも・・・兄様。私を一人にしないで。どうか、お願いします」彼女は零れる涙を拭いもせずに懇願していた。覚悟はしていた、はずだったのにと。

 「ウィート。お別れだ。魔王を討て。それがお前の本当の自由とならんことを、いの・・・」続く言葉はもう聞こえることはない。彼の瞳孔の開いた瞳を閉じた。その眼に最期に映った者が、最愛の妹であったのは、きっと幸せであったのだと信じよう。

 「後悔するな。2人とも魔王に操られていたんだ。その魔王は勇者に討たせるが、その周りの魔族はきっちり殲滅する。だから、もう泣くな」

 「はい。私も共に戦います。足手纏いになったら容赦無くお切り捨てください」

 「構わないが、無理はするなよ」

 「捨てはしないぞ。折角拾ったペットだからな」ぺ、ペット!クレネさんの目が本気に見える。

 「はい、宜しくお願いします。お姉様。ツヨシ様」納得してる!淡い百合色な主従関係が2人の間で成立しているようだ。下手に触れると厄介そうなので、そっと見守りましょう。

 ゲルトロフの遺体を棺に入れ、火葬を施した。今回の魔王に死霊系のスキルは無さそうだが、死んでからも操られたくは無いだろう。

 軽くなった骨壺を城の地下に在る、歴代王家の墓に納めに行った。

 「これは・・・」遺骨の納骨も終わり、出発しようとした矢先に、大きな墓標に隠れるように突き立てられた白き一振りの剣があった。傍らには鞘まで用意されている。これを持って行けと言わんばかりに。

 ウィートがその剣を掴み取ると、白い輝きが増した。その輝きは、勇者が持つ聖剣と似ている。

 「ち、力が漲って来るようです・・・」

 「グリエールを、待ってる必要ないかも・・・」「みたい、だね」俺とクレネは一時だけ、小躍りするウィートを見守っていた。

 城下町に下り、それなりに活気のある宿に3人で泊まった。町は何事もなかったように、内外で起きた事など全てを流し去っている。気持ちの悪さは拭えなかったが、盡力回復の為には休息は必要なので、結界を幾重にも張り巡らせて、その夜は眠った。

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