第33話
「あれ?」マップを見ていて、思わず驚きの声を上げてしまった。
「ん?どうしたの?」隣のクレネが寄り添い、マップを覗いた。
「師匠が・・・消えた?」北の大陸に在った、ブラインの青色が消えた。確かに消えたのだ。勇者一行が離れた後に。
「おじさんが・・・、勇者に?」肩に掛かる腕が強張っていた。
「いやそれはないだろ?暫く様子を見て、機会を作って訪ねてみよう」本当は、今直ぐにでも行きたいのだが、魔王が接近中の現在ここを離れる訳には行かない。
「・・・うん。解った」渋々と言った表情を浮かべるクレネの頭を撫でながら。「師匠が勇者と戦っていたとしても、あの人が負けるような場面が浮かばない。ここで待っていれば、魔王も勇者もきっと来る。おれの予想が正しければ・・・いや絶対にだ」
「うん。ツヨシを信じるわ」心底ではないが笑い返すクレネに、軽くキスをした。
「おれを信じろ」確証なんて無い。先ずは勇者に会ってみてからだ。「勇者とは、ここで会おう」
避けられぬ邂逅。遅いか早いかだけ。これ以上の引き延ばしは、得策ではない。自分が女神の盤上で踊る道化だとしても、それを覆せるチャンスは何処かに有るはず。それが全く用意されていないのなら、それはもうお遊戯ですらないのだから。
「これからのおれの選択は、よりシビアになるな」
「ツヨシなら、絶対大丈夫。だって、私の旦那様だもの」
「ああそうだな。何よりも愛しいクレネを、悲しませないって誓ったんだからな。師匠に」力強く抱き締めて、再度のキスをした。何度重ねても、いつも新しい幸せが溺れる、温かいキスだった。
「ステータス」今確認すべき人は。
グリエール・シーマス ?シーマス?お、結婚した!?勇者ルート消滅か!ちょ、痛いってクレネ。
職種 真勇者 魔を滅ぼす者 真・・・なら、偽が居るのか?
レベル 115 腕力 276 体力 302 盡力 189 胆力 201 素早さ 250
精神力 331 精力 103 カルマ +999
スキル 剣術(聖院流、上級)、魔破、献上、分配、団結、精神力向上、神速、
雷術(聖院流、上級)、洗浄(我流、中級)、鎮魂、導師、
全状態異常耐性、熱冷気操作
やっと見えるようになったと思ったら・・・。ブシファー何処行った?鎮魂と導師が憑依と従属に当たるのかな。魔王の力をそのまま持ってる俺って、魔王なの?クレネ・・・今よしよしするの止めて。
カルマがカンスト(予想)している。真勇者すげぇな。何気に雪男兄さんのスキルも変化させてるし、将来的な展望は未知数。俺は何処まで食らい付けるのか。共闘って手も・・・ありだな。すでにルートは消えているので、これは王道展開ではない!クレネさん・・・何でガッツポーズ??
3Sは見えなくなりました。人様の嫁の3S見て喜ぶようなゲスではないのさ。
俺たちのレベルは、それぞれ2上がっただけで、上げ値は誤差の範囲なので割愛。上限値も大凡解ったし。その他特に変化無し。・・・正妻!?く、クレネ様が正妻に激怒。な、何で?張られた右のほっぺが鬼熱い・・・。ん?ハーレムルート?ああ、大丈夫だって・・・たぶん。いや、泣かないで~
説得にも似た謝罪をする、非常に熱い夜へと突入した。
翌朝。勇者様御一行は一旦聖都方面に向かう模様。報告と休養は重要だもんね。ブラックKじゃないんだからさ。・・・俺待ってていいのかしら?と、その前に。
すでに魔王が玄関先(里への入口前)まで来ていた。綺麗なピンク色を引っ提げて・・・。あんな厳ついドラゴンに、もしも好きだと言われたら・・・死にたい。
「問題無い。今度は私が殺す。絶対に!」クレネが颯爽と飛び出して行った。慌てて追い掛けるが、見た事もない速さで追い付けない。
「駄目だってクレネ。無闇に殺したら」
「ツヨシも次は倒すと言っていたじゃないか」
「そうだけどさ」入口寸前で漸く追い付いた。
息巻いて暴れるクレネを抱き留めながら、里を捻り出た。すれ違った早起き里民さんたちも、何だ何だと数人付いて来てしまった。忘れてしまっていたが、里民さんは全員洩れなくステが人外だったのだ。事が予想外に大きく変化して行く。
「はじ・・・いや、二度目になるな、人間よ」全身ずぶ濡れの黒髪美少女が立っていた。平然と。
「帰れ!呼んでない」クレネが食って掛かる。のを横目に。「魔王?で、いいのかな?」
「如何にも。魔竜王ゴライアイスで相違無い」平然と整然に、腕組みをする少女。誰かと似たような尊大さを感じる。でも、それ以前に。
「・・・それで、そのお召し物は?」彼女のお召し物は、海藻でした。極太ワカメが全身に巻き付けてある。豊潤と漂う磯臭さ。
「時間が無かったのでな。有り合わせだ」「マジっすか・・・」そのチョイスに脱帽。先進気鋭のファッションデザイナーも飛んで逃げるぜ。
「適当に見付けた人間共を殺して奪っても良かったのだが、返り血塗れでここに来てしまっては、前回の二の前になると思ってな」
「殺さずに奪うだけでは駄目だったの?」少女が驚愕の表情で目を剥いていた。その手があったのか!と額に浮き出る程に。顔に書いてあると言い換えても良い。海産物少女に衣服を剥ぎ取られる村町娘たち・・・実にシュールだ。
「・・・用件を言おう」少女がゆっくりと腕を突き出した。ワカメの隙間から!!身構える俺たち。と里民さんたち(観客追加中)。後ろが少し騒がしい。「なんだ?」
「我は子種を要求する!」「・・・なんて?」紡がれる無言の伝承。周囲が静まり返った。
「難しいか?私を抱け、人間の男よ」「・・・」伝承は昇華し、そして伝説へと。意味が・・・。
「子が欲しいと言っている。お前のな」少女の指は間違いなく俺の方向を指差している。おれはそっと後ろを振り返った。里民さんたちが・・・居なかった。懐かしいな、この感じ。
「話が・・・見えないんですが?」
「だから、後生だ。情けをくれ」ワカメに溺れた少女が、地面に三つ指を着いている。あれ?ここって海底だっけ?
