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第40話

 勇者であるが為に。私は聖剣を振るう。全ては魔王を討つのみと。己が使命を果さんと。そこに迷いを持つならば、この命は潰えるのだろう。

 それでも尚、目の前に広がる光景は、私の心を容赦無く激しく揺さぶった。

 「暫し待たれよ。勇者よ」

 「な・・・」尋ね返さなくとも理解は至極簡単だった。

 自分よりも幼く見える。少女のような姿をした魔王は、その胸を開けて授乳中だった・・・。柔らかな布に包まれた、無垢な6人の赤ん坊。神々しい母の姿がそこに在った。

 後方の仲間たちは、その光景に背を向けて一旦広間を離脱していた。私だけを残して。居たたまれなくなった私も、剣を納めて一旦外へ出た。

 「どうすれば良いのでしょう。ガレース」

 「困りましたね。本当に困りました」皆も心底困った顔をしている。私自身も困惑が隠せていない。

 「スケカン殿が言っていた言葉の通りですな」アーレンが彼の言葉を語る。正に言葉通り。

 「出来れば、子供たちは助けて欲しい。・・・でしたね」彼は同じ光景を目にし、今の私たちと同じ気持ちを抱いたに違いない。あれでは、どうあっても討てない。強弱の問題ではなく、精神的にだ。

 赤ん坊の泣き声が聞こえる。連鎖しながらも、それをあやす母の声も。私は耳を塞いでその場に蹲った。「無理です。私には、無理なの!」これではまるで。それはまるで。

 「私たちが、悪者ですね。完全に」ガレストイの手が私の肩に置かれた。いつもは冷静さをくれる優しい手の温もりも、今だけは何の解決にも至らない。私は現わしようのない怒りに染まった。勿論仲間にでもなければ、スケカンさんでもない。この堪え難い現実を用意した、神様に対しての怒り。

 この身に課せられた使命。勇者としての意義。それは今、重たい足枷でしかない。

 「正直に言います。私は逃げたいです」これが試練だとしても。

 仲間たちは頷くだけで、何も返してはくれない。

 「それで、困るのはそちらだぞ」魔王の少女が自ら出て来た。私たちを見回しながら、溜息を吐く。

 「私たちが?」

 「お前たちの主となる者がどう言っているのかは知らないが、ここで我を倒さねば、この我の力はそのまま魔神の物となる。返還されるとでも言えば解るか?」

 「力の、返還?」そう言えば、ブシファーも似たような話をしていた記憶がある。

 「お前は何も知らぬままに、魔王らを討っているのか」

 「各大陸の5つの魔王を打ち倒した後に、説明されると、聞いています」今更ながら教皇に言われるが侭になっている事に気付かされる。スケカンとの会話で疑わしいとは思っていたが。しかし現状では彼の指摘どおり何の確証も、断ずるだけの持ち札も無い。疑念は疑惑へと変化した。

 私は本当に、何をさせられているのか。

 魔を滅ぼす。それは人類の悲願。嘗ての勇者たちは、魔神まで後一歩まで迫りながら、その命を散らした。その戦いの結果だけが残されていた。どの様に亡くなったかまでは残されていない。私たちが辿るかも知れない道。破滅への道筋。

 「私は・・・、私たちは、もう戻れない」仲間たちの顔を見やり、再び抜刀した。

 「それは、諦めか?」

 「いいえ。覚悟です。私なりの。ここで貴方を討ちます!」遠くから赤ん坊たちの声が聞こえた。魔王は一瞬だけ振り返った。

 「赤子だけは、見逃してくれ」

 「承知しました。私たちは魔を討つ者なりて、無垢を滅ぼす者ではありません」

 「その言葉、信じるぞ」少女は後方に飛ぶと、本来の竜へと姿を変えた。神々しい。母のそれとはまた違う強さ。紅く猛々しい、全身を覆う分厚い鱗、太い腕脚と長い尾。隆々と脈々と。

 「今持てる全てで応えましょう。いざ、参る!」「おー!!!」呼応する仲間たち。手にする聖剣も輝きを増して。迫り来る灼熱のブレスを斬り捨てた。

 私たちが勝てたなら。何時の日か、あの子供たちに伝えよう。貴方たちの母は、世界最強の竜王でした、と。

早過ぎだろ!というツッコミは覚悟の上で。


だって爬虫類って卵でしょう。暴論


なぜ母乳なんだ!というツッコミも甘んじて。


だって母性の象徴と言えば・・・無理矢理です

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