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第41話

 中央大陸。聖都、イスカマルダール。第一都市、大聖院。奥の院。

 大きな祭壇に座する者は、教皇と呼ばれる頂点。手前に控えるは、最上の神官の男。恭しく跪く神官が、座する頂点その人を仰ぎ見た。

 「勇者が、東と当たったようですな」

 「その様だな。運良く竜を退治出来たとしても、次は南。あれは人間では決して勝てない。順調順調。あの方もさぞお喜びになるだろうて」

 「それでは、いよいよなのですね?」

 「いよいよだとも。我らの悲願が叶う時は近い」

 薄く笑い合う2人の耳に、地を荒々しく踏みならす雑音が入った。

 「ご報告します!」

 「何だ、騒々しい」ここは神聖な祭壇であると言うのに。

 「南大陸の魔王ランバルと、何者かが戦闘に入った模様」

 「何を馬鹿な事を」教皇は一人鼻息を荒げた。即座に手を振って伝令を下がらせようとした。

 「戦況は?」神官は冷静に、身を起こし掛けた伝令に訊ねた。

 「魔王軍の先遣隊、約5千が一の時足らずで壊滅したと」

 「な、何を、馬鹿な・・・」

 「相手をしたのは、何人だ?5百か?千か?」

 「いえ。たったの2人、だと報告が上がりました。それも人間とエルフの女だと」

 「な・・・」教皇の喉からはもう声が出なかった。

 「たったの2人?しかもエルフがどうして人間の味方をしている。情報を精査し正してもう一度持って参れ」

 「はっ!」今度こそ伝令が退出した。

 重い空気と沈黙が、2人の密やかな喜びを奪い去った。

 エルフは差し置いてでも、人間の勇者でもない女が魔王軍と同等以上などと。

 「笑えぬ冗談だ。ランバルの軍は総勢10万以上と聞いている。たかが先遣の露を払おうと、本陣にはまだまだ駒は在るはず」

 「そうでしょうな。例え魔王が討たれても、聖剣でも無い限り復活は必然。現在勇者は東に居る。南の優勢は変わりませんでしょうな」

 今、南の魔王と対峙する者が、失われたはずの魔剣を手にしている事実を2人は未だ知らない。

 「しかしだ。不測もまた必然。これ以上の後手は許されない。遠隔視の術の準備をせよ」

 「はっ!皇の仰せのままに」

 一時神官が退出している間、教皇は一人で今後を思い描く。何がどの様に進もうと魔神の復活は揺るぎない。他神の邪魔(遊戯)でも入らぬ限り。我らが崇める主神はただ一方。

 聖院歴700年にも届く聖神教の歴史。流布と刷り込みの歴史。地道な作業の連続、伝承を紡いで来た。現教皇で24代目となる。魔(真)神の現世復活を夢見て、隠し続けてきた長い歴史。

 教皇は高い祭壇に座り、神の代与の象徴として代々君臨してきた。しかし今正に、座の上で嘗て感じた事のない不安を覚えて教皇は身震いしていた。

 何だと言うのだろうか。

 「皇よ。お待たせしました」神官が大きな水晶を手に戻って来た。

 「発現せよ。私にも見えるようにな」「はっ」

 神官は水晶を祭壇の前に置き、跪いて両腕を大きく広げた。

 「来たれ風の精魂 我らに見せよ 求むる遠景」忌むべきエルフ種が得意とする風の精霊を強制的に呼び出し、彼方の魔王の意識を辿った。無限に近い支配の意識。その網を辿るのは、いくら最上位の神官と言えど、盡力の大幅消費は免れない。教皇の命は絶対である為、拒否は有り得ない。

 ランバルの最太な主意識を捉えた。後は気付かれないように目線の先を辿るのみ。神官は大きく息を吸い込み、吐き出した。吐き出した白い吐息に、ランバルが見ている景色が映る。

 禍々しき鉛色の剣を手にした一人の男を見ていた。

 「・・・あれは、魔剣か!」

 姿から普通の人間である印象を受けた。満身創痍ではあるものの、男の表情には余裕を感じる。その魔王と対峙する男と、目が合った気がした。声までは聞こえない。

 男の口の端が持ち上がる。そして。「バーカ」とこちらに読めるように口を動かした。後、男は徐に左手をこちらに向けた。

 「止めよ。中止だ!」

 「直ぐには無理で御座います。あ、あれは・・・カウンター」男の手が握られると同時、鎮座する水晶が砕けて神官の右眼が吹き飛んだ。その勢いを抑えきれない神官の身体が後ろに崩れ、彼は意識を失い仰向けに倒れた。

 「ザッハム!リラを治療に回せ」教皇の影から一人の男が浮き出て、負傷した神官を抱えた。

 「御意に」

 「今のを見ていたな。直ぐに奴を殺せ。手段は選ばん。どんな汚い手を使ってでも必ず殺せ。勇者は放置で構わない」

 「御意に。ロメイル様」

 教皇の命令は絶対である。拒否も否定も許されない。ザッハムは教皇の影であり護衛。聖神教の暗部の頭。護衛の任を解き、勇者を置いて、先の男を殺せとの命を受けた。

 「殺す?絶対、無理!」との気持ちを胸に秘めて、祭壇の奥院を退出した。リラを治療院の担当神官に投げ付けながら、ザッハムは思考を巡らせた。

 あの男が捉えていたのは、リラだけではない。教皇も、後ろに控えていた自分も捉えられたと見て間違いないだろう。魔剣を扱える人間は、教の歴史、長い人類史の中にも存在しない。そんな脅威の化け物を害する利も手段も浮かばない。まして男の後ろには、賢人種の影まで見えると言うのに。

 「あれをぶつけるしか手はないな」持てる手駒は数あれど、化け物にぶつける相手となると、たった一つに限られる。化け物には、化け物を。

 裏通路を進むザッハムの足取りは、非常に重かった。

ここまでで大半の登場人物は出せたかなぁ

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