「私はこれの妻である!その私を差し置いて、ほざくなよ魔王!」
「ほぉ。貴様を倒せば良いのだな」
「クレネが怪我したら、君の首刎ねるけど?」
「・・・すまんな。少々過急であったようだ」大人しく手を引く少女。
「よくも抜け抜けと!」
「では、3人で子作りをしようぞ。一晩で良い」こ、これ以上は危険だ。大人のカテゴリーへ引っ越せと別の神様の声が聞こえて来そうだ。そっちのゾーンへ突入する気は・・・。思考を飛ばされたクレネが良からぬ何かを考え始めている。このままではいけない、本当に本気で危険だ。
「断る!」曖昧にしていてはいけないぜ。紳士を語るなら。
「・・・そうか。こんな事なら、魔王などに成らなければ良かった・・・」少女は深く目を閉じた。
「自分で、選んだのか?」
「我が種の繁栄。それは我らの悲願。一族には、もう女形は私だけになった。郷には老いた者しか居ない。比較的若いのは、先日誰かに割られてしまったからな・・・。それこそ、恨みがましいと言う物だな。すまない。私は達する事も叶わない、夢のような戯れ言に負けた。人の形に端があるのなら、端からそちらに願いを持つべきだった。やはり、これは後悔だろうな」
少女は自分の両腕を眺めていた。心情や真相を推し量るのは俺には難しい。それでも何となくだが、彼女の言いたい内容は理解出来た。「そうするしか、手がなかったんだよな?」
「・・・いや、その他の可能性を無駄に放棄した。と言うだけの話だよ」悲しそうに笑っていた。
「君が、もし・・・違うか」仮定の話をした所で、何を言おうと無駄なのだ。きっと彼女が聞きたい言葉ではない。
「もしもか・・・。悲しい言葉だな、本当にの。最後にお前たちと話せて良かった」
少女は腕を組んで、大きく頷いた。「最後?」
「私は魔王。勇者と相対する存在。成ってしまったからには、自ら選んだからには、逃げる訳には行かない。お前がそうであれば良いと思ったが、そうではないのだな?」
「ああ、違う。本当の勇者はもうすぐこちらにやって来る」
「その様だな。別れの前に、お前の名を教えてくれないか?」
「待て!お前がこれの名を知る必要は無い」クレネが横から遮った。「名前くらいで?」
「違う・・・。この選択が今後の命運を分かつなら」「クレネ?」
「敢えて、そう敢えてこの話に乗ってみるのも手ではないのか?」「どうしてそうなるんだ」
「こいつは魔王だ。しかし同時に一人の女でもある。正直言えば絶対に嫌だ。理解もし難い。同情は無い。でも少なからず、共感は出来る」横から表情を覗くと、大嫌いな苦虫を噛み潰していた。そんな苦渋を舐めてまで、選択すべき項目には思えない。ならなぜ?と問うのは野暮なのか。
「一晩、だけでいいのだな?」え?どして!?
「ああ、間違いない。今夜で実らなければ、命運だと潔く諦める」少女の瞳が輝いた。俺の意見は?聞かないみたいだね。それからは・・・皆頑張りました。大人の事情的訳あって詳しくは書けないけど、兎に角皆頑張った。俺はポーションをまた無駄遣いした!里からかなーり離れた場所にて。
今後一切、貴重なポーションを精力剤代わりに使わないとちか・・・、クレネ様が薄ら笑っている。怖い!魔竜王とお別れした後、俺たちのスキルには何が加わったのか。それは生命の神秘。生物の限界を打ち崩す不思議。永遠に解かれる事のない謎の一つ。
「クレネ・・・、真逆とは思うが・・・」
「そ、そんな訳ないじゃない(ウフフッ)」
登録者様ありがとうございます。
異世界物は数あれど、
暇潰し兼お楽しみ頂ければ幸いです。
感謝感謝